正義の美形ヒーローは悪のマッドサイエンティストにイタズラしたい

石月煤子

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俺様、七狗は何を隠そうマッドサイエンティストだ。
世界征服を第一目標に掲げる悪の組織「コクローチ」でこつこつ禁断の実験を繰り返してはどぎついクリーチャーなんぞを生みこしらえている。
俺様、すごいんだぞ、頭いいんだぞ!
でも、そんな俺様、ついこの間まで幼児化してエライ目に遭っていた。

『僕の大好物は七狗、君だよ?』

正義のヒーロー戦隊所属、ところがどっこい変態リーダー残念美形の赤紫にお尻を掘られた挙句、奴の部屋に監禁されていたのだ、あの変態、許すまじ!
だけどあいつは俺様の最大の弱点を握っていて、日々、狡猾巧みに罠を仕掛けてきやがった。

『ほら、レモンパイ見つけてごらん、七狗?』

奴め、最初は有名パティシエのものを仕掛けてきたが後半に至っては手作りレモンパイ、しかもそれがべら棒にうまくてうまくて、ほっぺた落ちそうレベルに、うまーーーーーい。
でももうお尻掘られたくないからこっそり逃げてきた。
んで、解毒剤つくって幼児化も解いた、俺様、やっぱり天才、鬼才、ん、奇才? どっちだ? どっちだろ?

「戻ったのね、七狗」

「コクローチ」秘密アジトの俺様専用ラボで友達のカラスとお茶していたら零(ぜろ)様がやってきた。

「しばらく姿を見なかったから心配していたのよ? どこ行ってたの?」

大幹部の零様、ちなみに男だ、黒の軍服に赤い腕章つけて、いつだって高いヒールの革ブーツかっつんかっつん言わせて闊歩している、白髪っていうよりプラチナ色の髪、隻眼でアイパッチ、男だけど美人、男なのに女言葉、一種のアイデンティティかな?

「アタシにもレモンティー頂ける?」

大幹部零様は実験テーブルに優雅に腰かけ、コミュ障の俺様はネクタイの結び目に視線を据え、こっくり頷き、ふわふわ湯気立つティーカップを差し出した。

「ラボを空けてどこへ行っていたのかしら」
「い、行ってたっていうか……俺様、赤紫に捕まってて……お尻掘られて、毎日奴の家で……欲望掻き立てるおっそろしいゲーム……<レモンパイはおうちのどこでしょう>やらされて、俺様、精神破壊寸前、で」

ばりん!!

「あっ! 俺様の大事なコレクションのティーカップが!」
「貴方、今、何て言ったの? お尻掘られた? お尻掘られたって、今、そう言ったの?」

零様、わなわな震えている、どうしたんだろ!?

「七狗、貴方、あのウザウザウザったい赤紫に処女を奪われたの?」

その時だった。
アジトに緊急事態を知らせるサイレンが鳴り響いたのは。



「迎えにきたよ、七狗?」



今まで誰一人の侵入も許さなかった「コクローチ」アジトに単身乗り込み、トラップを掻い潜って中央部までやってきたるは、残念美形変態ヒーロー、その名も赤紫。

「わーーーーー!!!!」

零様と共に駆けつけた俺様、ドクロのマスクをつけたモブ兵に囲まれながらも無駄にヒーロー臭を振りまいて毅然と立っている奴を見つけ、思わず絶叫してしまった。

怖い!! ストーカーヒーロー、怖い!!

「ああ、元の姿に戻ったんだね。ちっちゃな七狗、とても可愛かったけど、やっぱり本来のその姿、可愛い×10」

怖い!! 不要なリピートで場の緊張感を平然とぶった切ってやがる!! 

「なっなんでここがわかったんだよ!?」
「君のペットの翼にGPSチップを取り付けておいたんだ」
「うわぁぁぁぁんっっ」
「ウチの七狗を手籠めにしたんですって? ウザ赤紫?」
「零、君に用はない、早く僕の愛しい小ガラス、七狗を渡したまえ」
「黙らっしゃい!!!!」

零様が壁に拳を叩き付けた、とたんにヒビが入って派手に壁面がへこむ、細身なのに馬鹿力なんだよ、この人。

「アタシが手塩にかけて大事に育ててきたマッドサイエンティストを傷物にして、許さないわよ? 丸腰だなんて笑っちゃう、正しくカモがネギしょってくる状態、じゃなくって?」

零様がぱちんと指を鳴らす、それを合図にして赤紫に一斉に襲い掛かるモブ兵達。

うーむ、でもあいつって強いからいつもの如くボコボコにのされる展開だと思うんだぞ、ほら、あっという間に片がついて……ん……ありゃりゃ……?

赤紫、倒れた。
あれれれれ?

モブ兵にボコボコに叩きのめされ、俺様の目の前で初めて這い蹲った赤紫、また零様が指をぱちんとやれば部下達はすっと後退し、そしてフロアにかっつんかっつん響くヒールの音。

あ。やばい。
赤紫、やられる。
零様に鉄拳制裁喰らわされて生き延びた奴、俺様、知らない。
どどどどどうしよう。

レモンパイが、レモンパイが、赤紫お手製のほっぺた落ちるレベルのレモンパイがもう食べられなくなる。

コクローチ……
零様……
赤紫……
レモンパイ!!!!

「ぜぜっ零様、やめてぇぇぇ!!」





俺様ってなんてよくできた人間なんだろう。
お尻掘った、ドスケベ変態のだいっきれぇな赤紫を助けてやるなんて。
しかも自宅にまで送ってやるなんて、なんて慈悲深い奇才、いや、鬼才? 結局どっちなんだ?

「着いたぞ、変態赤紫、あー重かった!」

タクシーから高級マンションの一室までずるずる引き摺ってきた赤紫を、相変わらずぐちゃぐちゃとっ散らかっているリビングのソファにほっぽろうとしたら。

ぐい!!

「うぇ!!??」

あれ、なんで俺様がソファに引っ繰り返されてんだ!?
なんで満身創痍なはずの赤紫に押し倒されてんだ!?

「すまない、七狗」

君のことを試させてもらった。

「コクローチ」と僕、どちらが大事なのか、どうしても知りたくて。

「はぁ!!??」
「嬉しいよ、七狗、君は僕を選んでくれた」
「ちが……っ俺様はレモンパイを選んだんだぁ!!」
「ふふ、照れているね、可愛い」
「ちがぁ!! ひっ!? 俺様に触んなよぉっ!!」
「僕の体を気遣ってくれているのかい? 大丈夫、へっちゃらさ。今からたっぷり君のこと愛してあげる」
「あっばかっあっやだぁっこの変態ぃ!」



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