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第一章 兄とは妹を守るために存在する
さわるな、俺の妹だ!
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ギルバートは後ろ手に縛られ、ようやく竜の口から解放される。
砕けた花壇に座り、おとなしくながめていたイブリースが、たちあがる。
『ギルと話してもいい?』
「手短にどうぞ」
『エリオット、君も大変だね。いい使い魔を紹介してあげようか? 格安で』
「けっこうです」
『ちょっと魂を堕天させるだけだから、気が変わったら、いつでもどうぞ』
「お気遣い感謝致します」
温度の無いやりとりに、ゼノの顔色が悪くなる。
チラリとイブリースに目を向けられ、あわててあさっての方向へと首をまわす。
イブリースは、それを喉で笑ってから、ギルバートの顔をのぞきこんだ。
『ギル、生きてる? 死ぬなら、命令終了って宣言してからにしてね?』
ギルバートが、深いため息をついた。
「命令終了だ。報酬は俺の魔力。さっさと抜いていけ」
『じゃ、遠慮なく』
イブリースは、指先でギルバートのあごを上げる。
そうしてむきだしになった首筋に、躊躇なく牙を突きたてた。
ギルバートが、苦悶の表情で声を殺す。
血液とともに魔力が抜かれる感触に、ひどい目眩がした。
視界が白くなりかけた時、引き結んだ口元を、冷たい指に割りひらかれた。
「……ぅ、あ」
『ギル、もっといい声で鳴いてよ』
牙の跡をひとなめして、イブリースが顔を離す。
ギルバートの頬に手を添え、碧眼に浮きあがった涙をぬぐった。
「お兄様、ご無事ですか?」
「アンジェリカ!」
ギルバートの顔が晴れる。
その頬に残った傷に、イブリースが爪をたてる。
はじかれたようにこちらを向くギルバートに、イブリースはにっこり笑う。
『ぎりっぎりまで魔力を抜いたのに、なんでそんなに元気なの? ギルの体、じっくり調べたいな』
「断る」
『えぇ~冷たいの。ねぇ、アンジェリカ』
イブリースが、アンジェリカに抱きつく。
ならんではじめて、二人の造形が似ていることがわかる。
「さわるな、俺の妹だ!」
『ねえギル。魔力のお礼に、いいこと教えてあげる』
「いらん。さっさと帰れ」
『アンジェリカのことなんだけど』
「……なんだ」
あまり期待を込めずにイブリースを見上げたギルバートに、悪魔はとてもいい笑顔を見せた。
そして、アンジェリカの制服の胸元からゆっくりと手を差し入れていく。
見せつけるように布を起伏させ、円を描くように動かした。
反対の手はアンジェリカの柔らかな内ももを撫で上げながら、スカートの中まで這わせていく。
キュッと目をつぶったアンジェリカの頬が桃色に染まり、ほそい肩がピクリと動いた。
『去年から、胸囲が5cmも大きくなっているよ』
アンジェリカが、切なげなため息をこぼす。
イブリースはスカートの中を弄っていた手を抜きとると、その指をネットリと舐めあげた。
ギルバートの目が据り、地を這うような声を出す。
「……淫魔が。浄化してやる」
イブリースは動じる気配すらなく、不思議そうにまたたいた。
『そんなことしたら、ギルも死んじゃうよ?』
「かまわん。貴様との腐れ縁もここまでだ」
『そう? 契約の解除は、ギルのいちばぁぁん大切なものをもらっていくよ』
わざとアンジェリカを見やったイブリースは、吹きつけるような殺気を放つギルバートをニタニタと眺めた。
『僕はどちらでもいいけどね』
そうして悪魔は、裂けた空間に消える直前、ふわりと少女を振りかえる。
『ふふ、ごちそうさま。今度は直接、舐めたいな』
空は唐突にもとの青さを取り戻した。
充満していた瘴気が、あとかたもなく消えさっている。
「イブリース!!」
魔力を抜かれたギルバートが、悪魔を呼ぶ術はない。
吠えるギルバートを、エリオットは手刀で黙らせる。
昏倒した彼を担ぎあげ、平然と愛竜の背中に放りなげた。
不服そうに唸る竜の首筋をたたき、慣れた動作で鞍に飛び乗る。
「撤退」
彼の命令を受け、竜騎士たちが、竜を飛翔させる。
大気が揺らぎ、風圧が逆巻く気流となって、うすく色づいた花びらを巻きあげた。
離れた位置で見守っていたアンジェリカは、その幻想的な光景に息をのむ。
エリオットは飛びたつ寸前、なにかを思い出したかのように、少女の方を振りむいた。
「入学おめでとう、アンジェリカ」
暖かい響きで告げられた祝辞に、アンジェリカの心が弾む。
「ありがとうございます」
エリオットが前方に向きなおる瞬間、わずかに微笑んでいたことに、アンジェリカは目を丸くする。
彼の稀少な笑顔に、心臓がトクンと脈打った。
あっという間に空に溶けていった竜影を、アンジェリカは蒼天に探す。
彼が去った方向を見つめながら、色づいた頬の熱に浮かされるように、そっと顔をほころばせた。
季節は春。
街には花が咲き乱れ、鳥は恋の歌をさえずり踊る。
吹きぬけた軽風が頬をなで、運ばれたひとひらの花弁が、少女の影に舞いおりた。
砕けた花壇に座り、おとなしくながめていたイブリースが、たちあがる。
『ギルと話してもいい?』
「手短にどうぞ」
『エリオット、君も大変だね。いい使い魔を紹介してあげようか? 格安で』
「けっこうです」
『ちょっと魂を堕天させるだけだから、気が変わったら、いつでもどうぞ』
「お気遣い感謝致します」
温度の無いやりとりに、ゼノの顔色が悪くなる。
チラリとイブリースに目を向けられ、あわててあさっての方向へと首をまわす。
イブリースは、それを喉で笑ってから、ギルバートの顔をのぞきこんだ。
『ギル、生きてる? 死ぬなら、命令終了って宣言してからにしてね?』
ギルバートが、深いため息をついた。
「命令終了だ。報酬は俺の魔力。さっさと抜いていけ」
『じゃ、遠慮なく』
イブリースは、指先でギルバートのあごを上げる。
そうしてむきだしになった首筋に、躊躇なく牙を突きたてた。
ギルバートが、苦悶の表情で声を殺す。
血液とともに魔力が抜かれる感触に、ひどい目眩がした。
視界が白くなりかけた時、引き結んだ口元を、冷たい指に割りひらかれた。
「……ぅ、あ」
『ギル、もっといい声で鳴いてよ』
牙の跡をひとなめして、イブリースが顔を離す。
ギルバートの頬に手を添え、碧眼に浮きあがった涙をぬぐった。
「お兄様、ご無事ですか?」
「アンジェリカ!」
ギルバートの顔が晴れる。
その頬に残った傷に、イブリースが爪をたてる。
はじかれたようにこちらを向くギルバートに、イブリースはにっこり笑う。
『ぎりっぎりまで魔力を抜いたのに、なんでそんなに元気なの? ギルの体、じっくり調べたいな』
「断る」
『えぇ~冷たいの。ねぇ、アンジェリカ』
イブリースが、アンジェリカに抱きつく。
ならんではじめて、二人の造形が似ていることがわかる。
「さわるな、俺の妹だ!」
『ねえギル。魔力のお礼に、いいこと教えてあげる』
「いらん。さっさと帰れ」
『アンジェリカのことなんだけど』
「……なんだ」
あまり期待を込めずにイブリースを見上げたギルバートに、悪魔はとてもいい笑顔を見せた。
そして、アンジェリカの制服の胸元からゆっくりと手を差し入れていく。
見せつけるように布を起伏させ、円を描くように動かした。
反対の手はアンジェリカの柔らかな内ももを撫で上げながら、スカートの中まで這わせていく。
キュッと目をつぶったアンジェリカの頬が桃色に染まり、ほそい肩がピクリと動いた。
『去年から、胸囲が5cmも大きくなっているよ』
アンジェリカが、切なげなため息をこぼす。
イブリースはスカートの中を弄っていた手を抜きとると、その指をネットリと舐めあげた。
ギルバートの目が据り、地を這うような声を出す。
「……淫魔が。浄化してやる」
イブリースは動じる気配すらなく、不思議そうにまたたいた。
『そんなことしたら、ギルも死んじゃうよ?』
「かまわん。貴様との腐れ縁もここまでだ」
『そう? 契約の解除は、ギルのいちばぁぁん大切なものをもらっていくよ』
わざとアンジェリカを見やったイブリースは、吹きつけるような殺気を放つギルバートをニタニタと眺めた。
『僕はどちらでもいいけどね』
そうして悪魔は、裂けた空間に消える直前、ふわりと少女を振りかえる。
『ふふ、ごちそうさま。今度は直接、舐めたいな』
空は唐突にもとの青さを取り戻した。
充満していた瘴気が、あとかたもなく消えさっている。
「イブリース!!」
魔力を抜かれたギルバートが、悪魔を呼ぶ術はない。
吠えるギルバートを、エリオットは手刀で黙らせる。
昏倒した彼を担ぎあげ、平然と愛竜の背中に放りなげた。
不服そうに唸る竜の首筋をたたき、慣れた動作で鞍に飛び乗る。
「撤退」
彼の命令を受け、竜騎士たちが、竜を飛翔させる。
大気が揺らぎ、風圧が逆巻く気流となって、うすく色づいた花びらを巻きあげた。
離れた位置で見守っていたアンジェリカは、その幻想的な光景に息をのむ。
エリオットは飛びたつ寸前、なにかを思い出したかのように、少女の方を振りむいた。
「入学おめでとう、アンジェリカ」
暖かい響きで告げられた祝辞に、アンジェリカの心が弾む。
「ありがとうございます」
エリオットが前方に向きなおる瞬間、わずかに微笑んでいたことに、アンジェリカは目を丸くする。
彼の稀少な笑顔に、心臓がトクンと脈打った。
あっという間に空に溶けていった竜影を、アンジェリカは蒼天に探す。
彼が去った方向を見つめながら、色づいた頬の熱に浮かされるように、そっと顔をほころばせた。
季節は春。
街には花が咲き乱れ、鳥は恋の歌をさえずり踊る。
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