【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香

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番 編

花祭り

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 一週間はあっという間に過ぎて、休日に開催される花祭りの日が来た。

 因みに、街歩きのドレスを贈ると言っていたユリウス様からは何も贈られてはこなかった。

 召喚された日に急遽用意したと贈られた三着の普段着のワンピースをローテーションで毎日着ているので、今日もそこから選んだ。

 贈ると約束された物が贈られて来た事は無いので、今回も別に落胆したわけでは無い。平日があまりにも楽しくて、きっと忘れてしまうのだろう。

 そのユリウス様は昼過ぎにやってきて、青い顔をして私に向き合っている。

 お茶をしてから街に出掛けてお祭りを楽しもうと、私に真っ赤な薔薇の花を一本くれた。恋人や夫婦は女性の髪と、男性の上衣のポケットに同じ花を飾ってお祭りを楽しむのが主流らしく、ユリウス様のポケットには既に赤い薔薇が飾られている。

 薔薇の似合う人だなぁとぼんやり思いながら目の前で笛文ふえぶみを見つめるユリウス様を見る。

~~ いつもの場所でまってる レイ ~~

 メッセージはすぐに消えて、また新しいメッセージが来る。

~~ 今年の花祭りの思い出だけ私に下さい ~~

 ユリウス様はメッセージから目を離す事ができない様で、ご自分が私の前で悲痛なお顔をしている事まで気が回ってない。

「近衛騎士様のお仕事は、大変なんですね。私なら大丈夫ですので行ってください。お祭りならありますし」

「あ、あぁ、そうだな。来年も再来年もずっと君は行けるんだ。今年は仕事が入って…………すまない。行ってくる」

「はい、行ってらっしゃいませ。お見送りをしても?」

 普段お見送りなんてした事はない。(だっていそいそと素早くでていってしまうし)
ユリウス様はそんな私を戸惑いながらもエスコートして正門まで来ると、馬に乗って去っていった。一度も振り返らずに。
(馬に乗りながら振り返る事ができるかどうかは知らないけど)

「仕事だって言うなら、近衛騎士の隊服に着替えてから行くぐらいの気概を見せてよね」

 今日こうなることはうすうす分かっていた事だけれど、もうどうでも良くなって来ていて、自分がなぜここにいるのかも分からなくなってくる。

「そっか、私別にここにいなくてもいいのか」

 一人ごちてからそのまま歩き出す。
街に行くと二人のデートに遭遇してしまうかもしれないので、逆方向へ。

 とぼとぼ歩いて、途中街に牛乳の配達に来た帰りだと言う狼獣人に運良く荷馬車に乗せてもらう事が出来た。

 どこへ行ったらいいかも分からないけれど、とりあえず侯爵邸じゃなければなんでもいいやと、心はどんどん晴れ晴れとしてきている。
 
 二時間ほど馬車に揺られて着いた田舎町で降ろしてもらい、お礼を言って小さな町を見て回った。
久しぶりに自由で、晴れやかで、楽しい。

 パン屋さんに、果物と野菜のお店、古着屋もあって、のどかな町の雰囲気が楽しい。

 本当に小さいけれどアクセサリーショップがあったので、これもユリウス様から初日に頂いたルビーの指輪を売ってお金に変えた。これで少しは生きていけると思う。 
お祭りを見て歩く用に少しでもと指につけておいて良かった。  

 宿屋が見つからなかったのでまずは腹ごしらえをしようとパン屋さんのドアをくぐると、ドアは開いていたものの、お店にパンは全く置いてなく、カウンターで店員らしき人と誰かが揉めている。

「お願いします!お願いします!!わざわざあなたを王都から呼んだんです!!必ずお支払い致しますから!何年かかっても必ず!!」

「~~~ですから!!分割など受け付けてはいないと言っているではないですか!払えないとわかってる者に高価な薬を出せるわけないでしょう!!!」

 エプロンをした女性が泣きながら白衣の男性に頭を下げて懇願している。

「このままではあの子が!!お願いします!どうかこの通りです!!」

「何を言われても支払いができない者に薬は出せません。金貨五枚、キッチリご用意下さい」

「そんな…………」
女性がその場にヘナヘナと座り込む。
悲痛な顔に涙が溢れている。

 私のあぶく銭、金貨五枚だったな……とぼんやり考えた所で声をかけていた。どうせあぶく銭だし。パーッと行こう。

「私が払います。お薬代ですよね?これを」

そう言って、ポケットから金貨を五枚カウンターに置いた。

 女の人は座り込んだまま唖然とした顔で私を見てる。

 白衣の医者らしきおじさんはカウンターと私を見比べたあと金貨をしまい、カバンを持って無言で店の二階に上がっていった。

「お子さんですか?二階に?」

「はい、何と、何とお礼を言ったらいいか……」
女性は震える声で焦点の合わない目で答える。

「とにかく、様子を見に行っても?」

 私の言葉に弾かれた様に顔を上げ、すごい勢いで階段を登っていった。

 私も勝手に上がらせてもらうと、小さなベットに栗色の髪と耳をした可愛らしい女の子の狼獣人が眠っていて、先ほどの白衣のおじさんが彼女に注射を打っていた。

「魔力抗生物質です。これで急激に良くなるはず。私の診察はここまでです。あとは町医者に引き継いでも問題ありません。では私は帰らせていただく」

 何故か私に説明をして、開いたドアから出ていってしまった。

「あぁ、あぁっ……!マリセラ!良かったっ……!よか、良かった……!!」

 もう大丈夫なら邪魔をしては悪いかなと思いドアの方に向かおうとしたら、腕を掴まれた。

「名乗りもせず、申し訳ありません。私はヒルデ、この子はマリセラと申します」

「つむぎと申します。マリセラちゃん、良かったですね」
もう良くなるとあの医者が言っていた。なんの病気かは知らないけれど。

「つむぎ様のおかげでございます!このご恩は決して!」

「あの、様はやめてもらっても……?敬語も必要ありません。どうせ、要らないものを売ったあぶく銭でしたから」

「…………つむぎ、おねぃちゃん?あ、ありがとう、私、治るの?」

 小さなベットから声がかかり、まん丸な緑の瞳とめがあう。十歳ぐらいだろうか、可愛らしい栗色の三角耳。

「そうだよ。沢山たべて、お母さんを安心させてあげようね?」

「ママ、ママ!痛くない、体、痛くないよ!」

 ヒルデさんはまたベットにかけより、声を殺して泣いている。

「では、私はこれで」

「お待ちくだ……待って!つむぎちゃんにお礼を!この村の人じゃないでしょう!?この村には宿がないから、もしまだこの村にいるのなら泊まっていって!」

「わぁ、ありがたいです!実は行くあてがなくて」

 あぶく銭は無くなったけど、今夜の宿を手に入れたぞ!











 
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