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番 編
惹かれて
しおりを挟む泣き疲れてお兄さんのお膝の上で眠ってしまった私が起きたのは、次の日の昼だった。
ちゃんと自室のベットに寝かされていて、玄関がガタガタなる音で目が覚めた。
慌てて着替えて出ていくと、キッチンのテーブルの上に山盛りの食材が乗っていた。
その横でお兄さんがクレープの様な物を立ったまま食べている。
「紬の分も買って来た。けど、つむぎのみたく美味くねぇ」
「ありがとうございます。食材も、こんなに沢山……」
「……別に」
ちょっと照れたらしいお兄さんの食べているクレープもどきをそっと奪って、昨日作ったマヨネーズと塩ダレ肉を追加して元に戻してやると急にガツガツ食べ始めて面白い。
うんうん、クレープ生地に豆ペーストっぽい物だけじゃあお兄さんには味気ないよね。
「お金、払いますね」
「いらん。美味い」
「ふふふ、あ、茶葉も買って来て下さったんですね!今、お茶淹れます!」
「ん、もっと食いたい」
「いっぱい買って来て下さったので沢山作れます!!」
チーズやバター、生のお肉まであって、テーブルの上は山盛りだ。
夜用にグラタンを仕込んで行く。バターで玉ねぎをじっくり炒めて、高級そうなベーコンも入れた。
ホワイトソースを焦げないようにゆるゆる作って、ジャガイモと何だか良くわからない野菜も入れる。
お湯が沸いたのでお兄さんに紅茶を入れてあげると、私をじっと見ながら飲むのでなんだか落ち着かない。
私の分らしいクレープもどきが2つもあったので、買って来てもらったお肉の端を粗い挽肉にしてなんちゃってパテを作り、レタスとマヨネーズ、トマトソースを挟んで出してやると、切れ長の目がまた輝いていて、可愛い。
「……紬の分だ」
すっごく我慢しながら言ってるのがありありわかって笑ってしまう。
「ふふ、こんなには食べられないので、助けて頂けますか?私も半分いただきますね?」
「…………!!うっっっまっっっ!?」
昨日会ったばかりの人なのに、同じ空間が心地よい。
優しい配慮がされているのに、こちらの配慮をまるで必要としていない感じが。
「紬はいくつだ?子供に見えたり大人の女に見えたりする。目が離せん」
「二十歳です。お兄さんは歳上ですよね?」
「ああ、二十七だ」
もう一つ聞きたい事があるんだった。この流れで聞いてしまおう。
「お兄さんは……何の獣人ですか?」
角もないし、犬耳も尻尾もない。普通に人間に見えるからお仲間だろうか。お仲間だったら嬉しいな。
「————竜人だ」
「竜?」
「俺は黒だから黒竜だな」
「黒竜……」
全然お仲間じゃなかった!超ファンタジーお兄さんだった!
「竜ってクレープ食べるんだ……」
どんなリアクションをとったらいいのか分からなくて意味のない事を呟くと、片眉を上げて怪訝そうな顔をした。イケメンの訝しんだ顔、破壊力すごい。
「人間と同じだ。見た目も同じだろ?」
「飛べたりします?」
「翼を出せばな。大体の奴は翼を出すまでしか獣化できん」
「お兄さんも?」
「さぁどうだろうな」
変な答えではぐらかされたので、お茶のおかわりを注いであげた。これ以上ファンタジー要素が増えてもお腹いっぱいなのでここで引き下がろう。
「駄犬ごときには負けないから安心していい」
「駄犬?」
「クソ犬」
「?」
「はぁ、狼の野郎だよ」
ユリウス様と駄犬という言葉が似合わなすぎて全然ピンと来なかった!ユリウス様はキラキラ王子みたいな見た目なのに、駄犬って……。
「昨日も言いましたけど、追ってくる事は無いと思いますよ」
「昨日も言ったが絶対追ってくる。死にものぐるいでな。紬はそういう女だ」
「お兄さんといると、たまにすごく泣きそうになります」
「紬の泣いた顔は綺麗だからまた見たい」
「えぇ……?」
戸惑った私を見てニヤッと悪い顔で笑うと、私の元へ来てふわっと抱き上げた。
「!?な、何!?」
そのまま昨日のソファーにどしっと座ったお兄さんの膝の上で抱きしめられる。
「お兄さん?」
「リヒトだ」
「…………………………」
「つむぎが臆病なのはクソ犬のせいか。来たらぶっ殺してやる」
「そんな、ことは……」
そうなんだろうか。ユリウス様のせいとは考えた事はなかったけれど。
「こっち向け。紬が他の男の事を考えるだけで腹が立つ。こんなの初めてでイライラする」
「昨日会ったばかりじゃないですか」
「関係ない。俺のものになれ」
「それは…………」
「駄犬が。何て事してくれやがる。いや、手放してくれた事に感謝か?腹立つな」
「ふふ、あははは!」
「泣き顔も綺麗だが、笑った顔の方がいい。我慢が効かなくなるが」
「お兄さんは女性を喜ばせるのがお上手ですね」
「…………そう来たか。こんなの初めてだって言ったろ。本気になった女はお前だけだ」
この世界の男の人はリップサービスが上手いなぁ。それでも、お兄さんの腕の中は安心する。うっすら香るタバコと石鹸の匂い。
————ガンッッ!ガンッッ!
ガラスに何か打ちつける音がして驚いて窓を見ると、テトが窓のすぐ外で興奮して立っていた。
「テト!!どうしたの!?お腹すいた??」
慌てて近寄って窓を開けると顔だけ中に入り込んで、私にスリスリと擦り寄って来た。今日もテトが可愛い。
「テルガード、お前妬いたな?」
「!!私がお兄さんを取っちゃうとおもったの!?大丈夫だよ!取らないよ?」
「いや逆だろ。そして取れよ」
お兄さんが何かボソボソ言っていたけれど、急いでキッチンに行ってりんごをカットしてテトに手づから食べさせると、嬉しそうに全部食べてくれた。
「もっと食べる?ニンジンもあるよ?」
「テルガード邪魔すんな。草でも食ってろ」
「ふふ、お兄さんはテトの物だよ大丈夫!」
「おい」
「クィーーーン!」
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