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家族編
レスターお披露目パーティー3
しおりを挟む「どうせ国民の人気稼ぎか気まぐれでしょう?」
痺れを切らした猫の姫が言う。腹立つ!!
「この子は私の子です。誰にも何も言わせない」
クロムくんが私の腕の中で焦っているのが分かる。自分がひどい言葉を言われているのに、私のことを心配している。
「気まぐれでそばに置くのなら、もっと素晴らしいペットがあるわ?なんならプレゼントしてもよろしくてよ?竜国の王族は特別よ?異物は入れたくないの。血統というものがあるの。わかるかしら?」
「私はこの子を愛しています。それはずっと変わらない。あなたの様な人から守れるなら、血の盟約をしたっていい」
腹立つ!腹立つ!!腹立つ!!!
ユアンさんとルース君が目線を交わした後警戒を解いて下がった。何故かはよくわからないけれど、怒った私には関係ない。
「馬鹿ね?血の盟約は期限の設定があるのよ?強い効力をもつ神約だからこそ、必ず期限があるのよ。そんなの意味ないわ?
それにそんな重要書類を王族があなたに渡すわけないでしょ?」
いつのまにか会場がしんと静まり、招待客のみんなが私達に注目してしまっている。
「母上~!」
可愛い声がして、レスターが何か薄紅色の賞状の様な紙を持って私の元に来た。
「血の盟約書類です。俺は簡単に出せます故!」
そうか、レスターは王族だった。
レスターににっこりわらってみせて書類を受け取ると、丸まった書類がピンと張って私の目の前の空中に止まった。
何も書かれていない。
私は手をかざして思いを綴る。
——血をもって盟約する——
紬• 玲林• エルダゾルクは孤児クロムを愛し、愛しむ事を誓約する。
甲はこれより乙の親権を持ち、乙に関する全ての責任を取る。
乙はこれを受け、クロム• レイリンと名乗る事を許す。
————紬• 玲林• エルダゾルク
クロム君は目を見開いて書類を見てる。
頭のいい子だから、書くことはまだでも、読むことはできていたはず。
「クロム君、勝手なことしてごめんね。クロム君の署名もいるみたい。できる?」
にっこり笑ったクロム君が親指を口元に当て、ブチっと切り裂き、私の署名の下に押す。
「は!馬鹿ね!愛情に期限をつけるつもり?それにこの書類には保証人がいるのよ!?そんなことも知らないの!?」
「俺がなるぞ?もう一人は……」
リヒト様が急に現れて驚く。なんでもっと早くこないの!
「私がなろう」
ポンコツじゃないバージョンの陛下が王座から降りて来て面白そうに言う。
陛下とリヒト様が私の作成した書類に面白そうに手をかざす。
二人の署名が終わると、書類の文字がぽわっと全て金色に光り、契約書がふわりと私の顔の前で止まった。
「つむぎ、期限を言え」
リヒト様が優しく言う。
私は頷いて、クロム君を抱きしめながら言う。
——「永久!!」
書類の縁に金と銀の蔦の葉の絵が浮き上がり、楕円形に伸びていく。書類の文言を取り囲んで、一番上で複雑に絡んで止まった。
「へぇ、永久設定だとこんな風になるんだね~」
陛下が笑いながら手をかざすと、下から書類がキラキラとした光になって上空へ登って行った。
「この子は私の子。うちの長男なの。侮辱する事は誰であっても許さない」
「そういう事だ、引け。俺は番以外愛する事はできないし、番を悲しませる事はしない。側室は不要だ」
「そんな!我が国には竜人移民が沢山いるのですよ!?私の輿入れと共に全員をお返しすると言っておりますのに!」
猫の姫がリヒト様に縋ろうとするのをルース君が間に入って止めた。
人質とってんの!?
前にリヒト様に聞いたことがある。
はぐれ竜人の人達の事。
他国に住んで、他国の神と契約してしまった人達が、戻って来たくてもなかなか戻らせてもらえない話。
むかつきすぎて、逆に冷静になってくる。
「私の管理する天馬、名前のないものが一頭おります。各国の皆様から沢山のご要望を頂いていることも存じております」
息を吸って、堂々と見える様に。がんばれ私!
「つきましては皆様、竜人移民の返還五人につき一人のお方の天馬への面会を許可します。契約が叶いました暁にはそのまま持ち帰って頂いて構いません。私からの要望は大切にするという事だけ。お金も必要ありません」
ホール全体が一斉にどっと湧いてザワザワとし始めた。偉い人達が皆側近達と議論を始めている。猫のお姫様をズルズルと退場させる猫族の騎士が見え、天馬の話に青い顔で私に謝罪をしようとする猫族の王族がユアンさんに止められる。
「あはははははは!!そう来たか。なるほどね~紬ちゃんにしかできない外交だねぇ!やっぱり君は僕の妃になるべきだと思うんだけ『却下です』」
陛下の言葉にリヒト様が被せ、機嫌の悪い私の頭にキスを落とす。
「そろそろ機嫌をなおせ。笑った顔が見たい。これでもう誰もクロムを侮辱なんてできなくなった。お前がキレるのは子供のことだけだな。他の事はぼんやりしてんのに」
「悪口!」
リヒト様は楽しそうに笑ってまた私の頭にキスをした。
「やる事があるからかえる!!」
「なんだ?やる事って」
リヒト様はまだニヤニヤしてる。
「クロム君の手当です!!!レスターもおいで!文字を書く練習をします!!何で傷を付けるの!!!」
クロム君とレスターが顔を見合わせてにっこり笑う。
何でみんな笑うのよ!私は怒ってるのに!
◇◆◇
散々スパルタで二人に名前の練習をさせた。
クロム君は真面目で、嬉しそうに何度も何度もレイリンと書いている。
レスターは一度で出来て、すぐ飽きてしまったのを叱って何度も書かせる。
「やらされてんなぁ……」
リヒト様が離れの部屋に入って来て苦笑しながら言う。
着流しを着ているから、もう今日はここにいてくれる。
「傷なんてもう無かっただろ?」
「それは……そうだけど……」
クロム君の傷に癒しの力を使おうとしたら発動しなかった。よく見たら綺麗に塞がって傷跡すら無かった。
「お前らの母上は過保護だな」
「ははうえ、やさしい」
「クソ親父!母上の事悪く言うな!!」
リヒト様はカラカラ笑って私を抱き上げると、縁側まで運んで抱き込んで座ってくれた。
「お前らはまだ練習してろ。つむぎの命だぞ」
「ぼく、やる」
「うげっっ」
二人の可愛い返事を聞いて、リヒト様の体に体重を預けると、やっと力が抜けた気がした。
「百人単位で返還の申し込みがあったぞ。前代未聞だ。国中がお祭り騒ぎだぞ。天馬面会の為にユトミア国からも正式に謝罪があった。あの姫は格下の国に嫁ぐ事が決まったそうだ」
そんなん知るか!!
「あとはリヒト様がやって!!!」
まだ怒ってるんだからね!
「そのつもりだよ。面会に来るのは王族か騎士ばかりだ。俺がお前に会わせるわけねぇだろ」
「今日は疲れた!!!」
「俺が風呂に入れてやろうか?」
ニヤニヤしたリヒト様が嬉しそうに言う。
「…………ん」
「!?!? え、何のご褒美?久しぶりでヤベェ!!!」
「うるさい!!!!!」
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▶︎▶︎【あとがき】
リヒト 「俺の為に怒ったわけじゃねぇな!?」
ユアン (気づいたか……)
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