【運命】に捨てられ捨てたΩ

あまやどり

文字の大きさ
63 / 65
エピローグ

しおりを挟む
ママのスナックがある商店街から少し離れたところを拓海は歩いていた。
梅雨なかのジメジメとする道を進むと看板建築が少しと欧風文化が色濃く映る白い小さな診療所がある。拓海は診療所の傍に男の人影あるのに気づき、その姿を確認すると足を止めた。
 どうして、あいつがここにいるんだよ。
男は拓海の存在に気づいて振り返った。曇天の空の隙間から光が差し込む。彼の白磁の肌を照らし、その顔がよく見えた。
「久しぶりです、拓海さん」
「……秀也」
呟いた名前に秀也が銀フレームの眼鏡の奥で切れ長の目を細めた。
 会いたくなかった。会えるわけがなかった。俺はお前を……。
拓海は乾いた土の上を擦るように後退りをしたが、腕を引かれてその場から離れることができなくなった。
小さな掠れる声が聞こえた。
「貴方と話がしたくて」
「はな、し?」
「僕が……拓海さんを傷つけた事です」
秀也の顔が痛々しく拓海はつい、顔に触れたくなった。その手は頭に南の顔が浮かんだことによって思いとどまった。
「それは、もう……終わった事だろ! ここまでする必要があるか?」
声がだんだんと大きくなる。
 また、職場の近くで大ごとにして、先生たちに迷惑をかけてしまう。どうにか声を抑えて、冷静に……。
以前と違って田舎のこの場所は、田畑に囲まれているおかげで人のとおりは少ない。この診療所にくる人は近辺のご老人で、畑仕事中にけがをしてお茶を飲みに来るくらいだった。夕方から雨が降る予報のせいか今は人ひとりいない。
 そろそろ雨が降りそうだ。
鼻先をとおる湿り気の土の匂いにふと空を見上げた。灰色の層の重い雲が地面に近づいている。
「ちゃんと貴方に謝りたいのです」
秀也の声に拓海は彼に目を向ける。
 謝りたい、か。真面目というか、律儀というか。俺はこいつを前にすべてを投げ出してきたというのに。
 出来ることなら会いたくない。過去のことを掘り下げられたくない。
 あの時、俺が秀也にしてやれなかったこと。――俺は秀也を信じて、待っていなかった。
「……喫茶店での別れで、俺は吹っ切れたんだ。勝手かも知れないが、俺はもう」
 頼む。もう帰ってくれ。俺がおまえから逃げたことを思い出させないでくれ!
「拓海さん、俺が日本にいなかった間、ツラい思いをさせてしまいました。俺があなたを守ると言ったのにあなたの名前を呼ぶことさえ出来なかった……」
 お前は何も悪くない。俺が負けたんだ。あの状況から俺は逃げ出したんだ。
「拓海さん、あれから一年の時間が過ぎました。ですが、貴方のことを思うならまだ会うべきではなかった」

「会いに行けばまたあの日々を思い出してしまう。僕がまた平穏を壊してしまう。何度もそう考えました。けれど、拓海さんから僕たちの恋を終わらせてくれないと、意志を尊重してあげられない」

「拓海さんを僕の番にしたい、この衝動を抑えられない」

「……秀、や?」

突如変わった秀也の雰囲気に身体が固まり、掴まれていた腕に身体が引きずられた。秀也の腕の中に閉じ込められた拓海は身体をこわばらせ、腹の奥が疼き始めていることに気付いた。甘い匂いが辺りに広がり拓海の防衛本能は警鐘を鳴らした。
「い、やだ! 離せ――」
拓海の声は秀也の胸に塞がれた。 
「拓海さん……本当に僕が好きでした?」
「う、ぅう」
「僕は拓海さんを愛していました」
「ぅ、……」
秀也の身体を自分から離すように押すが、一向に身体が離れない。
 服から秀也の匂いが……。駄目だ、このままじゃ――
「――おい! 拓海!」
背後から肩を引かれ、自分を呼ぶ声に拓海は涙を流した。
「み、南せん、っぱい!」










しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

【完結】初恋のアルファには番がいた—番までの距離—

水樹りと
BL
蛍は三度、運命を感じたことがある。 幼い日、高校、そして大学。 高校で再会した初恋の人は匂いのないアルファ――そのとき彼に番がいると知る。 運命に選ばれなかったオメガの俺は、それでも“自分で選ぶ恋”を始める。

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

神楽

立樹
BL
谷川彰也は、大学でも美形で人の注目を集めている近松神楽にモーニングコールをしている。 ただ、モーニングコールをするだけの仲だった。ある日、コールをしていることがバレてしまった。 彰也も近松に言っていない秘密があって……。

処理中です...