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7.魔法使いを訪ねて(セフィーナ視点)
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妹のソフィーナは、もうすぐボルガン公爵家の屋敷に行くことになる。彼女は公爵の婚約者として、そちらで生活を送るのだ。
それは決して、幸福なものではない。悪名高きボルガン公爵は、ソフィーナのことを大切になどしないだろう。
私はそれを、止めようとしていた。しかしそれは、本当の意味でそうしていた訳ではない。
ソフィーナに言われて、それに気付かされた。私はただ、自己を満足させるためにお父様に反抗していただけなのだと。
本気でお父様を止めるなら、いくらでも方法がある。
しかし私は、それらを実行していない。私には覚悟が足りていなかったのだ。自分のみ可愛さに、ソフィーナのことを犠牲にし続けていた。
「……客人とは珍しいものだな。しかしそれがまさか貴族のご令嬢とは思っていなかった」
「あなたがザンバルさんということでいいのかしら?」
「いかにも。俺はザンバル。職業は魔法使いだ。といっても、善良な魔法使いではないがな……」
スウェンリー男爵家の領地に、闇の魔法使いを名乗る一族がいるということは、以前から耳にしていた。
それが実在していると知ったのは、昨日のことである。とある情報筋から、私はそれを聞くことになったのだ。
「あなた自身は、悪事を働いていないと聞いているけれど……」
「さて、それはどうかな? 公になっていないだけかもしれない」
「まあ、この際それはどうでもいいことだわ。あなたには協力してもらいたいことがあるの」
「貴族のお嬢様が、俺にか? それは穏やかではないな」
闇の魔法使いを名乗る一族は、様々な悪事を働いてきた。それはスウェンリー男爵家にとって、頭が痛い問題だったそうだ。
しかしその末裔であるザンバルは、一応善良であるらしい。周辺に暮らす人達からの評判は良くないが、それでも彼が悪事を働いたとは確認されていないようだ。
彼本人と話してみて、それが間違いないことを私は感じていた。
となると、私のお願いは聞いてもらえないかもしれない。普段なら喜ぶべきことだが、彼が善良であるというのは私にとって不幸なことであった。
「だが残念だったな、遠路遥々やって来たのかもしれないが、生憎俺は貴族からの仕事は請け負っていない。あまり好ましく思っていなくてね」
「遠路遥々やって来た訳ではないわ。でもそういうことなら、別にそれでも構わないわ。私もこの手は、どうかと思っていた所だから」
「……待てよ? まさかあなたは、スウェンリー男爵家の者か?」
「え?」
私の言葉に、ザンバルはその表情を変えた。
スウェンリー男爵家の領地で暮らしているというのに、私の来訪にそのような顔をするなんて、おかしな話である。
今まで訪ねてきたのは、別の領地から来た貴族だったということだろうか。そのような噂は耳にしていないのだが。
「父親から、ここのことを聞いたんだな?」
「……そうだけれど、それが何だというの?」
「言っておくが、俺は母上とは違うぞ。スウェンリー男爵家の因習になんて、協力するものか」
「因習……?」
ザンバルの言葉が、私は少し気になった。
力強く首を振る彼が言う因習とは、一体何のことなのだろうか。私はそのようなことは、聞いたことがない。
しかしそれはもしかしたら、悩んでいた私にお父様が彼のことを教えたことが、関係しているということだろうか。スウェンリー男爵家は、ずっとザンバル一族を頼っていたのかもしれない。
「妙な反応だな……まさか、知らないでここに来たのか?」
「ザンバル、あなたは何を知っているの?」
「……よく考えてみれば、あなたはまだ子供を作るような年齢ではないか」
「子供? 子供が関係していることなの?」
私の言葉に、ザンバルの視線が泳いだ。
彼は間違いなく、私が知らないスウェンリー男爵家に関することを知っている。私はそれを確信することができた。
それはなんとしても、聞き出しておかなければならないことだ。今の私にとって、家の情報は仕入れておきたい。
「答えて頂戴。私は今、スウェンリー男爵家について知りたいの。あなたがそれを知っているというなら、教えて欲しいわ」
「……スウェンリー男爵家に、何故双子が生まれやすいのか、あなたはそれを考えたことはないか?」
「……双子?」
「それには、俺達一族が関係していたということさ。赤子が生まれた時、一族は禁忌とされる魔法を使っていた。それは複製の魔法さ」
「複製……複製って、そんな、まさか……」
ザンバルが語ったことに、私の頭は真っ白になっていた。
しかし段々と、一つ一つが繋がっていく。スウェンリー男爵家の悪しき伝統、お父様の態度、それら全てが腑に落ちていった。つまりソフィーナは、私の――
それは決して、幸福なものではない。悪名高きボルガン公爵は、ソフィーナのことを大切になどしないだろう。
私はそれを、止めようとしていた。しかしそれは、本当の意味でそうしていた訳ではない。
ソフィーナに言われて、それに気付かされた。私はただ、自己を満足させるためにお父様に反抗していただけなのだと。
本気でお父様を止めるなら、いくらでも方法がある。
しかし私は、それらを実行していない。私には覚悟が足りていなかったのだ。自分のみ可愛さに、ソフィーナのことを犠牲にし続けていた。
「……客人とは珍しいものだな。しかしそれがまさか貴族のご令嬢とは思っていなかった」
「あなたがザンバルさんということでいいのかしら?」
「いかにも。俺はザンバル。職業は魔法使いだ。といっても、善良な魔法使いではないがな……」
スウェンリー男爵家の領地に、闇の魔法使いを名乗る一族がいるということは、以前から耳にしていた。
それが実在していると知ったのは、昨日のことである。とある情報筋から、私はそれを聞くことになったのだ。
「あなた自身は、悪事を働いていないと聞いているけれど……」
「さて、それはどうかな? 公になっていないだけかもしれない」
「まあ、この際それはどうでもいいことだわ。あなたには協力してもらいたいことがあるの」
「貴族のお嬢様が、俺にか? それは穏やかではないな」
闇の魔法使いを名乗る一族は、様々な悪事を働いてきた。それはスウェンリー男爵家にとって、頭が痛い問題だったそうだ。
しかしその末裔であるザンバルは、一応善良であるらしい。周辺に暮らす人達からの評判は良くないが、それでも彼が悪事を働いたとは確認されていないようだ。
彼本人と話してみて、それが間違いないことを私は感じていた。
となると、私のお願いは聞いてもらえないかもしれない。普段なら喜ぶべきことだが、彼が善良であるというのは私にとって不幸なことであった。
「だが残念だったな、遠路遥々やって来たのかもしれないが、生憎俺は貴族からの仕事は請け負っていない。あまり好ましく思っていなくてね」
「遠路遥々やって来た訳ではないわ。でもそういうことなら、別にそれでも構わないわ。私もこの手は、どうかと思っていた所だから」
「……待てよ? まさかあなたは、スウェンリー男爵家の者か?」
「え?」
私の言葉に、ザンバルはその表情を変えた。
スウェンリー男爵家の領地で暮らしているというのに、私の来訪にそのような顔をするなんて、おかしな話である。
今まで訪ねてきたのは、別の領地から来た貴族だったということだろうか。そのような噂は耳にしていないのだが。
「父親から、ここのことを聞いたんだな?」
「……そうだけれど、それが何だというの?」
「言っておくが、俺は母上とは違うぞ。スウェンリー男爵家の因習になんて、協力するものか」
「因習……?」
ザンバルの言葉が、私は少し気になった。
力強く首を振る彼が言う因習とは、一体何のことなのだろうか。私はそのようなことは、聞いたことがない。
しかしそれはもしかしたら、悩んでいた私にお父様が彼のことを教えたことが、関係しているということだろうか。スウェンリー男爵家は、ずっとザンバル一族を頼っていたのかもしれない。
「妙な反応だな……まさか、知らないでここに来たのか?」
「ザンバル、あなたは何を知っているの?」
「……よく考えてみれば、あなたはまだ子供を作るような年齢ではないか」
「子供? 子供が関係していることなの?」
私の言葉に、ザンバルの視線が泳いだ。
彼は間違いなく、私が知らないスウェンリー男爵家に関することを知っている。私はそれを確信することができた。
それはなんとしても、聞き出しておかなければならないことだ。今の私にとって、家の情報は仕入れておきたい。
「答えて頂戴。私は今、スウェンリー男爵家について知りたいの。あなたがそれを知っているというなら、教えて欲しいわ」
「……スウェンリー男爵家に、何故双子が生まれやすいのか、あなたはそれを考えたことはないか?」
「……双子?」
「それには、俺達一族が関係していたということさ。赤子が生まれた時、一族は禁忌とされる魔法を使っていた。それは複製の魔法さ」
「複製……複製って、そんな、まさか……」
ザンバルが語ったことに、私の頭は真っ白になっていた。
しかし段々と、一つ一つが繋がっていく。スウェンリー男爵家の悪しき伝統、お父様の態度、それら全てが腑に落ちていった。つまりソフィーナは、私の――
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