聖女の代わりがいくらでもいるなら、私がやめても構いませんよね？

７

　私は、先生とともに休憩を取っていた。
　怪我人の治療は、かなり長い時間に及んだ。かなり厳しい状態だったが、今は傷口も塞がり、体調も落ち着ている。

「お前さんのおかげで、助かった。感謝するよ、アルメア」
「いえ、私は当然のことをしたまでです」
「ふっ……相変わらず、変わらないようだな」

　先生は、私が小さな頃からこの町で医者をやっていた。
　私も、何度もお世話になってきたとても頼りになる先生なのだ。

「それにしても、お前が帰って来ているとは思っていなかったな……何か、あったのか？」
「その……大変言い辛いんですけど、聖女をやめたんです」
「ほう？　聖女をやめた……なるほど、なんとなく話が見えてきたな……」
「もしかして……結界のことですか？」

　先生は、私の言葉に驚いていた。
　しかし、同時に何か納得したように頷いたのである。
　それが、私は気になった。もしかして、先生は、この町の結界のことを考えているのではないだろうかと。

「俺は、あいつが襲われた状況を知っている。どうやら、あいつは結界を破った魔物に襲われたらしい」
「それは、聞いています」
「そんなことは、あり得ない。普通なら、結界は破られないようになっているはずだ。まあ、それは俺よりお前の方が詳しいだろうがな」
「ええ、そうですね……」
「それが破られたということは、お前に何かあったと思っていた。聖女の力が弱まって、結界が破綻した。そのように考えていたんだ。だが、それは少し違ったみたいだな。お前がやめて、後任が不甲斐ないから、結界が破られたということだな？」

　先生は、事件の状況から考えて色々と心配してくれていたようだ。
　それは、とてもありがたいことである。
　だが、今重要なのは、結界が破られたという事実だ。私の推測の通り、聖女が破綻しているらしい。これは、とてもまずいことである。

「先生、現聖女の名誉のために言っておきますが、結界が弱まったのは彼女が不甲斐ないせいではないと思います」
「ほう？　それはどういうことだ？」
「聖女の上に立っている第三王子のビクトン様という男は、とても上に立つべき人間ではありません。もし聖女が破綻したというなら、その責任は彼にあると思います」
「……まあ、事情はわからないが、色々とあったみたいだな」

　私は、椅子から立ち上がっていた。
　少し休んだので、もう元気は戻っている。
　だから、まだ残っているやるべきことを果たさなければならないのだ。

「無理はするなよ」
「はい、わかっています」

　先生の言葉に応えてから、私は歩き始める。
　こうして、私は診療所を後にするのだった。