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最終章 人族編
鍵
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「紬、手、繋いでいいか?」
あー、今日パンのこね方の力加減を教えてもらうのに、後ろからリオネルさんが私の手に手を重ねて教えてくれたからかな。
本当に獣人って匂いに敏感だなあ。
「手だけじゃねぇけど、それはこいつらにやらせるから……」
「…………………………ん、いいよ」
私がいいと言うと思っていなかったのか、ビックリした顔のお兄さんの手をとり繋ぐと、クロム君がお兄さんのあいた腕の中に飛んで移動して行った。
子供達が本当に懐いている。
子供達の父親というのは本当なのだろう。
「私ね、多分、貴方の手が好きだった」
「手か?初めて言われたな」
「私に?他の女の子に?」
「…………紬に」
「伝えては無かったのかもね。手が好きですって言うのも変だし」
お兄さんは複雑そうな顔をしている。
私は気になった事を聞いてみる。
「八股の女の人は、まだ王都にいるの?」
「——っ、いる、けど、もう、関係は……」
「そう。いるんだ」
毎日あなたが帰る場所に、他の女の人はやっぱりいる。
どんなに私に愛を囁いても、王族ってそんなものなのかな。
だから私は傷ついたのかな。
貴方を忘れたいと本能で思うほどに。
——————ここまでかな——————
「手、もういい?」
「——っ、まだ、だめだ」
「そう。でも、あとは子供達に、してもらうから」
「…………………………」
ゆっくりと、名残惜しそうに手が離れる。
「家、ついたから。おやすみなさい」
木戸をくぐり、かちゃんと鍵をかける。
私とお兄さんの間に鍵をかける。
子供達に手を伸ばすと二人とも私の腕の中に素直におさまった。
この子達がいれば、わたしは大丈夫。
◇◆◇
カチャンと木戸の鍵がしまる簡素な音が響く。
紬の腰の高さほどしかない、まるで意味をなさない木戸の鍵が紬との壁のように感じてしまう。
紬が倒れたのはスローモーションの様に見えた。俺が他の女といるのをみて心が限界を迎えて倒れたのだとすぐに分かった。
子供達が攫う様に紬を連れて下がり、急いで紬の元に向かったが、そこはもうもぬけの殻だった。
クロムとレスターの紬の逃し先はすぐに分かった。
土地や物件を買うのに他人の名義を借りる頭はまだ無かったようだ。
そのまま迎えに行こうとしたらルルリエに止められた。
本能で人国の事件と俺の記憶を追い出し自分の心を守った紬の前に今出るべきではないと。しばらくは様子を見るべきだと。
この村にどんどん馴染んでいく紬に焦りばかりがつのる。
美しく素直な紬にどんな男も夢中になるだろうと懸念していた事がすぐに現実となり俺に襲いかかる。
こんな時に限って紬が好みそうな男が周りに現れ、焦りで何も手につかない。
紬本人が子供達に結界をやめさせてしまい、日々他の男の匂いをつけている紬を目の前に込み上げる怒りをコントロールできない。
完全に俺を諦めている紬に、ここからどう挽回していけばいいのか分からず狼狽してしまう。
事件の記憶と共に本能で追い出された俺の記憶は、もう戻らなくてもいい。
人国の記憶など、ない方がよい。
何よりも大切なのは紬の心だ。俺はそれを守ればいい。
————俺は紬の心を守りたい。
あー、今日パンのこね方の力加減を教えてもらうのに、後ろからリオネルさんが私の手に手を重ねて教えてくれたからかな。
本当に獣人って匂いに敏感だなあ。
「手だけじゃねぇけど、それはこいつらにやらせるから……」
「…………………………ん、いいよ」
私がいいと言うと思っていなかったのか、ビックリした顔のお兄さんの手をとり繋ぐと、クロム君がお兄さんのあいた腕の中に飛んで移動して行った。
子供達が本当に懐いている。
子供達の父親というのは本当なのだろう。
「私ね、多分、貴方の手が好きだった」
「手か?初めて言われたな」
「私に?他の女の子に?」
「…………紬に」
「伝えては無かったのかもね。手が好きですって言うのも変だし」
お兄さんは複雑そうな顔をしている。
私は気になった事を聞いてみる。
「八股の女の人は、まだ王都にいるの?」
「——っ、いる、けど、もう、関係は……」
「そう。いるんだ」
毎日あなたが帰る場所に、他の女の人はやっぱりいる。
どんなに私に愛を囁いても、王族ってそんなものなのかな。
だから私は傷ついたのかな。
貴方を忘れたいと本能で思うほどに。
——————ここまでかな——————
「手、もういい?」
「——っ、まだ、だめだ」
「そう。でも、あとは子供達に、してもらうから」
「…………………………」
ゆっくりと、名残惜しそうに手が離れる。
「家、ついたから。おやすみなさい」
木戸をくぐり、かちゃんと鍵をかける。
私とお兄さんの間に鍵をかける。
子供達に手を伸ばすと二人とも私の腕の中に素直におさまった。
この子達がいれば、わたしは大丈夫。
◇◆◇
カチャンと木戸の鍵がしまる簡素な音が響く。
紬の腰の高さほどしかない、まるで意味をなさない木戸の鍵が紬との壁のように感じてしまう。
紬が倒れたのはスローモーションの様に見えた。俺が他の女といるのをみて心が限界を迎えて倒れたのだとすぐに分かった。
子供達が攫う様に紬を連れて下がり、急いで紬の元に向かったが、そこはもうもぬけの殻だった。
クロムとレスターの紬の逃し先はすぐに分かった。
土地や物件を買うのに他人の名義を借りる頭はまだ無かったようだ。
そのまま迎えに行こうとしたらルルリエに止められた。
本能で人国の事件と俺の記憶を追い出し自分の心を守った紬の前に今出るべきではないと。しばらくは様子を見るべきだと。
この村にどんどん馴染んでいく紬に焦りばかりがつのる。
美しく素直な紬にどんな男も夢中になるだろうと懸念していた事がすぐに現実となり俺に襲いかかる。
こんな時に限って紬が好みそうな男が周りに現れ、焦りで何も手につかない。
紬本人が子供達に結界をやめさせてしまい、日々他の男の匂いをつけている紬を目の前に込み上げる怒りをコントロールできない。
完全に俺を諦めている紬に、ここからどう挽回していけばいいのか分からず狼狽してしまう。
事件の記憶と共に本能で追い出された俺の記憶は、もう戻らなくてもいい。
人国の記憶など、ない方がよい。
何よりも大切なのは紬の心だ。俺はそれを守ればいい。
————俺は紬の心を守りたい。
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