転生令嬢はのんびりしたい!〜その愛はお断りします〜

咲宮

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第四章

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ジュゼッペ様は俯きながら話し始めた。

「婚約者候補に決まった直後、お母様が亡くなったとヒルユから聞きました。最初は自分の耳がおかしい、疲れているのかしらと…悪い冗談だと思っていたのです。でも、ヒルユがそんな冗談を言う人で無いことはよく知っています。……ですから信じられませんでした」

ヒルユの表情も段々と暗くなっていく。

「今回のことで家を発つときには…いつも通り、とても元気だったのですわ。言葉も交わしました。……亡くなる要素など何一つ感じられませんでした。また会えることなど当たり前だと思っていたの」

段々と顔を上げる。
ジュゼッペ様の目に涙が溜まっていくのがわかった。

「それが、いきなり亡くなっただなんて……悪夢を見ているかの様でしたわ。夢なら覚めてと今でも願ってやみません」

「お嬢様…」

「亡くなったという話自体、嘘なのではと強く思ったときがありました。でも…お母様が最も信頼をおいていた専属侍女が、そう言って私に一つの封筒を渡したの。……それはお母様からの最後の言葉だったわ。間違えなく、お母様の字だったの……」

ジュゼッペ様は溜めていた涙を流し始めた。

「それで……お母様の専属侍女から話を聞いたの…。いつから体調が悪かったのかと…何故危篤と言ってくれなかったのと……今思えば、彼女には強くあたってしまって…申し訳なかったわ」

「……」

「お母様の体調が崩れ始めたのは去年くらいから。…それを聞いて声も出なかった。お母様は、私に会われるときは元気な姿しか見せていなかったから。……それを強がりとも知らずに。私は…お母様の思い通り、騙されていたのよ……。気付けなかった自分が情けないと思ったけど、専属侍女の彼女が"奥様の演技は一流ですから"と言ってくれて…凄く…複雑な気持ちになってしまったわ」

苦笑いをし涙を拭う。

「でも……専属侍女彼女の話の続きを聞いて、怒りが込み上げてきたの」

この一言からジュゼッペ様は涙を止め、静かに怒りをあらわにしだした。

「家族は…お父様達はお母様が体調を崩されているのに…何もしなかった。むしろ、咳をしたり具合を悪いところをみせるとうつすな、治せと言う始末。……もう言葉が出なかったわ。お母様が一番辛かったときも何もしなかった。もちろん、お母様が気づかれぬよう気丈に振る舞っていたということもあるわ。でも…それでも、何一つ気づかず、心配もしないで…この有り様。…そんな人間たちを────お母様を見殺しにした私はもう二度と家族とは思わないわ。最も、あちらも同じでしょうけど」

「ジュゼッペ様…」

「どうしても…許せなかった。いえ…一生許すことなど無いと思ったわ。……あの人達をお母様が味わった苦しみ以上の苦しみを与えたい。…辛かった気持ちはいつしか憎しみへと変わっていってしまった…でも、お母様の言葉が、いつも私を正気に戻してくれたわ」

「お嬢様…っ……」

後ろでヒルユも涙を流し始めてしまった。

「アイシア様。……私に殿下に害を与えるつもりで?…そう聞きましたよね。私が害を与えたいのは殿下ではなく家族ですわ。……冷静に考えればそんなことはできない、私にはそんな力は何もありませんでした」

「婚約者候補を下りることは家の名に傷をつける行為では…?」

「いえ。……元より期待されていなかった分、何のダメージにもならないのです。もしつけられたとしても、そんな大したことない傷というのは目に見えてわかります。候補を下りなかったのはそれだけではありませんわ。…婚約者候補を下りれば、あの家に帰らなくてはいけません。…そんなことは絶対に嫌でしたの。…あんな家に戻る意味は無いですし、そもそも居場所はもうありませんわ。……ですから決めたの。もう家には帰らず、平民になって静かに暮らそうと」

「!」

「お嬢様!!」

光を失くしたその目に、強い決意があらわれた。















揺るぎない強い意志が。
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