【運命】に捨てられ捨てたΩ

あまやどり

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第四章 最愛の番

十六

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拓海が姿を消してから一年が経った頃。
桜は散り、夏の前触れにじめじめとした空気が身体にへばり付く梅雨の季節のこと。
南は拓海が見つからない焦燥とこの季節の風情にいらいらとしていた。
「南くん。久しぶりだね」
そう言って、カルテに白鳥陽介と書かれた男が南の診察室に入ると挨拶をした。
南は彼の顔を見て、驚きの色を瞳に浮かべた後、希望に満ちた笑みを浮かべた。
「ヨウさん!」
ママのお店の常連で、拓海に会いに行くと話をする程度には見知った仲だ。
拓海がいなくなってから、連絡先を交換していなかったことをすぐに後悔した。
ママと旧知の仲だと聞いていたからだ。
この人ならママか拓海の居場所を知っているはずだと、患者だということを忘れてヨウ君に詰め寄って言った。
「拓海の居場所を教えてください! 店のママの居場所でもいいんです! お願いします」
その声を聞いて何事かと看護師が診察室を覗いた。
南は「気にしないでくれ」と看護師に声をかけて、診察室にあるカーテンを閉めた。
ヨウ君は眉じりを下げて話した。
「そのことなんだけどね、今拓海君は幸せそうなんだ。君の話を何度もするもんだから、彼も君に会いたいのだろうね」
「……拓海」
「僕とママは彼がこのまま苦しむ道を作りたくないんだ。でもね、拓海君の幸せを考えたら、君と会わせることのが良いと思って今日は会いに来たんだよ」

南は二日間の休暇をとり、拓海に会いに行った。
東北行きの新幹線の窓から見る景色が青い空と草木の緑ばかりにかわる。拓海の生まれも育ちも東京であることは知っていた。やはりママやヨウ君の知った土地に身を置いていたのだと分かり南はほっと胸を撫で下ろした。
二時間ほど乗っていると、「そろそろ着くよ」とヨウ君は南に教えてくれる。
窓の外から見える景色は山に囲まれた自然豊かな土地だった。
「凄い田舎だろう。僕の地元なんだ」
「ここに拓海が」
「……君にとったら、彼のいるところが全てなんだろうね」
南は窓ガラス越しにヨウ君の輪郭を捉えることは出来たが、彼の表情までは読み取れなかった。
雨が窓を打つ音が消えて駅のホームに入ったアナウンスが乗客に知らせる。

駅のホームからタクシーに乗り、10分ほどで着いた場所は家と大型ショッピングモールが建つ場所だった。
ヨウ君に連れられて行くと小さな商店街があった。ヨウ君が鍵を開けてお店に入る。
スナックらしいそのお店を懐かしく思った南はそこがママのお店だとすぐに分かった。
開店前で人はおらずヨウ君が鍵を開けたことから主人も留守なのだろう南は少し安堵した。
ママに会ったら追い出されていたに違いない。不甲斐無い俺のせいで、拓海ひとりにつらい思いをさせてしまったのだから。
そう思いながら南は、暗い室内を見渡す。南がどこか懐かしさを感じたのは、間取りは建物上東京のものとは異なるが、前のお店と同じ内装で飾られていたからだ。南は拓海とママ、ヨウ君との思い出を脳裏に浮かべた。
「二階が住まいでね、仕事の荷物を置いてくるからちょっと待っててね」
「わかりました」
キャリーケースを二階に置きに行って、戻ってきたヨウ君に南は尋ねた。
「拓海もここで過ごしているんですか?」
「最初の頃はね、今は別の場所で過ごしているよ」
「別の場所? どうしてですか?」
ヨウ君はカウンターに掛けるように南に促した。
南と自分用にアイスコーヒーを入れる。紙パックの珈琲は好くママのお店で見たものだった。
ジメジメとした空気のなか飲むアイスコーヒーの冷たさが南の頭を冷やした。ヨウ君も一口飲むと整理がついたようにゆっくりと話し始めた。
「彼呑まず食わずで栄養失調で外にも出られなかった。自分のやるべき事を見失ったみたいだったよ。一度東京の根精神科にも連れて行ったんだ、だけど良く休むようにとしか言われなくて、彼休む事が気に病む性質なのにね」
また一口アイスコーヒーを口に含む。
「それでね、暫くして地元に小さな病院があるんだけど、そこの院長がご高齢だから事務でもいいから拓海君を働かせてもらえないだろうかと、お願いしたんだよ」
「それでね、働いている人も高齢な方ばかりで事務の方で快く引き受けてくれて、回復した今はそこでひっそりと医者として働いているよ」
南はうっすらと浮かんだコップを強く握った。
「南君のおかげで、医者として未経験じゃなかったら院長も安心して彼に仕事を任せてるよ」

今の拓海は回復して医者としてしっかり働いているのに、自分はいつまでも拓海が弱いままだと決めつけていた。
拓海の事を助けたいと思っていたのに、彼はもう前を向いているんだ。このまま会っても良いのだろうか。
俺は拓海を東京に連れ戻したいのか? 彼の医者としての人生をまた邪魔するつもりか?

ヨウ君が話し終えてから数十分の間これからの事を考えた南は、「拓海の居る場所に連れてってください」と頼んだ。

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