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第四章 最愛の番
十五
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南は仕事をしながらも、休みの日には拓海が行きそうな場所を回りつづけた。自分の元に拓海が戻ってきてくれるのを切に願いながら。
ある日、南のもとに秀也から連絡があった。
南は拓海を追いかけ回していたのは自分の婚約者であることを教えられた。拓海が被害に遭った証拠はないかと尋ねられた南は、まだ拓海が自分の家にいた時に拓海の家から勝手に持っていった数十枚の写真を送ろうとしたが、直接渡しに行くことにした。
もし、拓海が池上の前に戻ってきたらなんて考えたくもないが、もしそんなことがあったら池上が今どんな気持ちでいるのか直接聞いてみたい。
秀也が勤める池上病院に着いて、受付に声を掛ける。
「十二時に約束していた五十嵐です。池上秀也先生を呼べますか?」
「はい、五十嵐先生ですね。すぐにお呼びします」
秀也が受付に話しを通していたのか、受付の人が受話器を手に取り南が来たことを電話口に伝えると、秀也は受付に現れた。
「久しぶり」
「お久しぶりです。部屋を空けていますのでそこで話をしましょう」
南は秀也の方に拓海から連絡がないかという期待を少し持っていたが、それは秀也の顔色を見て南は察した。
患者より病人風な顔色は本当に医者として信用していいのかと疑いたくなるほどだった。
流石大型病院の息子、か。
十人ほど人が入れそうな会議室を南が来るという理由だけで空けてしまうほど大学を卒業して間もない秀也がどんな立場にいる人間かよく分かるものだ。
机を挟んで対面に座る。南は鞄から写真が入った封筒を秀也に渡す。
「見ても良いですか?」
「それはお前がどうにかしてくれるんだろう、勝手にしろ」
封筒から写真を取り出しその内容を確認する秀也の顔は険しくなる。
一通り確認し終えると、封筒に戻した。
「まさか、こんな写真が拓海さんに送られていたなんて」
「……お前もあの女に騙された身だとしても、その写真の中のお前の表情の変化に拓海は気づいていたぞ」
秀也は机に肘を置いて俯く。
「僕は拓海さんを深く傷つけました。運命なんて関係ないと、拓海さんに言ったのは僕なのに」
「それなのに」と掠れる声で言った。
秀也は顔を上げ、赤く充血した目で南の方を見る。
「拓海さんは見つかりそうですか?」
南の無言の返答に秀也は「そうですか」と落胆する声で言った。
「拓海が戻ってきたらどうするつもりだ」
「どうするもなにも、拓海さんを傷つけた僕に顔を合わせる資格など……」
「もし、会いたいと言われたら?」
「さっきから何ですか? 拓海さんの前に二度と姿を見せるなと言ったじゃないですか」
「ああ、言った。だから、お前が拓海を好きな気持ちをへし折りたいんだ」
「はは。最低ですね」
「お前ほどではない」
「僕を傷つければ僕が拓海さんを嫌いになると思っているんですか?」
「まさか。拓海を嫌いにならなくていい。拓海を好きだと口に出来なくなるほど後悔してくれればいい」
南との淡々とした会話を途切れさせた秀也は南の執着をその身で感じた。
「五十嵐さん、これだけは言わせてください。僕は拓海さんに愛されたかったんです。だけど、拓海さんの愛を僕は感じたことが無かった。いや、全く無かったというわけではないんです。拓海さんを強く想うあまり僕は拓海さんからの愛を感じられなかったんだと思います」
秀也のその言葉は腹を決めたような気がした。
「そうか」
「拓海さんを見つけられますか?」
秀也の不安に揺れる目を見つめて南は言った。
「俺が愛する男は拓海しかいない」
ある日、南のもとに秀也から連絡があった。
南は拓海を追いかけ回していたのは自分の婚約者であることを教えられた。拓海が被害に遭った証拠はないかと尋ねられた南は、まだ拓海が自分の家にいた時に拓海の家から勝手に持っていった数十枚の写真を送ろうとしたが、直接渡しに行くことにした。
もし、拓海が池上の前に戻ってきたらなんて考えたくもないが、もしそんなことがあったら池上が今どんな気持ちでいるのか直接聞いてみたい。
秀也が勤める池上病院に着いて、受付に声を掛ける。
「十二時に約束していた五十嵐です。池上秀也先生を呼べますか?」
「はい、五十嵐先生ですね。すぐにお呼びします」
秀也が受付に話しを通していたのか、受付の人が受話器を手に取り南が来たことを電話口に伝えると、秀也は受付に現れた。
「久しぶり」
「お久しぶりです。部屋を空けていますのでそこで話をしましょう」
南は秀也の方に拓海から連絡がないかという期待を少し持っていたが、それは秀也の顔色を見て南は察した。
患者より病人風な顔色は本当に医者として信用していいのかと疑いたくなるほどだった。
流石大型病院の息子、か。
十人ほど人が入れそうな会議室を南が来るという理由だけで空けてしまうほど大学を卒業して間もない秀也がどんな立場にいる人間かよく分かるものだ。
机を挟んで対面に座る。南は鞄から写真が入った封筒を秀也に渡す。
「見ても良いですか?」
「それはお前がどうにかしてくれるんだろう、勝手にしろ」
封筒から写真を取り出しその内容を確認する秀也の顔は険しくなる。
一通り確認し終えると、封筒に戻した。
「まさか、こんな写真が拓海さんに送られていたなんて」
「……お前もあの女に騙された身だとしても、その写真の中のお前の表情の変化に拓海は気づいていたぞ」
秀也は机に肘を置いて俯く。
「僕は拓海さんを深く傷つけました。運命なんて関係ないと、拓海さんに言ったのは僕なのに」
「それなのに」と掠れる声で言った。
秀也は顔を上げ、赤く充血した目で南の方を見る。
「拓海さんは見つかりそうですか?」
南の無言の返答に秀也は「そうですか」と落胆する声で言った。
「拓海が戻ってきたらどうするつもりだ」
「どうするもなにも、拓海さんを傷つけた僕に顔を合わせる資格など……」
「もし、会いたいと言われたら?」
「さっきから何ですか? 拓海さんの前に二度と姿を見せるなと言ったじゃないですか」
「ああ、言った。だから、お前が拓海を好きな気持ちをへし折りたいんだ」
「はは。最低ですね」
「お前ほどではない」
「僕を傷つければ僕が拓海さんを嫌いになると思っているんですか?」
「まさか。拓海を嫌いにならなくていい。拓海を好きだと口に出来なくなるほど後悔してくれればいい」
南との淡々とした会話を途切れさせた秀也は南の執着をその身で感じた。
「五十嵐さん、これだけは言わせてください。僕は拓海さんに愛されたかったんです。だけど、拓海さんの愛を僕は感じたことが無かった。いや、全く無かったというわけではないんです。拓海さんを強く想うあまり僕は拓海さんからの愛を感じられなかったんだと思います」
秀也のその言葉は腹を決めたような気がした。
「そうか」
「拓海さんを見つけられますか?」
秀也の不安に揺れる目を見つめて南は言った。
「俺が愛する男は拓海しかいない」
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