94 / 173
家族編
サーザンランドの黒豹王子
しおりを挟むヴァルファデとエルシーナの子は、色はヴァルファデそっくりのグレーの毛並み。性格はエルシーナに似て凛とした男の子だ。レスターやクロム君と遊ぶケイやツキとはタイプが違う。
優しいお母さんタイプのルルは子供達をそばで見ていたい派で、女騎士様タイプのエルシーナは早く自立させたい派。
子供への関わり方でそれはよく分かる。
今日は黒豹の国の面会らしいので、私も勝手に見学に行くことにした。
ミリーナさんに全身磨き上げられて、白から薄紫色のグラデーションになっている天女風の着物を着る。銀の刺繍が入った帯をしめ、レースでできた打掛を羽織る。
天女風すぎるのも飽きたので髪はハーフアップにして、ゆるく巻いてもらった。
藤の花の簪をつけ、髪に本物の藤の花をあしらっていく。
薄紫色のショールを羽織って完成。
レスターはツキと勝負中だったので、クロム君を抱いて厩に向かう。
「エルシーナ!多分今日あなたの息子の主人が決まるの。ヴァルファデと一緒に見に行こう!」
エルシーナはじっと私を見てる。私も見つめ返していると、厩から出てきてくれた。
この子も子供を産んでから、私たちとも仲良くしてくれている。
陛下の用意したオシャレ手綱をかけ、ヴァルファデにも準備する。
クロム君がヴァルファデの背中に乗って、私はエルシーナの手綱をひいて少し後ろを歩いて行く。
仔馬がいたところは王宮の裏手の庭園で、紺色の騎士服を着た豹獣人達が奥に沢山見えて、大きな歓声が上がった所だった。
「ほら、あの人だよ。豹の国の王子様だって」
私達が庭園の入り口で立ち止まると、向こうから仔馬がかけてきた。
ヴァルファデとエルシーナの数メートル前でピタリと止まる。
そのまま深く頭を垂れて、エルシーナが低く鳴くと礼を解いて私達の元にまたかけてきた。
「うんうん、えらいねぇ、なんてお名前を貰ったの?」
答える訳もない仔馬に話しかけて頭を撫でると、誠実そうな、優しい声がかかった。
「シーラフと、名付けました。我が国の古い言葉で夜明けという意味でございます。あなたは……王弟妃殿下ですね」
黒髪の短髪。琥珀色の瞳の青年が片手を胸につけ、騎士の礼をとっている。
「はい、紬と申します」
「サーザンランド国第一王子、ルーファス・アルス・サーザンランドと申します、大切な天馬をお譲り頂き、感謝申し上げます。妃殿下のご要望、忘れてはおりません。必ず大切にするとお約束いたしましょう」
「たまに会いにいっても……よいでしょうか。ここにいる子たちはシーラフの両親なのです……顔を見せてあげたく存じます」
「歓迎致します。私も妃殿下の元を訪れましょう」
琥珀色の瞳が私を見る。精悍なお顔がニカっと笑ってとても人懐っこい顔に変わった。
この人なら大丈夫。シーラフは大切にされる。
「魔王の怒りに触れてしまったようです。それでは御前、失礼致します」
シーラフも彼の後ろをトコトコついて行く。
「シーラフ!行ってらっしゃい。頑張ってね!」
私が声をかけると、ルーファス王子も振り向き嬉しそうにまた一礼して去っていった。
————「おいテメェ、堂々と俺の前で他の男と話してんじゃねぇよ!この世界ごとぶち壊すぞ」
リヒト様がバサっと私の前に降り立ち文句を言う。また意味わからんこといってるな。
「リヒト様、抱っこして?」
「なんっ!? ~~~っ!? 聞いてんのか!? 」
「抱っこ、して?」
「するけど……」
(よし!!)
リヒト様にだきあげてもらって、シーラフのお見送りをした。ヴァルファデとエルシーナも見えなくなるまでシーラフの後ろ姿を見ていた。
「んで?あの男と何話した?」
あ、魔王戻ってきちゃった。これはいかん。
「リヒト様の浮気相手の猫さんは綺麗だったね?」
「はぁ!?お前より綺麗な女なんていねぇよ!!!」
「ちょっと、悲しかったな?」
「まかせろ、慰めてやる。俺得意だぞ?」
(うん、よしよし)
————「親父はほんっとポンコツだな!!!兄上!ケイを連れてきました!」
私達の上空にツキに跨ったレスターが現れて、ケイがこっちにすごいスピードで降りてくる。ヴァルファデの背中にいたクロム君が高くジャンプして空中でケイの背に跨り、レスターから投げられた木刀をキャッチする。
そのまま上空で空のチャンバラごっこが始まってしまい、陛下と陛下の侍従達、警備の軍人さん達が目をむいて口をあんぐり開けて固まっている。
「くっそ~~~!!上空で騎乗すんの上手いな!?」
ルースくんが悔しそうに言う。
「短い木刀だから許したのに!!いつのまにか大人サイズ使ってる!!レスター!!」
私の声にピタリと上空で止まった4匹。
「ツキとケイも紬ちゃんに怒られてるの分かってるなぁ、まぁでもあそこまで上達してれば大人サイズの方が逆に安全かもな。魔力を乗せやすいし」
「クロードさんが、そう言うなら……」
4匹がほっとした顔をして、また見えない速さで戦い出した。ツキとケイは二人を背に乗せて戦ったり、一個人として戦ったりと自由に参戦してる。
上空で雷や突風がおこっていて、見ている方が疲れるので、ため息をついてもう見るのはやめにした。
「り、リヒト?お前、軍神でも育てるつもり!?僕らの子供の頃よりあれ何倍も強くない!?」
陛下がまたオロオロとリヒト様に話しかける。
「ええ、そうですね。気づいたらああなっておりまして。既に他国の騎士団程度なら一人で潰してくるでしょう」
「あれは私達でも真剣にやらないとだめでしょうねぇ。天馬との連携と相性が良すぎます」
ユアンさんが横から言う。
「つ、紬ちゃんはこの世界を滅ぼすつもりかな!?」
「え? 私? 私は人間ですよ?」
なぜみんなそんな目で見てくるのか。
「リヒト、おまえ、つむぎちゃんを怒らせないようにしないと……紬ちゃんの一声で世界が終わるぞ」
「肝に銘じます」
2,559
あなたにおすすめの小説
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!!
打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる