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番 編
境界の森の家
しおりを挟むヒルデさんのお家に泊めてもらって四日になる。
マリセラちゃんはぐんぐんよくなって、今や部屋中を走り回っているぐらいだ。
「怪我をした所からばい菌が入ったんだって。全身すっごく痛かったけど、もう何とも無いよ!」
「ふふふ、良かったねぇ。私も元気を出して、住む所と仕事を探さなくちゃ!」
「つむぎちゃんは旅の人じゃなくて移住者だったの!?それなら早く言ってくれたら良かったのに!」ヒルデさんが大きな声を出して肩をゆする。
あのあとヒルデさんは、荷物の全く無い完全に訳ありな私へ一切事情を聞かないでいてくれている。痣も包帯で隠してあるから、私が誰かの番ということもバレてはいない。
私から事情を話すのを待っていてくれているんだと思う。獣人にも、優しい人たちがいた事に安堵と嬉しさが込み上げる。
「どこかいい物件がありますか?でももうお金が無くて。まずは住み込みで探そうかと」
「すぐ裏の山に私の実家があるの。今はもう使ってないからそこに住めばいいわ!!私達狼獣人の国ラディアンと隣国が数年取り合っていた山なのよ。今は中立国が介入してくれているから安全だし、この町からも近いし!」
「わあ!ほんとですか!ありがたいです!何から何までお世話になって……」
「娘の命の恩人よ!?そのくらいじゃたりないわ!?今から行ってみましょ?絶対気にいると思うの!!」
そう言ってヒルデさんは私の手を取ってずんずんと外に出ていった。
途中、生活用品と食材を買い込んでくれて、町の外れの山道を登っていく。
二十分ぐらいで拓けた土地に湖が見えて来て、その脇にクリーム色の壁の小さな可愛らしいお家が立っていた。 納屋と馬小屋?らしき物まである。
「ね?近いでしょ?どうかしら!?」
「素敵すぎです!!」
「うふふ、お掃除しちゃいましょう!」
二人でおしゃべりしながら大掃除をして、綺麗にしていく。埃は溜まっていたけれど、大切に使われていたお家だという事がわかる。
お水も出るし、コンロになる熱源の石もあって、生活するのには困らなそう。あかりだけは魔法具らしいランタンと蝋燭の併用の様だった。
「つむぎちゃん、あの子の治療費として貯めていたお金、すごくすごく少なくてまだまだ全然足りないんだけど、受け取ってくれる?」
そう言って、私に握らせたのは銅貨が詰まった小さな皮袋だった。
「いりません。お金も、返さなくて大丈夫。縁を切りたい人から貰った物をお金に変えただけだったから。私の方こそ、こんなに素敵なお家を貸して頂けて……」
ヒルデさんはにっこり笑った後に、私の手を取って目をまっすぐに見て言った。
「これから仕事を探すまでの生活費になると思う。貰って欲しい。そしてうちの店のパンは永久に食べ放題よ!!」
「ふふふふ、じゃあお言葉に甘えて!ヒルデさん、ありがとう!!」
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