犠牲になるのは、妹である私

木山楽斗

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2.突き放すために

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「お父様はどうかしている。ボルガン公爵なんて……あんな汚らわしい人に、ソフィーナを渡すなんて、間違っている」
「セフィーナ、落ち着いて」
「ソフィーナ、どうしてあんなことを言ったの? これは絶対に、受け入れてはならないことよ」

 部屋に戻ってから、セフィーナはずっとこんな感じだった。それ程私が、ボルガン公爵の元に行くのが嫌だということだろうか。

「貴族として生まれたからには、婚約の道具として使われるのは当然のことよ」
「ボルガン公爵は、今まで大勢の人のことを不幸にしてきた……彼はあなたを真っ当に嫁に迎える訳ではないわ」
「それでも、私が彼の元に行けば、スウェンリー男爵家の利益に繋がる」
「彼にそんなつもりはないわ。権力によって、一時の汚れた欲求を満たそうとしているだけだわ」

 ボルガン公爵の悪評は、私もよく知っている。彼の元に行っても、私は不幸になって、スウェンリー男爵家も何も得られない。その可能性は高いだろう。
 ただ権力者であるボルガン公爵からの要請を、お父様は立場上無下にできる訳もない。結局の所、私かセフィーナが彼の元に行くしかないのだ。何を言った所で、それは変わらない。

「……そうやって嘆くのは、私のためなの? それとも自分のため?」
「……え?」
「セフィーナはいいよね。そうやって怒っていれば、それだけでいいんだから。私とは違って、実害はないもんね」
「ソフィーナ……何を言っているの?」
「良い恰好をするなって言っているんだよ。それ、うざいだけだから」

 私の言葉に、セフィーナは目を丸めていた。それを見ると、心が痛くなる。
 しかしこれは、仕方ないことだ。セフィーナがこれ以上苦しまないためにも、私は彼女のことを突き放さなければならない。

「私は良い恰好なんて……」
「しているよ。いつもいつも、いつだってそうだった。私を庇うふりをして、自分に酔いしれているんでしょう?」
「わ、私はそんなつもりじゃ……」

 セフィーナは、かなり動揺しているようだった。
 もしかすると、多少図星の部分もあったということだろうか。いや、それは穿った見方をし過ぎている。むしろ私の方が、心のどこかでそう思っていたということなのかもしれない。
 それならやはり、私がボルガン公爵家に行くべきなのだろう。犠牲になるのは、妹である私であるべきだ。

「もう、私のことを心配する振りをするのはやめて」
「ソフィーナ……」
「そんなことをされても、私は嬉しくない。それは、セフィーナの自己満足だよ」
「……」

 私は、セフィーナに冷たく言い放った。
 これで彼女とは、決別することになるだろう。ただそれで良いと思っていた。セフィーナが、私のことなんて背負う必要はないのだから。
 お父様から寵愛を受けている彼女は、きっと真っ当に幸せになることができる。その礎になれるというなら、私はそれで構わない。
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