【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香

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最終章 人族編

トラウマを戻す

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 子供達に食事をとらせてからベットに寝かしつけ、お兄さんと夜道を歩く。
クロム君が呼ぶまでもなく迎えにきていた様で、子供達を家まで抱いて運んでくれた。

「紬から呼んでくれたのは、嬉しい」
お兄さんはそう言って苦しそうに笑った。

「うん。話を、しないとと、思って。レスターの様子が変なの、それで……」

「あぁ」

「気がついていたの?」

「紬が俺を拒絶する度に、複雑そうな顔をしていたからな」

 私は、気が付かなかった。
いつもそばに居たのに自分の事ばっかりで。
親失格だ。
あの子の気持ちを考えてなかった。

「私のせいだ、私があの子を傷つけた」

 涙が盛り上がって後から後から頬を伝う。
自分のことばかりで、何も考えれていなかった。
あの子は必死に私を守ろうとしていたのに。

「あいつは強いから、大丈夫だよ。俺の子だぞ」

「あなたの事を、知らないもの」

「これから知ればいい。俺はお前を諦めない」

 甘い言葉をかけるくせに、私の記憶がなくなる様な事をしたんだろうか。

「お兄さんは、何をしたの?」

「皇女のエスコートをした」

「それだけ?」

「それだけだ」

「それで何で私は記憶を失うの?」

「それ、は………………」

「話して?」

 お兄さんは立ち止まり、じっと私を見る。

「レスターは竜国の王族だぞ。心も体も強い。あいつは大丈夫だ。俺はお前の心を守りたい」

「私は嫌。ちゃんと教えて欲しい。お兄さんが誰で、何があったのか」

「………………レスターも、お前を守りたいはずだ。そんな事望んではいない。獣人の男は強い、大丈夫だ。俺のことは……忘れたままでいい」

痛々しく笑う彼が私の頭を撫でる。

「それじゃあだめなの、私も、お兄さんも」

「………………」

 お兄さんはしばらく考えた後、一言一言吐き出すように、すごく辛そうに、話し出した。


 人間国との長年の条約の事。
つつみさんの事。
私が浮遊領に連れて行かれた事。
毎夜の強姦未遂の事。

 呆然とする私を抱きしめて、お兄さんは続ける。

「体は子供達のおかげで無事だった。けど、心はズタズタになったんだ。俺と離れる事を極端に怖がる様になって…………過呼吸を起こすから毎日昼に一度王宮で会ってた。あの日も会うはずで…………姫たちのエスコートで遅くなって……そこに紬が鉢合わせた」

 私を抱きしめる腕に力が入る。

————少しの煙草と、石鹸の匂い。

————リヒト様の、匂い

「リヒト、様…………?」

 暴力的な程の記憶の波が私の頭に流れ込む。
毎夜の強姦に怯えた事、水が飲めずに苦しかった事、子供達を手放して、強姦され死ぬ道を選んだ事。

「あ…………っ、……あ゛ぁ……」

「紬!!大丈夫だ!!俺がいる!!!もう大丈夫だから!!ぜったい離れない!俺は諦めないから!!!!」

「リヒ、ト様、私……」

「っ——!思い出したか?ごめんな。忘れたままの方が紬にとっては良いと思っていた。俺のことは思い出さなくても、辛い記憶などない方がいいと思った」

 頭がガンガンする。
ふらつく私を支えて抱き上げてくれる。

「子供達のところに帰ろう。送っていく」

「うん、帰らないで」

 リヒト様はそれには答えず、私を抱く腕に力を込めた。







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