【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香

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最終章 人族編

アルバイト

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「今日はパンとミルクと、鹿肉がとれたので、おすそわけです!」

 お兄さんの持ってくるプレゼントと、リオネルさんのお裾分け、子供達が村や街から買ってくる物で、生活に不自由はない。

 けれどいつまでもこのままでいいわけがない。
それはわかってる。

「あの、リオネルさん、ちょっと相談があって……」

「はい!なんでも言ってください!」

「私、働きたいのです。いつまでも子供達に頼りっぱなしというのもおかしいですし。どこか私でも出来る働き口を紹介していただけませんか?」

「っ!?そ、それならうちのパン屋で働きませんか!?母親が亡くなって、親父と俺だけじゃ売り子も作り手も足りなくててんてこ舞いなんです!」

「わぁ!本当ですか!?ありがとうございます!」

 すごい!異世界でお仕事をもらえた!!

「母上!!!母上が働くなど!いけません!」

「ははうえ、だめ」

 二人の息子が私の着物の裾を握り、必死で訴えてくる。

「二人ともどうしたの?私は二人のお母さんなんだよ?ちゃんと働いて、貴方達を養わないと!」

「それでもいけません!我ら兄弟が金などどうとでもできましょう!」

 クロム君までコクコクと頷いている。

「貴方達はまだ子供なの。お金の事は大人が考える事!!」

 驚愕の顔の2人が私を見上げる。何なのか。

「ぷは!それでは、週に一、二度からはじめてみませんか?うちは中に小さなスペースがあって村の爺さん達が常におります。お子さんたちをそこで見ていて貰えばよいのでは?」

「そこまでしていただいてよいのでしょうか……」

「うちも働き手がほしいですから!」

 保育付きの職場なんてありがたい!

「あ、兄上、これは、まずいですよね……隠し通せますでしょうか……」

「ルース兄、もう報告、してるはず」

「ルース!!帰れ!!!!」

 どこからかケタケタと笑う声がする。
ルース君?
なんで隠れてるんだろ。意味わかんない。

「もし良かったら今から職場見学してみませんか?うちのパン屋、中まで見た事はないでしょう?」

「はい!宜しくお願いします!!」



◇◆◇



 ウキウキと上機嫌で歩く私と、ふよふよと飛ぶ不安そうなレスター。ひしと私にしがみつくクロム君。

 その隣をめいいっぱい私の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれるリオネルさん。

「あ、兄上、双子は……」

「ルース兄、見てる。大丈夫。多分、応援呼んだ。ユアン兄か、クロード兄が来たらルース兄、こっちくる」

「そ、それならば、安心ですが……」

 コソコソと話す息子たちが不安そうに私の周りを飛ぶ。アルバイト、そんなに心配なのかな?

 小さな村なのでリオネルさんのお店にはすぐに着いた。緑のドアの可愛らしいお店。
ドアを開けるとお店は縦奥に長く、奥の方に木の丸いテーブルが2つあり、3人のお爺さんがゆったりとコーヒーをのんでいた。

「おお、リオネル坊主、やっと結婚する気になったか!……しかし高望みしすぎじゃないか?」

「ほんにほんに、これはなんといって引っ掛けたのか是非ともききたいのぉ。高望みもここまでくると怪奇現象じゃとて」

「リオネル、誘拐かの?」

 三人のお爺さん達が口々にリオネルさんをからかう。
岩みたいに厳しそうなお顔をしたお爺さんと、背が高く凛としていて、白いローブを着たお爺さん、三人目は白い眉毛、長い白髭で表情が見えない小さなドワーフみたいなお爺さん。三者三様な風貌だ。何の獣人なのかは全くわからない。

「んなわけあるか!うちの新しい売り子さん!あんたら暇ならこの子らの面倒見とけ!!」

 リオネルさんが雑な頼み方で子守を頼むのを見て、慌てて自己紹介をする。

「あ、あの、紬と申します。二人は息子のクロムとレスターです。よろしくお願いします!」

 私がガバッと頭を下げたのを見て息子二人が驚いた顔をする。
「クロム君、レスター、お行儀よくね?お願いよ」

「母上の足手纏いにはなりません故、ご安心下さい」

「ははうえ、魔球壁、はる」

 なぜパン屋で働くのに結界が必要なのか。いらないよね普通……。

「クロム君、結界はいらないよ?とにかく、二人はいいこでね?」


◇◆◇


 だ、ダメだ。いまの母上には何をいっても通じない!
王弟妃の母上が働くなど!
親父からも多すぎるほど送金されているしミリーナが選んだ物資も来る、それに我ら兄弟が外に出れば金を稼ぐなんて簡単なのに!!

「あ、兄上、いかがしましょう……一応ここから常に厨房は見えます故、警戒は出来ますが……」

「ルース兄、いる。さっき、わざと気配だした」

「ルース!必ず守れ!!」

「承知」

 上からルースの声が降ってくる。

 母上は人間だからなのか我ら兄弟をやけに卵扱いする。何も出来ない卵扱い。それはとても心地よいが、今回のような時はとても困る。
お体も弱く、華奢な母上が時に我ら兄弟を守ろうと前に出てしまう。

「ふぉっふぉっ、坊主ども、過保護よのぉ」

「ははうえ、だいじ」
「母上は、お身体が弱いんだ……」

「まぁまぁ、リオネルがなんと言って連れてきたかは知らんがの、ここは小さな村のパン屋じゃぞ。客なんてなかなかこん。暇な職場じゃ。大丈夫じゃよ。母は強し、じゃ」

 そんな事わかってる。
母上は聖女だ。常に御身は狙われる。それにお綺麗だから、無駄に目立つ。母上本人に自覚がないのが一番タチが悪い。クソ親父!何してくれてんだよ!ちゃんと守れよ!!!

「聡いお子達じゃのぉ~~~。子守りか。なかなか楽しそうじゃ。どれ、一局」

 そう言ってジジイ1が出したのはチェス盤だった。最近始まった貴族教育でルールは知ってる。

 ジジイ2がもう一つ同じチェス板を出して兄上に駒を並べろと指示している。

 ジジイ3は……白いふさふさの眉で目が隠れていて寝てる……?のか?よくわからない。

 母上を守らなきゃいけないのに!
何でジジイと遊んでやらなきゃならないんだ!!










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