【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香

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番外編 クルミ

ライハルト王子

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 頭がグルグルする。
何を言えばいいのかわからない。王族として、彼を軍部に渡さないといけないのは分かっているのに体も心もそれを拒否するかのように動かない。

 悲しそうに揺れる金の瞳に見つめられて、時がとまったようになる。



————「動いたら殺す。僕の宝に触れていても殺す」

 ふいに低い声がして、気がつくと彼の後ろから首筋に刃が当てられている。

「クロム、兄様……」

 いつものにっこり顔がない。物凄く鋭くて、怒っているのか魔力の圧でビリビリする。


「姫には何もしていない。そこの天馬が彼女を守った」

 兄様は刀を突きつけたままチラとエレノアと私の周りの氷の鳥籠を見て、「エレノア、よくやった。次からは、箱に」

とだけいった。

「大人しく捕まる。納めてもらえないだろうか」

 鷹族の王子が手を上に上げて降参の意を示す。

「兄様!その方に護衛を頼んだのです!!何でもありません!!!」

「姫!?」

 王子のビックリ顔が目の前に広がる。

 クロム兄様は何も言ってくれない。
こんな時でも、何も。
眠る仔馬と、ケイとエレノアに視線を送っただけ。

「兄様………………………………お願いです」

 怒った兄様なんて初めて見た。
いつもニコニコしてるのに。
私に失望したのかも。
何もできないくせに、問題ばかりおこして。

 じわじわと涙が出てきて頬を濡らす。
王子がもっとビックリして目を見開いている。
王族が人前で泣くなど、前代未聞だ。
これもきっと怒られる。

「兄上~!そいつちょっと面倒です、殺すの待ってください」

 レスター兄様と、その後ろから秋も歩いてくる。
この3人にバレてしまったら、この王子はどうなってしまうのか。

「レスター兄様も、お、お願い、違うの!ちがっ、違うの!」

 子供の様にしゃくりあげてしまって上手く言葉が紡げない。本当に私はダメだ。

 いつのまにか氷の檻は消えて、ケイとエレノアが心配そうに私を見つめる。

 レスター兄様も私の頭をポンポンとするだけで何も言わない。

「クルミ、こわかったね、帰るよ」

 秋が声をかけてくれて私をひょいと抱き上げる。彼がどうなるのか心配なのに、誰もそのことには触れないし、秋は私を乗せてエレノアに騎乗してしまう。

「秋、親父に報告」

「御意に」

「待って!秋!まって!!!」

 秋まで何も言ってくれない。
私を片手で抱いたまま、エレノアを操りどんどん天空領が離れていく。

「秋……お願いよ………………」

「クルミ、今のクロム兄様を止められるのはレスター兄様しかいない。そばにお前がいたら、止められるもんも止められない。大人しく帰ろう、大丈夫だから」

「違うの!ほんとに…………違うの……」

「ん、わかったよ」



◇◆◇



 竜人の体は強い。母様みたいに何かあれば倒れたり気を失ったりなんかしない。

 泣いて、悔しくて、つらい気持ちのまま1人ポツンと離れに返され、秋はまたどこかへ行ってしまった。

 庭の天馬達をぼんやり眺めて考える。
ライハルト王子はどうなってしまうんだろう。
あのままあそこで殺されてしまう?
そんなに簡単に人を殺してしまう?
牢屋に入れられる?

 またじわじわと涙が溢れてくる。
目の前が歪んで、嗚咽が漏れる。

 スリッと頬に暖かい感覚がして、気がつくとテトが私を心配そうに見つめてる。

 さっきエレノアと何か話していたから、テトももう何があったのか知ってるのかもしれない。

「テト、天空領の仔馬ちゃんがね、眠らされて……でも悪い人じゃなくて!事情があって!それでっっ!」

 テトが優しい瞳で私を見る。
当たり前の事なのに、テトまで何にも言ってくれないな、と思ってしまう。

「テト、その子まだ眠ったままで、迷子みたいで…………兄様達は怒ってて……父様にももう……」

 もう一度私にスリっと顔を押し付けてからテトまで翼を出して空に飛んだ。
父様が報告を受けたと聞いて父様の所に行ったのかも。

「私はいつもダメだ、上手く立ち回る事ができなくて……」

 曇天の空を見上げて呟いた。
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