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第2章
【2-129】黒炎に抗う紅眼
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「いたぶりたければ、いたぶればいいのだよ。僕を傷めつけるのに時間を掛けてもらえればもらえるほど、キリエの生存確率は上がる」
刃を向けられても、ジェイデンは勝気な表情を崩さない。そんな彼に歩み寄ったライアンは、金髪の王子を冷ややかに見下ろした。
「君が死んだら、その後でキリエも殺す。生存確率が上がることはない」
「そりゃあ、このまま僕たち三人の状況が続けばそうだろうが。ここにブルーノの姿が無いということは、彼は君の意見に沿えなくなり、君は側近を手放したわけだ。かといって、殺したわけでもないのだろう? ……ブルーノは、リアムとマックスをここへ連れて来る」
「──それは、ただ単に君が希望しているだけだろう」
「ただの希望じゃない。可能性が高い予測なのだよ。ライアンはキリエを手にかけることを躊躇わないだろうが、ブルーノはそれが出来ない。彼はきっと、キリエの命を助けるために最善の道を選ぶだろう。つまり、夜霧の騎士を連れて来るはずだ」
ジェイデンは、キリエが持つ謎の性質について知っている。だからこそ、自信をもって予想を立てたのだろう。彼の仮説に従って考えれば、次期国王候補でも先代国王の血を継ぐ者でもないブルーノは、キリエに危害を与えることが出来ない。
しかし、その事情を知らないライアンは、それまでの無表情の仮面を破って怒りを見せた。
「どいつもこいつも、私ではなくキリエを選ぶというのか。何故だ。何故、世界は私を否定する……!」
恨み言を吐き出したライアンは、手にしている剣を振り上げる。ジェイデンは堂々とした眼差しでライアンを見上げたまま、黙っていた。
「これから、この剣を何度も振り下ろすことになる。命乞いでもしてみたらどうだ?」
「そんなことをするつもりはないのだよ。刺すなり、切るなり、好きにしたらいい」
「……っ、どこまで私を愚弄したら気が済むのだ!」
「ライアン! やめてください!」
キリエの制止も虚しく、ライアンはジェイデンの太腿へ剣を突き刺す。ジェイデンは痛みに顔を歪めて身体を震わせながらも、小さな呻き声を上げただけで、決して悲鳴は出さなかった。
「ジェイデン……!」
「大丈夫だ、キリエ。僕は、大丈夫だから……、おとなしく、しているのだよ」
本当は苦痛に耐えているのがやっとだろうに、ジェイデンはキリエを気遣い、微笑みかけてくる。ライアンは無言で剣を引き抜き、再度突き刺そうと、沈黙したまま振りかぶった。
そんな彼らの姿を目の当たりにしたキリエは、腹の底が熱くなったような感覚をおぼえる。全身の肌が粟立ち、そうかと思えば燃えるようにヒリヒリとし始める、その衝動は──怒りだった。
「ライアン! それ以上、ジェイデンを傷つけてはなりません!」
厳しい口調で言い放ったキリエの両眼は、本人に自覚は無いが深紅に輝いている。そして、三人の周りに強い風が吹き始めた。
「キリエ、落ち着け! 僕は大丈夫だ!」
兄弟の瞳が赤くなったのを見て、特性が発動したのだと察したジェイデンは声を掛けてきたが、既にキリエの自我は失われ始めている。威嚇するような細い雷が近くに落ちると、ライアンは蒼ざめて剣を投げ捨てた。
「やはり、あの人の言った通りか……! まさか、妖精人が実在するとはな」
「ライアン……? 何を言っているのだよ」
「この、化け物め……!」
普段の冷静さは消え失せて錯乱状態のライアンは、懐から鉱石のようなものを取り出し、頭上へ翳す。血のように赤く禍々しい石は悍ましい光を放ち、キリエへ向かって激しい黒炎を吹き出した。
強風がそれを打ち消さんばかりに吹き荒れるが、黒炎は負けじと勢いを増し、キリエの左肩を焼き焦がす。
「ッ、ぅ、ああぁ……!」
「キリエ!」
我を失っていても無意識に苦悶の声を発したキリエを案じ、ジェイデンが悲痛な響きで名を呼んだ。
ライアンは更に強く石を握り、再び黒炎を飛ばそうとしたようだが、キリエの特性が引き寄せたと思われる極細の雷のようなものがその手を貫く。
「クッ、妖精人の生き残り風情が──!」
ライアンの薄青の瞳とキリエの紅眼が鋭い視線を交わし、黒炎と暴風と雷が再度ぶつかり合った。
刃を向けられても、ジェイデンは勝気な表情を崩さない。そんな彼に歩み寄ったライアンは、金髪の王子を冷ややかに見下ろした。
「君が死んだら、その後でキリエも殺す。生存確率が上がることはない」
「そりゃあ、このまま僕たち三人の状況が続けばそうだろうが。ここにブルーノの姿が無いということは、彼は君の意見に沿えなくなり、君は側近を手放したわけだ。かといって、殺したわけでもないのだろう? ……ブルーノは、リアムとマックスをここへ連れて来る」
「──それは、ただ単に君が希望しているだけだろう」
「ただの希望じゃない。可能性が高い予測なのだよ。ライアンはキリエを手にかけることを躊躇わないだろうが、ブルーノはそれが出来ない。彼はきっと、キリエの命を助けるために最善の道を選ぶだろう。つまり、夜霧の騎士を連れて来るはずだ」
ジェイデンは、キリエが持つ謎の性質について知っている。だからこそ、自信をもって予想を立てたのだろう。彼の仮説に従って考えれば、次期国王候補でも先代国王の血を継ぐ者でもないブルーノは、キリエに危害を与えることが出来ない。
しかし、その事情を知らないライアンは、それまでの無表情の仮面を破って怒りを見せた。
「どいつもこいつも、私ではなくキリエを選ぶというのか。何故だ。何故、世界は私を否定する……!」
恨み言を吐き出したライアンは、手にしている剣を振り上げる。ジェイデンは堂々とした眼差しでライアンを見上げたまま、黙っていた。
「これから、この剣を何度も振り下ろすことになる。命乞いでもしてみたらどうだ?」
「そんなことをするつもりはないのだよ。刺すなり、切るなり、好きにしたらいい」
「……っ、どこまで私を愚弄したら気が済むのだ!」
「ライアン! やめてください!」
キリエの制止も虚しく、ライアンはジェイデンの太腿へ剣を突き刺す。ジェイデンは痛みに顔を歪めて身体を震わせながらも、小さな呻き声を上げただけで、決して悲鳴は出さなかった。
「ジェイデン……!」
「大丈夫だ、キリエ。僕は、大丈夫だから……、おとなしく、しているのだよ」
本当は苦痛に耐えているのがやっとだろうに、ジェイデンはキリエを気遣い、微笑みかけてくる。ライアンは無言で剣を引き抜き、再度突き刺そうと、沈黙したまま振りかぶった。
そんな彼らの姿を目の当たりにしたキリエは、腹の底が熱くなったような感覚をおぼえる。全身の肌が粟立ち、そうかと思えば燃えるようにヒリヒリとし始める、その衝動は──怒りだった。
「ライアン! それ以上、ジェイデンを傷つけてはなりません!」
厳しい口調で言い放ったキリエの両眼は、本人に自覚は無いが深紅に輝いている。そして、三人の周りに強い風が吹き始めた。
「キリエ、落ち着け! 僕は大丈夫だ!」
兄弟の瞳が赤くなったのを見て、特性が発動したのだと察したジェイデンは声を掛けてきたが、既にキリエの自我は失われ始めている。威嚇するような細い雷が近くに落ちると、ライアンは蒼ざめて剣を投げ捨てた。
「やはり、あの人の言った通りか……! まさか、妖精人が実在するとはな」
「ライアン……? 何を言っているのだよ」
「この、化け物め……!」
普段の冷静さは消え失せて錯乱状態のライアンは、懐から鉱石のようなものを取り出し、頭上へ翳す。血のように赤く禍々しい石は悍ましい光を放ち、キリエへ向かって激しい黒炎を吹き出した。
強風がそれを打ち消さんばかりに吹き荒れるが、黒炎は負けじと勢いを増し、キリエの左肩を焼き焦がす。
「ッ、ぅ、ああぁ……!」
「キリエ!」
我を失っていても無意識に苦悶の声を発したキリエを案じ、ジェイデンが悲痛な響きで名を呼んだ。
ライアンは更に強く石を握り、再び黒炎を飛ばそうとしたようだが、キリエの特性が引き寄せたと思われる極細の雷のようなものがその手を貫く。
「クッ、妖精人の生き残り風情が──!」
ライアンの薄青の瞳とキリエの紅眼が鋭い視線を交わし、黒炎と暴風と雷が再度ぶつかり合った。
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