聖女の代わりがいくらでもいるなら、私がやめても構いませんよね?

木山楽斗

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 私は、宿屋のベッドの上にいた。
 王都に向かうために、今は体を休めることに専念する。そのために、ゆっくりと眠らなければならないだろう。
 だが、私の目は冴えていた。まだ決まってもいないことなのに、不安になってしまっているのだ。
 それでは良くない。そう思っても、自分の考えは中々否定できなかった。どうしても、頭の片隅に張り付いてくるのだ。

「眠れないのか?」
「え? あ、うん……」

 そんな私に、レイグスが話しかけてきた。
 隣のベッドで寝転がっている彼も、まだ眠っていなかったようだ。

「気持ちはわかるぜ。俺も、眠れていないからな……」
「やっぱり、レイグスも気になるの?」
「ああ……」

 レイグスも、私と同じ気持ちだったようである。
 やはり、王国に一大事が起こると聞いて、心穏やかにはいられないようだ。
 こんなことなら、彼には話さなければ良かったかもしれない。そうすれば、少なくとも彼は安眠できたはずである。

「まあ、仕方ないことではあるよな……こんなことになって、緊張するなという方が無理があるぜ」
「そうだよね……」
「いっそのこと、明かりでもつけるか? 暗いから、余計に色々と考えてしまうということはあるだろう? どうせ眠れないだろうし、明かりがついていても変わらないだろうしな……」
「そうだね……そうしようか」

 レイグスの言う通り、暗いと不安感は増してしまうだろう。その不安感で眠れないのだから、明かりをつけるのは良い提案だ。
 という訳で、私は魔法で部屋を明るくする。周りが明るくなっただけで、なんとなく心も安らいだ。やはり、暗い中だと色々と考えてしまうのだろう。

「……明かりがついても、そこまで劇的に変わる訳ではないか」
「劇的には変わらないけど、心情的には少し変わったかな?」
「まあ、そうか……少なくとも、暗いよりはましか」
「うん、絶対そうだと思う」

 明かりがついても、レイグスの声は少し不安そうだった。
 確かに、劇的に心情が変わった訳ではない。もちろん、不安は残っている。
 だが、暗いよりは絶対にましだ。彼の提案が名案だったことに、間違いはないだろう。

「レイグス、ありがとう。おかげで、少しだけ落ち着けた気がする」
「別に、俺のためでもあるから、お礼なんていらないぜ。ただ、まあ、こうして話していることも、なんだか気分を変えてくれるな……」
「そうだね……やっぱり、一人で考えるから駄目なのかもしれないね」

 レイグスの言葉で、私は気づいた。
 会話をしていると、余計なことをあまり考えないで済むのだ。
 こうやって、他愛のない会話をしている時は、意識が相手に向いているのだろう。だから、余計な考えを排除できるのかもしれない。
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