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8.変わらないこと(セフィーナ視点)
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「――おい、大丈夫か?」
「……え?」
ザンバルの呼びかけに、私は何度か瞬きすることになった。
周囲を見渡すと、心配そうな顔をした彼が至近距離まで来ていた。どうやら私は、ほんの一瞬ではあるのだろうが、意識が飛んでいたらしい。自分の体が横たわっていて、それをザンバルが支えていることに気付いて、それを理解した。
「ありがとう、あなたが支えてくれたのね……」
「急に倒れて驚いた」
「……咄嗟の時には、魔法ではなく体が動くものなのかしら?」
「結構余裕そうだな?」
私はとりあえず、自分の力で立ち上がった。
幸いなことに、体は普通に動いてくれる。後遺症などはなさそうだ。
「……さっきあなたが言ったことだけれど、本当なのかしら?」
「……本当だとも。スウェンリー男爵家は、俺の一族の協力で子供を増やしていた。分身を作り出していたんだ」
「そんなことができる魔法なんて、聞いたことがないけれど……」
「俺達の一族にとっても、それは禁忌の魔法さ。一子相伝だが、俺は後に残すつもりはない」
「それは賢明な判断だわ……」
ザンバルが語った魔法は、信じたいものではなかった。私が知っている魔法の常識では、そのようなことは不可能であるし、それは凡そ許されていいことではないと思える。
しかしスウェンリー男爵家の伝統や、お父様の態度は彼の言葉が本当であることを物語っていた。お父様は本当に、ソフィーナのことを私の分身としか認識していないということなのだろう。
「お父様は……事実を知って、受け入れたということなのかしら?」
「それは俺の知る所ではないな。母上の領分だ」
「態度からして、間違いないわ。お父様は自分の弟もソフィーナのことも、一人前の人間であると認識していないようだもの」
「……あなたは違うのか?」
「違うわ。ソフィーナは私の妹よ。事実を知った所で、それが変わる訳ではないわ」
お父様の考え――スウェンリー男爵家に代々伝わってきた風潮に、私はまったく持って賛同することができなかった。
ソフィーナは、私ではない。彼女には彼女の考えがあって個性がある。それは間違いないことだ。
ソフィーナのことで悩んでいる私に、お父様がザンバルのことを教えたのは、きっと私が事実を知れば納得すると思ったからだろう。
随分と舐められたものである。やはりお父様と私は、相容れない存在であるらしい。それがよくわかった。
「どうやらあなたは、今までのスウェンリー男爵家とは違うらしいな。そういうことなら、俺は協力しても構わないと思える。あなたがやろうとしていることに、手を貸すぜ?」
「……私のやろうとしていることは、非道なことよ?」
「ほう?」
「私は、お父様を排除したいの。ソフィーナを助けるためには、そうする他ないわ。このままだとあの子は、ボルガン公爵家に……」
「ボルガン公爵だって?」
私の言葉に、ザンバルはまたも反応した。
彼はボルガン公爵家とも、ゆかりがあるらしい。貴族は思っていたよりも、彼の一族を利用してきたということだろうか。
「ザンバル、あなたは意外と顔が広いみたいね……」
「いや、そういう訳でもないさ。貴族の依頼なんて、今まで断ってきたからな。ただボルガン公爵家は特別だ」
「特別?」
「父親なんだよ、俺の」
「父親……そう、なるほど」
ザンバルの主張は、それ程驚くべきものという訳でもなかった。
ボルガン公爵の悪評を考えれば、ここにその息子が一人いてもおかしくはない。彼らの一族は貴族と繋がりが深いようだし、その関係で知り合ったということだろう。
「息子であるあなたの前でこういうことを言うのはなんだけれど、私はソフィーナをボルガン公爵の元に行かせたくないと思っているの」
「別にあんな奴のことをどう言われようが構わないさ。しかし、安心してくれ。ソフィーナ嬢は安全だ」
「安全?」
「ああ、ボルガン公爵家では近々ことが行われる予定なのさ。しかしそういうことなら、俺はあなたに力を貸すとしよう。その形が一番良さそうだ」
ザンバルは、私に対して笑顔を見せてきた。
どうやら彼にとって、私と手を組むことは利益に繋がることであるらしい。そういうことなら、私もその手を取ることにしよう。彼の協力は、私にとってまず間違いなく、大きな利益をもたらすものなのだから。
「……え?」
ザンバルの呼びかけに、私は何度か瞬きすることになった。
周囲を見渡すと、心配そうな顔をした彼が至近距離まで来ていた。どうやら私は、ほんの一瞬ではあるのだろうが、意識が飛んでいたらしい。自分の体が横たわっていて、それをザンバルが支えていることに気付いて、それを理解した。
「ありがとう、あなたが支えてくれたのね……」
「急に倒れて驚いた」
「……咄嗟の時には、魔法ではなく体が動くものなのかしら?」
「結構余裕そうだな?」
私はとりあえず、自分の力で立ち上がった。
幸いなことに、体は普通に動いてくれる。後遺症などはなさそうだ。
「……さっきあなたが言ったことだけれど、本当なのかしら?」
「……本当だとも。スウェンリー男爵家は、俺の一族の協力で子供を増やしていた。分身を作り出していたんだ」
「そんなことができる魔法なんて、聞いたことがないけれど……」
「俺達の一族にとっても、それは禁忌の魔法さ。一子相伝だが、俺は後に残すつもりはない」
「それは賢明な判断だわ……」
ザンバルが語った魔法は、信じたいものではなかった。私が知っている魔法の常識では、そのようなことは不可能であるし、それは凡そ許されていいことではないと思える。
しかしスウェンリー男爵家の伝統や、お父様の態度は彼の言葉が本当であることを物語っていた。お父様は本当に、ソフィーナのことを私の分身としか認識していないということなのだろう。
「お父様は……事実を知って、受け入れたということなのかしら?」
「それは俺の知る所ではないな。母上の領分だ」
「態度からして、間違いないわ。お父様は自分の弟もソフィーナのことも、一人前の人間であると認識していないようだもの」
「……あなたは違うのか?」
「違うわ。ソフィーナは私の妹よ。事実を知った所で、それが変わる訳ではないわ」
お父様の考え――スウェンリー男爵家に代々伝わってきた風潮に、私はまったく持って賛同することができなかった。
ソフィーナは、私ではない。彼女には彼女の考えがあって個性がある。それは間違いないことだ。
ソフィーナのことで悩んでいる私に、お父様がザンバルのことを教えたのは、きっと私が事実を知れば納得すると思ったからだろう。
随分と舐められたものである。やはりお父様と私は、相容れない存在であるらしい。それがよくわかった。
「どうやらあなたは、今までのスウェンリー男爵家とは違うらしいな。そういうことなら、俺は協力しても構わないと思える。あなたがやろうとしていることに、手を貸すぜ?」
「……私のやろうとしていることは、非道なことよ?」
「ほう?」
「私は、お父様を排除したいの。ソフィーナを助けるためには、そうする他ないわ。このままだとあの子は、ボルガン公爵家に……」
「ボルガン公爵だって?」
私の言葉に、ザンバルはまたも反応した。
彼はボルガン公爵家とも、ゆかりがあるらしい。貴族は思っていたよりも、彼の一族を利用してきたということだろうか。
「ザンバル、あなたは意外と顔が広いみたいね……」
「いや、そういう訳でもないさ。貴族の依頼なんて、今まで断ってきたからな。ただボルガン公爵家は特別だ」
「特別?」
「父親なんだよ、俺の」
「父親……そう、なるほど」
ザンバルの主張は、それ程驚くべきものという訳でもなかった。
ボルガン公爵の悪評を考えれば、ここにその息子が一人いてもおかしくはない。彼らの一族は貴族と繋がりが深いようだし、その関係で知り合ったということだろう。
「息子であるあなたの前でこういうことを言うのはなんだけれど、私はソフィーナをボルガン公爵の元に行かせたくないと思っているの」
「別にあんな奴のことをどう言われようが構わないさ。しかし、安心してくれ。ソフィーナ嬢は安全だ」
「安全?」
「ああ、ボルガン公爵家では近々ことが行われる予定なのさ。しかしそういうことなら、俺はあなたに力を貸すとしよう。その形が一番良さそうだ」
ザンバルは、私に対して笑顔を見せてきた。
どうやら彼にとって、私と手を組むことは利益に繋がることであるらしい。そういうことなら、私もその手を取ることにしよう。彼の協力は、私にとってまず間違いなく、大きな利益をもたらすものなのだから。
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