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エピローグ
二
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「大丈夫か!」
南が拓海と秀也を離し拓海を背に隠すように間に入る。
秀也の目はぼおと拓海を捉える。その鋭い両眼には想い合っていた時の優しい秀也とはかけ離れた独占欲に塗れた熱だけが籠っていた。
先ほどまで拓海が感じていた身体の熱は落ち着いていて、身体から血の気が引くような寒さと冷や汗が垂れる。
こんなの秀也じゃない! なんで、なんでこんなところに! 俺はもうあんな思いはしたくないのに!
南が秀也に何かを叫んでいる言葉が徐々に鮮明に聞こえてくるようになり拓海は冷静さを取り戻した。南に窘められている秀也は耳に手を当てて頭を抱えるように蹲っている。あの堂々として笑顔が輝いていた学生の時の姿と打って変わって癇癪を起した子供のように小さくなっている。
目の前にいるのが過去のあの優しかった秀也ではないのだと、気づいた拓海は思い出が溢れ出て悲しくなった。
「そうだ、な。俺がお前と、二人の関係を終わらせなきゃいけないんだ」
拓海は南の背から前に出た。南に握られた手が震える。それに気づいた南はさらに固く握りしめた。
「秀也。途中で逃げ出してごめん。俺はオメガでお前はアルファだ。だから実家から良い目で見られることはないと分かっていた――つもりだったんだ。結局俺は耐えられなくてお前の前から逃げ出した。何も言わずに。俺の感情ばかりを優先してしまった」
秀也は拓海を見上げる。拓海はしゃがんで片方の手で秀也を抱きしめた。
「ごめん。不安にさせたのは俺も同じだった……」
「たく、みさん」
「……俺は、俺なりに秀也を愛していたんだ、……」
拓海は込み上げる嗚咽を必死に抑え込む。
「けど、愛そうと必死だったんだ。お前を失うのが怖かった。お前の優しい心を離したくなかったんだ」
小さな声で、だけどしっかりと、拓海は秀也に伝えた。
「……もう俺はお前を愛することが、出来ない」
秀也の息が止まった。顔を地面に下ろし暫く空虚を見つめているようだった。
拓海は手を離すことが出来なかった。抱きしめて離せなかった。
ごめん、ごめんなさい、秀也も南さんも、俺のせいで、俺が弱かったから……
――ごめんなさい
「ごめんなさい、拓海さん。守れなくて、僕の身勝手な行動が、……あなたを苦しめた。本当にごめんなさい」
顔を上げた秀也は自ら拓海の腕を離した。
真っ蒼な顔色に似合わないあの頃に戻ったかのような柔和な笑みを浮かべた秀也はどこか儚くも思い切りが付き、自分の足でしっかりと立っているようだった。
「さようなら、拓海さん。僕を忘れないでいてくれてありがとう」
―――
――――――
曇り空は晴れて、夕日が差し込んで伸びた影を見下ろしながら二人は手をつないで隣あって歩いている。
拓海は南の顔を見れなかった。それは申し訳ない気持ちでいっぱいだったからだ。
何日、いや何か月ぶりだろうか、そんな考えは浮かんでこなかった。
「ごめんなさいご心配をおかけしました」
「……そうだな。心配した」
「……すみません」
めっちゃ怒っている。……当たり前か。恩人ともいえる人に黙って勝手に消えて。俺はなんて薄情なんだ。
自分を責め続けていると腕が引かれた。繋いだ手は南の足が止まってことで引っ張られたのだ。
「先輩?」
振り返ると夕日の逆行で南の顔が影になって見えづらい。
「……拓海、ここにいる間ちゃんと寝れたか? 飯は食えていたか?」
「お前が家を出てってから俺はそれだけが心配だった。だから、この村でのお前の様子を見て安心して、また無理に関わるつもりはなかったんだ」
「スナックのママとヨウ君が手助けしてくれて、村の人もいい人ばかりで、俺はッ」
本音を言うと拓海は何も考えずにいられるこの小さな世界で幸せに生活していた。安心して人と関わって、何にも脅かされないこの生活は過去の自分を忘れられた。
けど、夜一人になるといつも南と秀也の顔が頭に浮かんで、寝れない日もあったのだ。問題から逃げて、先延ばしているのか、それとももう過去の存在自体を消したいのか。
「でも、俺は南先輩を思い出すたびに、笑顔の先輩しか浮かばなくて、俺は先輩を裏切って、優しくしてくれた人を……心配してくれると分かっているはずなのに何も言わずに……」
まとまらないまま口から出た言葉は拓海の精一杯の言い訳で、懺悔するような謝罪で。
本当に言いたいことは言えずに、南の言葉を待っているようなそんな浅ましい気持ちを見て見ぬふりしている。
南は必死に言葉を選んで伝えようとしている拓海の手を引いて抱きしめた。
「良いんだ。また見つけられたから」
「なあ、拓海、……愛してる」
一人でいても何度も優しくされた記憶が拓海の心を満たしてくれた。
―――反面思い出すたびに南が恋しくなった。
俺は、……そうだ。一人でいられたけど、独りではいられなかったんだ。
「南先輩、俺の番になって下さい」
そう言って愛の告白の返事をキスとともに返した。
「もう離せねーよ、いいのか?」
「……もう離れたくないんです」
「あ―――くそ、俺アルファなのにいつもおまえの前じゃカッコつかねえ!」
「……せんぱい? 番はダメですか?」
拓海はそう言って南を強く抱きしめる。見上げれば南は顔を真っ赤にして言った。
「こんな俺でもちゃんと最後まで愛せよ。俺の初恋と片思い期間分今から清算してやる!」
「……はい! えへへ、楽しみです!」
俺は何回生まれ変わっても、拓海を愛するだろうけどきっと毎回毎度敵わないんだろうな、と拓海の髪にキスをした。
※御礼
2022年から投稿していましたが、更新からかなりの時間が経ってしまいました。(本当に申し訳ありません、、、。)
それでも、たくさんの方が読みに来てハートを押し頂けたり、コメントで応援していただけてとても幸せでした。
長い間本作品『【運命】に捨てられ捨てたΩ』を見守り続けて下さり、誠にありがとうございました!
南が拓海と秀也を離し拓海を背に隠すように間に入る。
秀也の目はぼおと拓海を捉える。その鋭い両眼には想い合っていた時の優しい秀也とはかけ離れた独占欲に塗れた熱だけが籠っていた。
先ほどまで拓海が感じていた身体の熱は落ち着いていて、身体から血の気が引くような寒さと冷や汗が垂れる。
こんなの秀也じゃない! なんで、なんでこんなところに! 俺はもうあんな思いはしたくないのに!
南が秀也に何かを叫んでいる言葉が徐々に鮮明に聞こえてくるようになり拓海は冷静さを取り戻した。南に窘められている秀也は耳に手を当てて頭を抱えるように蹲っている。あの堂々として笑顔が輝いていた学生の時の姿と打って変わって癇癪を起した子供のように小さくなっている。
目の前にいるのが過去のあの優しかった秀也ではないのだと、気づいた拓海は思い出が溢れ出て悲しくなった。
「そうだ、な。俺がお前と、二人の関係を終わらせなきゃいけないんだ」
拓海は南の背から前に出た。南に握られた手が震える。それに気づいた南はさらに固く握りしめた。
「秀也。途中で逃げ出してごめん。俺はオメガでお前はアルファだ。だから実家から良い目で見られることはないと分かっていた――つもりだったんだ。結局俺は耐えられなくてお前の前から逃げ出した。何も言わずに。俺の感情ばかりを優先してしまった」
秀也は拓海を見上げる。拓海はしゃがんで片方の手で秀也を抱きしめた。
「ごめん。不安にさせたのは俺も同じだった……」
「たく、みさん」
「……俺は、俺なりに秀也を愛していたんだ、……」
拓海は込み上げる嗚咽を必死に抑え込む。
「けど、愛そうと必死だったんだ。お前を失うのが怖かった。お前の優しい心を離したくなかったんだ」
小さな声で、だけどしっかりと、拓海は秀也に伝えた。
「……もう俺はお前を愛することが、出来ない」
秀也の息が止まった。顔を地面に下ろし暫く空虚を見つめているようだった。
拓海は手を離すことが出来なかった。抱きしめて離せなかった。
ごめん、ごめんなさい、秀也も南さんも、俺のせいで、俺が弱かったから……
――ごめんなさい
「ごめんなさい、拓海さん。守れなくて、僕の身勝手な行動が、……あなたを苦しめた。本当にごめんなさい」
顔を上げた秀也は自ら拓海の腕を離した。
真っ蒼な顔色に似合わないあの頃に戻ったかのような柔和な笑みを浮かべた秀也はどこか儚くも思い切りが付き、自分の足でしっかりと立っているようだった。
「さようなら、拓海さん。僕を忘れないでいてくれてありがとう」
―――
――――――
曇り空は晴れて、夕日が差し込んで伸びた影を見下ろしながら二人は手をつないで隣あって歩いている。
拓海は南の顔を見れなかった。それは申し訳ない気持ちでいっぱいだったからだ。
何日、いや何か月ぶりだろうか、そんな考えは浮かんでこなかった。
「ごめんなさいご心配をおかけしました」
「……そうだな。心配した」
「……すみません」
めっちゃ怒っている。……当たり前か。恩人ともいえる人に黙って勝手に消えて。俺はなんて薄情なんだ。
自分を責め続けていると腕が引かれた。繋いだ手は南の足が止まってことで引っ張られたのだ。
「先輩?」
振り返ると夕日の逆行で南の顔が影になって見えづらい。
「……拓海、ここにいる間ちゃんと寝れたか? 飯は食えていたか?」
「お前が家を出てってから俺はそれだけが心配だった。だから、この村でのお前の様子を見て安心して、また無理に関わるつもりはなかったんだ」
「スナックのママとヨウ君が手助けしてくれて、村の人もいい人ばかりで、俺はッ」
本音を言うと拓海は何も考えずにいられるこの小さな世界で幸せに生活していた。安心して人と関わって、何にも脅かされないこの生活は過去の自分を忘れられた。
けど、夜一人になるといつも南と秀也の顔が頭に浮かんで、寝れない日もあったのだ。問題から逃げて、先延ばしているのか、それとももう過去の存在自体を消したいのか。
「でも、俺は南先輩を思い出すたびに、笑顔の先輩しか浮かばなくて、俺は先輩を裏切って、優しくしてくれた人を……心配してくれると分かっているはずなのに何も言わずに……」
まとまらないまま口から出た言葉は拓海の精一杯の言い訳で、懺悔するような謝罪で。
本当に言いたいことは言えずに、南の言葉を待っているようなそんな浅ましい気持ちを見て見ぬふりしている。
南は必死に言葉を選んで伝えようとしている拓海の手を引いて抱きしめた。
「良いんだ。また見つけられたから」
「なあ、拓海、……愛してる」
一人でいても何度も優しくされた記憶が拓海の心を満たしてくれた。
―――反面思い出すたびに南が恋しくなった。
俺は、……そうだ。一人でいられたけど、独りではいられなかったんだ。
「南先輩、俺の番になって下さい」
そう言って愛の告白の返事をキスとともに返した。
「もう離せねーよ、いいのか?」
「……もう離れたくないんです」
「あ―――くそ、俺アルファなのにいつもおまえの前じゃカッコつかねえ!」
「……せんぱい? 番はダメですか?」
拓海はそう言って南を強く抱きしめる。見上げれば南は顔を真っ赤にして言った。
「こんな俺でもちゃんと最後まで愛せよ。俺の初恋と片思い期間分今から清算してやる!」
「……はい! えへへ、楽しみです!」
俺は何回生まれ変わっても、拓海を愛するだろうけどきっと毎回毎度敵わないんだろうな、と拓海の髪にキスをした。
※御礼
2022年から投稿していましたが、更新からかなりの時間が経ってしまいました。(本当に申し訳ありません、、、。)
それでも、たくさんの方が読みに来てハートを押し頂けたり、コメントで応援していただけてとても幸せでした。
長い間本作品『【運命】に捨てられ捨てたΩ』を見守り続けて下さり、誠にありがとうございました!
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