19 / 34
19
しおりを挟む
私は、レイグスと話していた。
不安で眠れそうにないので、しばらくは彼と話している方が良さそうだ。
「昔は……こういう風に一つの部屋で寝ていたよね?」
「……ああ、あの頃は何も気にする必要がなかったな。ただ、一緒にいることが楽しかった。懐かしい時代だ……」
私が話し始めたのは、昔のことだった。
小さな頃は、二人でよく一緒の布団で寝ていた。彼の言う通り、何も考える必要がなかったとても楽しかった時代である。
だが、今は何もかもが変わっていた。レイグスは、貴族の長男として、私は元聖女として、色々な問題を抱えているのだ。
その変化は、大人になるということなのかもしれない。
あの時代に別れを告げて進んで行くのは、誰でも通る道なのだろう。だから、仕方ないことなのだ。
「でも、俺はあの頃に戻りたいとは思わないぜ」
「そうなの?」
「ああ、成長してわかったことを、あの頃はまだ知らなかった。それを知っている今の方が、俺はいいと思っている」
レイグスは、はっきりと懐かしい時代を否定した。
成長して、色々なことを知っている今の方がいい。その考え方は、とても素晴らしいものである。
きっと、彼は貴族として色々な考えを身に着けたのだろう。それがなかった時代に戻りたくないと思う程、その経験は重要なのだ。
しばらく会わない内に、この幼馴染はとても立派な人間になっていたらしい。私も、彼のそういう所は見習わなければならないだろう。
「レイグスは、すごいね……」
「すごい?」
「私は、あの頃に戻りたいと思ってしまう。何の憂いもなかったあの頃の方が、楽しかったと思えてしまうから……」
「……別に、そういう考えも否定はしないさ。楽しかったことは確かだ。だが、不安を抱えていても、今の方がわかることが多い。俺はそれを優先したいというだけさ」
レイグスとは違い、私はあの頃に強く戻りたいと思っていた。
辛い毎日の中で、思い出すのは楽しかったあの頃だけだったのだ。
だが、もう戻れないあの頃をいくら願っていても仕方ない。前に進もうとしているレイグスの考えの方が、立派であることは間違いないだろう。
「私も、レイグスみたいに立派な人間になれるように頑張るよ」
「立派な人間? どういうことだ?」
「聖女として経験したことは、私にとって大切なものなんだよね……それを否定したいと思うんじゃなくて、活かしていきたいと思えるような人間になりたいな」
「……うん?」
「……あれ?」
私の言葉に、レイグスの反応はおかしかった。
もしかしたら、私は何か重大なことを見落としていたのかもしれない。
不安で眠れそうにないので、しばらくは彼と話している方が良さそうだ。
「昔は……こういう風に一つの部屋で寝ていたよね?」
「……ああ、あの頃は何も気にする必要がなかったな。ただ、一緒にいることが楽しかった。懐かしい時代だ……」
私が話し始めたのは、昔のことだった。
小さな頃は、二人でよく一緒の布団で寝ていた。彼の言う通り、何も考える必要がなかったとても楽しかった時代である。
だが、今は何もかもが変わっていた。レイグスは、貴族の長男として、私は元聖女として、色々な問題を抱えているのだ。
その変化は、大人になるということなのかもしれない。
あの時代に別れを告げて進んで行くのは、誰でも通る道なのだろう。だから、仕方ないことなのだ。
「でも、俺はあの頃に戻りたいとは思わないぜ」
「そうなの?」
「ああ、成長してわかったことを、あの頃はまだ知らなかった。それを知っている今の方が、俺はいいと思っている」
レイグスは、はっきりと懐かしい時代を否定した。
成長して、色々なことを知っている今の方がいい。その考え方は、とても素晴らしいものである。
きっと、彼は貴族として色々な考えを身に着けたのだろう。それがなかった時代に戻りたくないと思う程、その経験は重要なのだ。
しばらく会わない内に、この幼馴染はとても立派な人間になっていたらしい。私も、彼のそういう所は見習わなければならないだろう。
「レイグスは、すごいね……」
「すごい?」
「私は、あの頃に戻りたいと思ってしまう。何の憂いもなかったあの頃の方が、楽しかったと思えてしまうから……」
「……別に、そういう考えも否定はしないさ。楽しかったことは確かだ。だが、不安を抱えていても、今の方がわかることが多い。俺はそれを優先したいというだけさ」
レイグスとは違い、私はあの頃に強く戻りたいと思っていた。
辛い毎日の中で、思い出すのは楽しかったあの頃だけだったのだ。
だが、もう戻れないあの頃をいくら願っていても仕方ない。前に進もうとしているレイグスの考えの方が、立派であることは間違いないだろう。
「私も、レイグスみたいに立派な人間になれるように頑張るよ」
「立派な人間? どういうことだ?」
「聖女として経験したことは、私にとって大切なものなんだよね……それを否定したいと思うんじゃなくて、活かしていきたいと思えるような人間になりたいな」
「……うん?」
「……あれ?」
私の言葉に、レイグスの反応はおかしかった。
もしかしたら、私は何か重大なことを見落としていたのかもしれない。
55
あなたにおすすめの小説
ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜
嘉神かろ
恋愛
魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。
妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。
これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。
聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
召喚聖女が来たのでお前は用済みだと追放されましたが、今更帰って来いと言われても無理ですから
神崎 ルナ
恋愛
アイリーンは聖女のお役目を10年以上してきた。
だが、今回とても強い力を持った聖女を異世界から召喚できた、ということでアイリーンは婚約破棄され、さらに冤罪を着せられ、国外追放されてしまう。
その後、異世界から召喚された聖女は能力は高いがさぼり癖がひどく、これならばアイリーンの方が何倍もマシ、と迎えが来るが既にアイリーンは新しい生活を手に入れていた。
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
〖完結〗聖女の力を隠して生きて来たのに、妹に利用されました。このまま利用されたくないので、家を出て楽しく暮らします。
藍川みいな
恋愛
公爵令嬢のサンドラは、生まれた時から王太子であるエヴァンの婚約者だった。
サンドラの母は、魔力が強いとされる小国の王族で、サンドラを生んですぐに亡くなった。
サンドラの父はその後再婚し、妹のアンナが生まれた。
魔力が強い事を前提に、エヴァンの婚約者になったサンドラだったが、6歳までほとんど魔力がなかった。
父親からは役立たずと言われ、婚約者には見た目が気味悪いと言われ続けていたある日、聖女の力が覚醒する。だが、婚約者を好きになれず、国の道具になりたくなかったサンドラは、力を隠して生きていた。
力を隠して8年が経ったある日、妹のアンナが聖女だという噂が流れた。 そして、エヴァンから婚約を破棄すると言われ……
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
ストックを全部出してしまったので、次からは1日1話投稿になります。
私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか
あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。
「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」
突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。
すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。
オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……?
最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意!
「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」
さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は?
◆小説家になろう様でも掲載中◆
→短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます
【完結】 ご存知なかったのですね。聖女は愛されて力を発揮するのです
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
本当の聖女だと知っているのにも関わらずリンリーとの婚約を破棄し、リンリーの妹のリンナールと婚約すると言い出した王太子のヘルーラド。陛下が承諾したのなら仕方がないと身を引いたリンリー。
リンナールとヘルーラドの婚約発表の時、リンリーにとって追放ととれる発表までされて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる