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最終章 人族編
番外編 ルースとクレア1
しおりを挟む「ルース様、子守りなんて大変ですわね?乳母に任せて私と周りませんこと?」
緑の巻き髪をクルクルといじりながら妖艶な視線を俺に向ける女に殺意が湧く。
驚いたクレアが隣で身を固くし、一歩二歩と下がるのが分かった。
「バリエン伯爵夫人、良い夜ですね。俺には大切なパートナーがおりますのでご容赦下さい」
「あらルース様、女性の趣味が変わったんですの?寂しいわ?」
来るもの拒まずで生きて来たツケがここに来て俺を襲う。彼女らの様な遊び慣れた者達にとって俺は都合が良い。
王弟の側近であり、次期侯爵の肩書はある種の優越感を刺激するのだろう。
「わた、私、ごめんなさいっっっ!」
華奢な腕が解かれてクルリと踵を返したクレアが走り去る。反射的に追いかけそうになるのを唇を噛んで何とか抑える。
「ルース、ここはいいから行ってやれ。リヒトには俺もユアンも付く」
クロードさんの言葉に我に返り何とか言葉を紡ぐ。
「いえ、仕事ですので」
「口調変わったままだぞ。落ち着け」
「……………………」
匂いの方角から見て妃殿下の所へ行ったのだろう。妃殿下なら悪いようにはしないはず。
◇◆◇
「ルースおっ前、ふっざけんな!紬まで家出しちまった!!!」
「つむつむ~~~泣ける~~~さすが女神~~~」
クレアを宥めてくれているらしいつむつむが、気晴らしに天空領にいるから早く謝りにおいでと置き手紙を残してくれていた。
クレアが俺に愛想を尽かす前に早く謝りに行かねばならない。
自ら惚れて落とした女の子なんて初めてで、まさか自分が殿下と同じ轍を踏むとは思わなかった。派手に遊んでいた訳でもないのに。
なぜかヴァルファデとテルガードがいないのは、レスター殿下とクロムが動かしたのだろう。あの二人と天馬二匹が付いているなら身の守りも万全だ。
急いで飛んで天空領を目指す。
殿下もブツブツいいながらつむつむを迎えに出る。
大きな湖でキャアキャアと可愛い声が響き、愛しい恋人の機嫌が良さそうでホッとする。
つむつむのおかげなんだろう。
「クレア……」
「——っ、ルース、さま……」
つむつむが俺達のために城の部屋と侍女を用意してくれていた。
女神アフネスの繋いだ縁に感謝を。
クレアは絶対にはなさない。
大人しく俺の腕の中におさまっているクレアは少し震えている。
抱き上げ城に入ると、鳥獣人の侍女が頭を下げて待っていた。
「お嬢様をしばしお預かりいたしましょう。湯浴みとお支度を。侯爵子息様は先にお部屋でお待ち下さい」
頷いてクレアを下ろすと不安そうにしながらも侍女と共に奥に消えて行った。
◇◆◇
「ひぇっ!こ、こ、これ、本当に紬ちゃんが用意してくれたんですか!?」
「えぇ、あら、こんなのもございますわ?全て新品の様ですのでご安心ください、妃殿下の侍女の方は優秀ですわねぇ。クレアお嬢様にお似合いの色目ばかりですわ?」
「い、い、い、一番シンプルなやつで!!お願いします!!!」
紬ちゃんの用意してくれたお泊まりセットには、可愛らしい下着と夜着、高級なオイルや化粧品がこれでもかと詰まっていた。
カカラさんに広いお風呂で隅々まで磨かれてお姫様みたいな扱いを受けて舞い上がってしまう。
「クレアお嬢様、妃殿下のお気持ちですわよ?ここで逃げたら女が廃りますわ!?」
「えぇぇぇ……」
いい匂いのするオイルを全身に塗り込みながらカカラさんは下着の吟味にかかっている。
紐みたいな下着や、フリフリがいっぱいついた可愛らしい下着。淡い色のレースで肌が透けるネグリジェ。これ、本当に着るの?
「お嬢様の栗色の髪に映えるのはこちらでしょうかね?」
カカラさんが淡いブルーのレースでできたネグリジェを指す。
「ひぇっ……」
「まあまあ、私にお任せ下さいまし!」
お揃いのリボンのついたパンツにネグリジェだけを肌に通す。え?これ、完全に透けてるけど合ってる?つむぎちゃん?え?
「まあ、本当にお可愛らしいですわね。髪はハーフアップに致しましょうか。妃殿下から、新品の打掛をどれも好きに使って良いと伝言されております。この上に素敵な着物を羽織りましょうねぇ」
「ひぇ、紬ちゃんの、打掛……こ、高級なのしか無さそう!!!」
ニコニコしたカカラさんが丁寧に髪を結っていく。髪にもオイルを揉み込んでもらったので艶々だ。すごい。
綺麗にお化粧もしてもらってちょっと大人っぽい私が鏡に映る(お化粧品も全部新品だった。使ってみたかった憧れのやつ!)
「すすす、すごい……」
「元が良いのですわ?さあ、参りましょうか」
「へっ!?」
「おやまぁ、既に廊下で待っていらっしゃるようですわね…………絶対に逃さない圧を感じますわねぇ」
「はい!?」
うん、廊下にルース様、いるね。匂いで分かる。む、迎えに来てくれたの?
そんな事でときめいてしまう私はちょろいのかも……。
あんなことがあって、怒っていいのか泣いていいのかも分からない。
元々雲の上の人だし、私はやっぱり遊びだったのかも。
それでも、迎えに来てくれたのは嬉しいと思ってしまう。
つむぎちゃん、私、がんばる!!
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