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番 編
褒賞
しおりを挟む「落ち着いたか?」
「ぐずっ……はい、ごめんなさい」
お兄さんの膝から降りようとしたけれど、ガッチリ抱き込まれていてびくともしない。
「そんなに苦手だったか?」
お兄さんさんはニヤッと笑う。イケメンが笑うと破壊力がすごい。王子様のようなユリウス様とは違う、切長の目の、精悍なお顔。
「それは、そうなんですけど、そうじゃなくて……やっと安心して暮らせると、思っていたから……」
「やっと?」
「…………………………」
「俺が新しく部屋を用意する。虫と、後は何が不安なんだ?」
「そこまでしていただく訳には……少し、取り乱しただけです。もう大丈夫です。おろしてください」
それでもお兄さんは離してくれない。
紺色の瞳の中の金の瞳孔がキラキラとして、じっとこちらを見ている。
「俺の軍馬の命を助けたんだ。褒賞が出るのは当たり前だ。無しなどあり得ない」
「褒賞などいりません。テトを助けることが出来たのも、たまたまですし」
「何が欲しい」
人の話を聞かないお兄さんの声が甘い。
本当に何もいらないのに。
私の欲しいものは自由と安心だけだ。
そこまで考えて、ふと思いついた事を言ってみる。
「…………では、これを消す方法があれば教えて頂けませんか?」
スルスルと包帯をとって手首の内側の痣をみせるとお兄さんは紺色の瞳を見開いて固まった。
「お兄さん?」
「お前!!相手は誰だっ!!?何でこんなところに一人でいる!!!相手の男は何をしている!!!」
何をしていると言われても、浮気しているとしか言いようがない。そんなに怒られるようなことなんだろうか。
浮気されたなんて、情けなくて言いたくはないのに。
「っ——!怒鳴って、悪い」
私が固まっていると、怯えたと思ったのかお兄さんが謝ってくれた。そうじゃないのに。
この人は、優しい。
「わた、私は……」
ポツリポツリと今まであった事を話す。
——いきなり知らない世界に召喚された事。
——狼の獣人に番だと言われた事。
——聖女と言われたけれど力は使えない事。
——二人目の番の女の子が現れた事。
——逃げ出したけれど、追い出されるのも時間の問題だった事。
もう平気だと思っていたのに、誰かに話すと声が震えてしまってもどかしい。
お兄さんは震えが止まらずワンピースのスカートを握りしめていた私の両手を上から包み込んでくれながら、つっかえつっかえ話す私の話を一切遮らずに聞いてくれた。
「泣くな、辛い話をさせて、悪かった」
「泣く……?」
指摘されて驚いて、パチパチと瞬きをするとパタパタと下に雫が落ちて泣いていた事に気がついた。
「まさか聖女だったとはな……それでか」
お兄さんは何かブツブツと言ってから私の方を向いて言う。
「聖女を蔑ろにするなど、頭沸いてんのか。狼と言ったな。俺が殺して来てやる」
どこまでが本気なのか区別がつかない冗談を言いながら、真っ直ぐに私を見て涙を拭ってくれた。
「私が、力の使えない聖女だから……でももう関わりたくないの。だからコレを消す方法を知りたくて……お兄さんは、しってる?」
「簡単だ。国境を越えればいい。俺が連れて行ってやる」
「国境を、超える……?」
「番の認識は国の境で切れる。紬は狼の国ラディアン神から番の祝福を貰ったということだ。一歩でも国外へ出てしまえは祝福は消える。匂いを辿ることはできなくなるし、痣も消えるはずだ」
国境をこえるだけ?そんな簡単な事でいいの?
でも、匂いをたどるって?ここにいる事、ユリウス様にバレてる!?
「匂いをたどるって、今ここにいる事も分かってしまいますか!?に、逃げなきゃ!!」
「落ち着け、今はまだ大丈夫だ。ここは訳ありな土地だ。紬の召喚された狼獣人の治める国ラディアンと鳥獣人の治める国リステアの境にあって、両国が領地戦で争っている場所なんだ。決着が付かずに膠着状態だったから、権利が宙に浮いた特殊な場所なんだよ。国外判定はされないが、匂いは薄くなっているはず。
今はうちの国預かりと言う事になっている。俺はその視察に来ていてテルガードを失う所だったんだ」
そう言ってお兄さんは私の頭を撫でて髪をすいてくれた。大きなゴツゴツした手が心地よい。不思議とお兄さんに触られるのは嫌じゃない。
「今はまだ……?」
「ああ、ここ最近狼の勢力が強くなってるからな。それそろ決着が付くだろう。国土として認定されれば、匂いをたどられる」
今はまだ大丈夫でも、ここもそのうち危なくなる?
いや、ユリウス様が私を探すなんてそもそもあるのだろうか。厄介者がいなくなってレイス様と大手を振ってお付き合いできる様になったのだから。
「一生かかっても絶対に匂いを辿れない場所に連れて行ってやる。安心していい」
「……そもそも、追われてはいないと思います。私との未来のためと言いながら、二番目の番を優先していたのですから。家人からも、厄介者としてあつかわれていましたし。ただ、この痣の印はもう見たく無くて……」
もう一度包帯を腕に巻いて痣を隠すとやっと気持ちも落ち着いて来た。
お兄さんは眉根を寄せたまま力無く笑う。私より悔しそうに、けれど私を安心させたくて笑っているのが分かる。
「こんないい女を手放すわけないだろ。死にものぐるいで探しにくる。紬は俺が守る、心配ない」
優しいセリフに言葉が詰まってしまう。ことごとく自信を削られた私には面映く、くすぐったい。
「褒賞はいりません。でも、痣を消すのを手伝ってくれるのは嬉しいです」
「………………………………」
痣を消せるかもしれない。ユリウス様とは関係ないところで自由になれるかもしれない。そう思ったらまたじわじわと涙が出て来て、止まらなくなってしまった。。
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