【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香

文字の大きさ
93 / 173
家族編

経歴書類

しおりを挟む

 午後のおやつのアップルパイをリヒト様の執務室に届けに歩く。

 もう道順はわかるので私の手を引いて飛ぶ事の無くなったクロム君は私の腕の中。
レスターは動き回りたい派なのか私の周りをぐるぐる飛びながら付いてくる。

 お兄ちゃんの方が甘えん坊で、弟はヤンチャ。二人ともすごく可愛い。

「母上!いい匂い!もう食べましょう!」

「ふふふ、いっぱいあるからリヒト様の執務室でみんなでたべようね?クロム君とレスターにはミルクも淹れてあげるから」

 廊下の奥に執務室の扉を認めると、まだ遠いのに扉が中から開いて、リヒト様が迎えてくれた。

「リヒト様!差し入れ持って来たの!」

「俺の番……可愛い……」

「親父はやっぱり伯父上と似てる。ポンコツだ!俺はああはならない!」

 レスターのセリフに大笑いして執務室に入ると、いつもの幹部の面々が迎えてくれた。

「つむつむ~~超いい匂い~~~」

「天女さん!こちらに!今お茶いれますね~」
リツさんも上機嫌だ。

「レスター殿下、お父上がポンコツになるのはお母上の前だけですのでご安心下さい」

「それ、俺の前じゃいつもポンコツってことだろうがユアン!」
レスターの口調、ほんとリヒト様そっくり。

「まぁ、そうですね……」

「ワハハ!まぁ事実だけど、リヒト、舐められてんなぁ!」
クロードさんが大きな体を揺らして笑う。

「はぁ番いい匂い、癒される……」
私を後ろから抱き込んだリヒト様は全然話を聞いてない。

 子供達にミルクをいれて、籠を開けると皆一斉に手が出て食べ始めた。
リヒト様だけはまだ私にくっついてる。

「ん?リヒト様、これ何?」
写真ではないけれど絵よりも精巧な顔が描いてあって、その下に名前や年齢、経歴がのっている履歴書みたいな紙がいっぱいある。

「んあ?……あー、仔馬の面会者の経歴書類」

「見てもいい?」

「いいけど、特におもしろくもないぞ?」

 三十枚ぐらいあるだろうか。パラパラめくると王様や、王子、騎士団長など、錚々そうそうたるメンバーが並ぶ。

 一枚の経歴書でページをめくる手が止まる。
何の獣人かは分からないけれど、黒髪の短髪で、日本男児って感じの精悍な顔つき。

 サーザンランド国第一王子とある。
歳は二十三。
ルーファス・アルス・サーザンランド

 私がじっと見ていると、頭の上から低い声がかかる。

「おい、他の男をじっとみるんじゃねぇ。腹立つなそいつ殺すか」

「ユアンさん、この人を最後の方にまわしてくれませんか?」
またわけわからん事をいい出したリヒト様を無視して話す。

「…………構いませんが……何かありましたか?黒豹の国の第一王子ですね……」

「多分この人に決まるから」

 皆がパイを食べる手を止めてこちらを向く。
クロム君とレスターは無頓着に二個目に手を伸ばしてる。

「つむぎ?」

「申込の時点で契約破棄の書類を提出させておりますので、先に決まってしまったからといってはぐれ竜人の返還がなされない訳ではありません。…………ありませんが、あまりにも先に決まってしまうのもクレームの元でしょう。豹国を最後に致しましょう」

 リヒト様が私を抱く手に力が入る。
普通に苦しい。何なのか。

「リヒト様?苦しいよ?」

「クソ親父!!!」
レスターがリヒト様に蹴りを入れるけれど、右手でパシっとノールックでとめてポイっと投げた。

「おまえは……今日は母屋に来い。ガキはミリーナにまかせろ」

「それは構わないけど……どうしたの?」

 私の返事に子供達二人がショックを受けた顔をするのが可愛い。これだから私はレスターに新たな乳母を付ける話を断ったのだ。

「いいからこい」

 何なのか。



◇◆◇



 ミリーナさんに二人を任せて母屋に渡る。何故かミリーナさんに着替えさせられて、おめかしされてる。
ユリウス様との謁見の時に一度着た、肩が透ける着物。

 紺色の生地で、胸の下で金色の帯で留めて着るチューブトップタイプになっていて、がっつり肩が出るのかと思いきや、その上から羽衣のような軽い水色のシフォンの羽織りを羽織る。肩は超透けてる。

 天女風に左右で輪っかになる様に髪を結って、金のくし形のかんざしと銀のシャラシャラ動く髪飾りをつけてくれた。

 紺地に金の帯で、がっつりリヒト様色の着物。

 本来なら何人も奥さんがいるリヒト様に会うのは、こういう感じで渡っていくのかもとふと思った。彼に気に入られるために、おしゃれをして彼の寝室に渡る。

「リヒト様?」  
嫌な想像を振り払うように彼の名前を呼ぶと、重厚な夫婦の寝室のドアが開いてリヒト様が顔を出した。

「は? 天女?」

「リヒト様?」

 リヒト様は私を抱き上げて、広いバルコニーのソファーへ座り、膝の上に抱き込んだ。
 
 少しのタバコと、石鹸の香り。

「可愛い、やばい。天女が俺に降りて来た」 
 
あれ、いつも通りだ。 

「象徴華、みせろ」

「う、うん」
透けてる水色の短い打掛を脱いでチューブトップのドレス一枚になる。

「薄くなったりしたことはあるか?」

「え?ないよ?」

「紬はたまにこの世界から消えそうになる。俺はそれがすごく怖い」

 消えそうに?そんな事はないけれど……どういう事だろう。

「お前が不思議なことを言う時、いつもこの世界の境界線の端にいるような、この世界を斜め上から見ている様な、存在が曖昧になるの、気づいてるか?」

「え?そう?そんな事ないよ」

 リヒト様は私の肩の象徴華に額を置いて何にも言わない。

「何か、不安にさせた?」

「俺はいつも不安だよ。おまえがいつか消えてしまいそうで」

「リヒト様と子供達がいるのに消えないよ」

「愛してる、消えないでくれ」
苦しそうな、絞り出す様な声。

「うん、ごめんね?不安にさせて。今日の黒豹の人の時にそう感じたの?」

「ああいう時、お前は何を考えてる?」

 何を?何だろう。

「いつも何となくそんな気がするだけで、意味や理由があるわけじゃないよ?だから黒豹の王子様も、違うかもしれないし」

「サーザンランドの王子に決まれば、ヴァルファデとエルシーナは喜ぶぞ。友好国だし戦闘能力も高いから、共同訓練でうちとのトーナメント試合の祭りが開催されて仔馬に会えるからな」

「わあ!なら応援しよう!!あの王子様!」

「は?許すわけねぇだろ」

えぇ…………。

「トーナメント試合でリヒト様のかっこいい所見たいのに?」

「よし、もうあいつにくれてやろう」

(今日も安定のチョロさ)









しおりを挟む
感想 1,228

あなたにおすすめの小説

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

処理中です...