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文化祭は猫日和
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朝から気分がすぐれない。
今日は文化祭一日目。内部公開の日。
同じメイド服の女子に散々弄くり回されて、鏡に映るこれは誰?
つけまつげゴワゴワする。唇ベチョベチョで気持ち悪い。カチューシャで頭、痛い。数えだしたらキリがない。
「ほら、プラカード持って、客寄せに行ってこい」
女子の愛情あふれる(泣)言葉で教室から追い出された。本当は家庭科室でサンドイッチ作ってる筈だったのに…。
「…安村?」
「…うん。変でしょ?もう、ヤダ…」
「ちょっ、下半身直撃なんだけど……」
直輝がモゴモゴと何やら呟くけど、今の僕はそれどころではない。カッコいい直輝の、可愛い猫耳を鑑賞する元気もない。
「はあ…。プラカード持って、校舎回れって」
『猫カフェ』と書いたプラカードには可愛い猫と僕が今着ているメイド服&猫耳&尻尾と直輝のギャルソンエプロン&猫耳の絵が書いてある。『写真は同意を得てからにして下さい』こんな文章を見つけ、まさかこんな無様な姿を写真に撮られるのかと青くなる。
「行ってきます…」
「ちょっと!俺も行くから!待ってて」
バタバタと教室に入り、同じようなプラカードを持って戻ってきた。一緒に行ってくれるのか?一人ではフラフラと帰ってしまいそうだった。いや、この格好では帰れないか?ボロボロの第三校舎の誰も来そうにないトイレにでも隠れに行きたい。あっ、ボロボロと言っても外観だけの話。トイレは数年前に新しくなって、教室もちゃんと耐震補強されていて、内部は綺麗に改装もされている。
「ああ、トイレに籠りたい」
「そんなことして、誰かに見つかったらヤられるよ?」
「ひぇ?ボコられるの?気持ち悪いから?だから、ヤダって言ったのに…」
「違うから」
「えっ?何が?」
「何でもいいから、俺から離れないようにな」
「う、うん」
今日も直樹は優しい。
こうして構ってくれることを、喜ぶことにした。片思いの相手と一緒にいる幸せと、振ったくせにと恨む気持ちを天秤にかければ前者に軍配が上がった。
何て単純なのだろうと呆れるが、負の感情は『負』でしかなく、何もかもが辛くなる。食べることも、学校へ来ることも。それなら『正』の方がいいに決まってる。一緒に過ごせて楽しい。ご飯も美味しい。勉強も頑張れる。いいこと尽くしではないか。
方々から直輝に声が掛かる。
何てカッコしてんだよ。
その耳、触らせろ。
後で行くから、奢れよ。
そして、隣の僕を見て…、
誰?そんな子、お前のクラスに居た?
紹介してくれよ。
可愛いな。
写真、撮っても良いか?
こんにちは~、と挨拶して握手を求めて手を出す。
写真は直輝が断ってくれた。手もペチッとはたき落としてくれた。一緒に来てもらって良かった。僕一人でこんなに話し掛けられることはないだろうけど、写真は断りきれなかっただろう。握手も。
怖いもの見たさなのかな?こんな変なカッコの写真を撮って、何が楽しいのか?
直輝なんかこれが嫌で僕と別れたのに。あぁ、沈む…。
「あっ、緒方先輩、来て下さいね」
「おう!猫カフェか?」
「本物はいないですよ」
「でも、こんな可愛いネコが居るんだろ?」
「えっ、まあ」
その先輩の手が伸びてきて、僕の頬に触れようとする。
「先輩、お触り禁止です」
「何だよ!……」
「……ですね」
「それは……」
「そうです…。……、井上……お願いしますよ、先輩」
僕に背を向けて、二人でゴソゴソ話すから全部は聞こえなかった。先輩がチラチラ僕を見る。ううっ…、変な奴とか思ってる?僕の趣味じゃないからね!
最後の準備をしていたり、のんびり始まりを待つ人で校舎は賑やかだ。一通り歩き回り、疲れたので直輝の腕を掴み引っ張ってみる。
声を出すのが嫌なのだ。どうやら女子に思われているようだ。接客の時は仕方ないけど、ジロジロと色んな視線に晒されて、極力目立ちたくない。それに、こんな不細工な女子が居るか?いくら少し高いとは言え、明らか男の声をこのカッコの僕が出すのはちょっと、ね?
「ん?どした?疲れた?」
「うん」
小さな声とうなづくことでそうだと伝えた。
「ちょっとね」
直輝の顔を見てふっと力が抜ける。弱々しく笑うと頭を撫でてくれた。何だか嬉しくてフニャッと顔が緩む。
「戻ろっか?」
「うん」
直輝が二本のプラカードを右手に持ち肩に担ぐ。左手は僕の右手を掴み、ゆっくり歩く。
「あっ、あの…。馬渕、これは?」
「疲れてるんだろ?」
「いや、でも…。このカッコの僕は嫌いじゃないの?」
…いや、僕が嫌いなのか?
「いや、何でもない」
でも、嫌いなら手を繋ぐかな?
「変なの。行くよ」
これを丸岡が見たらどう思うか。僕としては嬉しいけど、付き合っている時に、直輝が他の誰かと手を繋いでたら嫌だ。でも、直輝の左手は僕の手を離してはくれなかった。
今日は文化祭一日目。内部公開の日。
同じメイド服の女子に散々弄くり回されて、鏡に映るこれは誰?
つけまつげゴワゴワする。唇ベチョベチョで気持ち悪い。カチューシャで頭、痛い。数えだしたらキリがない。
「ほら、プラカード持って、客寄せに行ってこい」
女子の愛情あふれる(泣)言葉で教室から追い出された。本当は家庭科室でサンドイッチ作ってる筈だったのに…。
「…安村?」
「…うん。変でしょ?もう、ヤダ…」
「ちょっ、下半身直撃なんだけど……」
直輝がモゴモゴと何やら呟くけど、今の僕はそれどころではない。カッコいい直輝の、可愛い猫耳を鑑賞する元気もない。
「はあ…。プラカード持って、校舎回れって」
『猫カフェ』と書いたプラカードには可愛い猫と僕が今着ているメイド服&猫耳&尻尾と直輝のギャルソンエプロン&猫耳の絵が書いてある。『写真は同意を得てからにして下さい』こんな文章を見つけ、まさかこんな無様な姿を写真に撮られるのかと青くなる。
「行ってきます…」
「ちょっと!俺も行くから!待ってて」
バタバタと教室に入り、同じようなプラカードを持って戻ってきた。一緒に行ってくれるのか?一人ではフラフラと帰ってしまいそうだった。いや、この格好では帰れないか?ボロボロの第三校舎の誰も来そうにないトイレにでも隠れに行きたい。あっ、ボロボロと言っても外観だけの話。トイレは数年前に新しくなって、教室もちゃんと耐震補強されていて、内部は綺麗に改装もされている。
「ああ、トイレに籠りたい」
「そんなことして、誰かに見つかったらヤられるよ?」
「ひぇ?ボコられるの?気持ち悪いから?だから、ヤダって言ったのに…」
「違うから」
「えっ?何が?」
「何でもいいから、俺から離れないようにな」
「う、うん」
今日も直樹は優しい。
こうして構ってくれることを、喜ぶことにした。片思いの相手と一緒にいる幸せと、振ったくせにと恨む気持ちを天秤にかければ前者に軍配が上がった。
何て単純なのだろうと呆れるが、負の感情は『負』でしかなく、何もかもが辛くなる。食べることも、学校へ来ることも。それなら『正』の方がいいに決まってる。一緒に過ごせて楽しい。ご飯も美味しい。勉強も頑張れる。いいこと尽くしではないか。
方々から直輝に声が掛かる。
何てカッコしてんだよ。
その耳、触らせろ。
後で行くから、奢れよ。
そして、隣の僕を見て…、
誰?そんな子、お前のクラスに居た?
紹介してくれよ。
可愛いな。
写真、撮っても良いか?
こんにちは~、と挨拶して握手を求めて手を出す。
写真は直輝が断ってくれた。手もペチッとはたき落としてくれた。一緒に来てもらって良かった。僕一人でこんなに話し掛けられることはないだろうけど、写真は断りきれなかっただろう。握手も。
怖いもの見たさなのかな?こんな変なカッコの写真を撮って、何が楽しいのか?
直輝なんかこれが嫌で僕と別れたのに。あぁ、沈む…。
「あっ、緒方先輩、来て下さいね」
「おう!猫カフェか?」
「本物はいないですよ」
「でも、こんな可愛いネコが居るんだろ?」
「えっ、まあ」
その先輩の手が伸びてきて、僕の頬に触れようとする。
「先輩、お触り禁止です」
「何だよ!……」
「……ですね」
「それは……」
「そうです…。……、井上……お願いしますよ、先輩」
僕に背を向けて、二人でゴソゴソ話すから全部は聞こえなかった。先輩がチラチラ僕を見る。ううっ…、変な奴とか思ってる?僕の趣味じゃないからね!
最後の準備をしていたり、のんびり始まりを待つ人で校舎は賑やかだ。一通り歩き回り、疲れたので直輝の腕を掴み引っ張ってみる。
声を出すのが嫌なのだ。どうやら女子に思われているようだ。接客の時は仕方ないけど、ジロジロと色んな視線に晒されて、極力目立ちたくない。それに、こんな不細工な女子が居るか?いくら少し高いとは言え、明らか男の声をこのカッコの僕が出すのはちょっと、ね?
「ん?どした?疲れた?」
「うん」
小さな声とうなづくことでそうだと伝えた。
「ちょっとね」
直輝の顔を見てふっと力が抜ける。弱々しく笑うと頭を撫でてくれた。何だか嬉しくてフニャッと顔が緩む。
「戻ろっか?」
「うん」
直輝が二本のプラカードを右手に持ち肩に担ぐ。左手は僕の右手を掴み、ゆっくり歩く。
「あっ、あの…。馬渕、これは?」
「疲れてるんだろ?」
「いや、でも…。このカッコの僕は嫌いじゃないの?」
…いや、僕が嫌いなのか?
「いや、何でもない」
でも、嫌いなら手を繋ぐかな?
「変なの。行くよ」
これを丸岡が見たらどう思うか。僕としては嬉しいけど、付き合っている時に、直輝が他の誰かと手を繋いでたら嫌だ。でも、直輝の左手は僕の手を離してはくれなかった。
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