【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香

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番外編 クルミ

天空領の出会い2

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「ケイ?……?」

 ケイが私達の周りに薄い風の膜を出す。一瞬で変な匂いが消えたのでホッとして下を見ると小さな天馬がうつらうつらとしながら歩く姿が見えた。

「迷子かな?ちょっと行ってみようか」

 ケイとエレノアが一瞬迷うような仕草を見せたけれど、私が降りていくとしっかりついてきてくれた。私を真ん中に挟んで。

「天馬ちゃん?どうしたの?おうちがわからなくなっちゃった?アルトバイスの子だね?ここにいるケイとエレノアに探して貰えばすぐだよ」 

 天空領に住む子は、ここにいる子同士で固まって住んでいる。巣がどこかとかそういう事は詮索しないでいるけれど、何ヶ所か群れのお気に入り場所があるようだ。

 小さな天馬は藍色の毛並みがとても綺麗で、ブラウンのまんまるな瞳で私を見る。

 スリスリと私の手のひらに顔を押し付けて来て凄く可愛いけれど足元がおぼつかない。

「もっとこっちにおいで」

 ケイが出した風の膜の中に入れて少し様子を見よう、と思った所で後ろから声がかかった。

————「邪魔をしないでくれ、君は軍部の者ではなさそうだ。危害を加えたくない。頼む。見逃してくれないか」

 ばっと後ろを振り向くけれど、姿も気配もない。
ケイとエレノアの視線の先を追うと、

————高い木の上に、たかの、獣人。

「あ、あなたは?何故ここに!禁域指定領です!」

 震える声で聞くけれど、木の上の彼は答えない。

「…………君は……失敗か………………ここまでか」

 やっと口をきいたと思ったら意味のわからない事を言って、私の側にストンと降り立った。

 パキパキッッッ、ガキーーーーンッと音がして、地面から氷の柵が出て、一瞬で私と仔馬の周りに氷の檻ができる。鳥籠みたいな。

「な、何?」

「は!凄いな君の天馬は。氷の特性なんて珍しい」

 苦笑する顔が、人好きのする、こちらの緊張をほぐす様な雰囲気がして、不審者なのにと狼狽する。

「あなたは……」

 盗賊とか、そういう類には見えない。着ている物の仕立てがいいし、仕草や話し方からもそんな感じはしない。背中にふわふわの紺色の大きな羽があって、風に羽が揺れている。


「俺はコーネル国の第一王子だな。君は……クルミ姫か…………挨拶はした事無かったが、国際パーティーの席でお見かけした事はある。怖がらせてしまい、申し訳なかった」  

 シルバーグリーンの短髪が爽やかな印象で、金色の瞳の中の黒い瞳孔が、猛禽類もうきんるいな事を表してる。

 変わった柄の組紐かざりのピアスを片耳にしていて、王族らしく所作が洗練されているのに、男っぽい所もある。

 騎士服なのだろうけれど、手刺繍の多く施されたそれはどこか牧歌的で、エルダゾルクの軍服とは違い柔らかい印象がある。

「コーネル……」
コーネル国は鳥獣人の国だ。今は鷹一族が王権をにぎっているけれど、大鷲おおわし一族が数年前に反旗をひるがえして内乱がおきている……って所までは知ってる。じじ達にちゃんと教わったし、新聞にもたまに載る。エルダゾルクとは遠い国だ。
  
「お察しの通り、弱小国の王権が覆りそうな鷹族の王子。起死回生のチャンスの為に天馬を盗もうとした。申し訳なかった。大人しく捕まるよ」

「天馬と…………契約をしようとしていたのですか!?」

「ああ…………純粋な力は鷹族の方が高い。……少しだけだが。けど、大鷲の方が数が多い。もう、我ら王族は追い込まれている。俺が今日捕まるから、もうだめだろうな」

「何故正当に申し込まないのですか!!」

 はぐれ竜人の返還と引き換えに、どんな国にもチャンスはあるはずだ。母様がそう決めた。

「我が国は君の国とは遠すぎて、はぐれ竜人などいない」

 はっとする。
それはそうだ。エルダゾルクから近ければ近いほど、移民は多い。コーネルなんて遠い国にわざわざ出むく竜人はいない。

 エレノアの出した氷の檻の柵を両手でギュッとにぎりしめる。
小さな天馬が私の足元で丸くなってくぅくぅと眠っている。

「ごく弱い睡眠薬をつかったから、大丈夫なはずだ。同じ翼をもつ種族に、酷いことはしない」

「国の為だからってこの子を…………ひどい」

「あぁ、返す言葉もない」

「ならば何故!!」

「大鷲族は弱肉強食の一族だ。彼らに政権が渡れば戦闘能力のない鳥族達が大部分をしめる我が国は一気にコーネル神が許す範囲で身分制に変わる、抜け道なんてたくさんあるからな、実際には奴隷と変わらない…………国民を……守りたかった。それだけだ」

「竜国に助けを求めて下さい!我が国は中立者なのですから!」

 鷹族の王子は私をじっと見て、それからまた話し出した。

「姫は中立者が何たるかを?」

「……?世界の平和を守る種族でしょう?」

 エレノアの出す氷が冷たくて、手を離して仔馬の脇にしゃがみ仔馬の姿を隠すように体勢を変えると、ふわっと眩しそうに笑って私を見る。

「クルミ姫は…………愛され守られているのだな」

 なんだろう、言ってる意味がよくわからない。

「中立者とは、神の領域を犯す者達を裁く代理人の事だ。国と国の争いにしか手は出してくれない。我が国は侵略を受けた訳ではない」

「それは……」
言われてその通りだと気づく。
私は兄様達や秋のように竜族の帝王学は受けてない。受けてないけれど、ぼんやりとはわかる。
内乱に、軍部が出張ったことなんてないもの。

「別に王権などどの種族がもっても構わない、だが、大鷲だけはダメだ————と思ってここに忍び込んだが…………ここの天馬達はそもそも魔力が高く優秀で……この子しか近づけなかった。気配を消すのは得意なはずなのにな」

 天空領に忍び込めただけで凄いことだ。
相当気配を消すのが上手いのだろう。
鷹という生き物は、そういうものなのかもしれない。

 ぼんやりとそんなことを思っていると彼が私の前で片手を胸に置き、騎士の礼を取る。

「俺はライハルト•フロアラ・コーネル。犯罪者になる男の名前など、知りたくもないかもしれないが、ご挨拶申し上げる」


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