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2.メイド服に袖を通して
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鏡に映る自分の姿に、私は奇妙な感覚を覚えていた。
メイド服というものは、普段から何度も見ているものである。しかしそれを自分が身に着けているというのは、どうにも不思議に思えるのだ。
「まあでも、案外似合っているといえるのではないかしら?」
「……ええ、お似合いだと思いますよ、ラメリア様」
「え? あっ……すみません、促すみたいになってしまいましたね」
独り言を呟いたつもりだった私は、部屋にいるリメルタさんの声に少し申し訳ない気持ちを覚えた。
自信過剰とか思われたら、どうしようか。そんな心配も私の頭を過ってくる。
「お気になさらず。珍しい服を着ると、心が躍るのは当然のことですから」
「リメルタさんも、初めてメイド服に袖を通した時はわくわくしましたか?」
「もう随分昔のことですから、あまり覚えていませんね。それに私にとって、これは仕事着でしたから……」
「ああ、そうですよね……申し訳ありません、浮かれってしまって」
リメルタさんの言葉によって、私は自らの認識を恥じることになった。
このメイド服は、仕事をするための服なのだ。それに浮かれている場合ではない。
故に私は、意識を切り替える。ここまで来たため、もうそんなに迷いはない。メイドとして、しっかりと勤めるとしよう。
「それでリメルタさん、今一度確認させていただきたいのですが、私が公爵家の令嬢だと知っているのはメイドの中でもメイド長であるあなただけなのですよね?」
「ええ、他に知っている者はいません。あなたは、辺境の村から働きに来たメイドであるということになっています」
「なるほど……」
私が公爵令嬢であるという事実は、仕事仲間には伏せられることになる。
つまり、メイドの中で特別扱いなどはされないということだ。しっかりと、一メイドとして働く必要がある。
もっとも、仮に知られていたとしてもそれは変わらないことだ。仕事をする以上、手を抜くつもりはない。全力でやるつもりだ。
「伯爵家の方々は、私のことを知っているという認識でいいのでしょうか?」
「ええ、旦那様を初めてとするバルドリュー伯爵家の方々は、あなたの素性を理解しています。ただ、私もそうですが、メイド達の前ではあなたを一メイドとして扱うことになります。そのご無礼は、どうかお許しください」
「もちろん、それで怒ったりはしませんよ。こちらから頼んだことですしね……」
リメルタさんの話を聞きながら、私は考えていた。
これから一体、どんな生活が待っているのだろうと。
なんというか、不安は多かった。果たして私は、無事にメイドとして働くことができるのだろうか。
メイド服というものは、普段から何度も見ているものである。しかしそれを自分が身に着けているというのは、どうにも不思議に思えるのだ。
「まあでも、案外似合っているといえるのではないかしら?」
「……ええ、お似合いだと思いますよ、ラメリア様」
「え? あっ……すみません、促すみたいになってしまいましたね」
独り言を呟いたつもりだった私は、部屋にいるリメルタさんの声に少し申し訳ない気持ちを覚えた。
自信過剰とか思われたら、どうしようか。そんな心配も私の頭を過ってくる。
「お気になさらず。珍しい服を着ると、心が躍るのは当然のことですから」
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「もう随分昔のことですから、あまり覚えていませんね。それに私にとって、これは仕事着でしたから……」
「ああ、そうですよね……申し訳ありません、浮かれってしまって」
リメルタさんの言葉によって、私は自らの認識を恥じることになった。
このメイド服は、仕事をするための服なのだ。それに浮かれている場合ではない。
故に私は、意識を切り替える。ここまで来たため、もうそんなに迷いはない。メイドとして、しっかりと勤めるとしよう。
「それでリメルタさん、今一度確認させていただきたいのですが、私が公爵家の令嬢だと知っているのはメイドの中でもメイド長であるあなただけなのですよね?」
「ええ、他に知っている者はいません。あなたは、辺境の村から働きに来たメイドであるということになっています」
「なるほど……」
私が公爵令嬢であるという事実は、仕事仲間には伏せられることになる。
つまり、メイドの中で特別扱いなどはされないということだ。しっかりと、一メイドとして働く必要がある。
もっとも、仮に知られていたとしてもそれは変わらないことだ。仕事をする以上、手を抜くつもりはない。全力でやるつもりだ。
「伯爵家の方々は、私のことを知っているという認識でいいのでしょうか?」
「ええ、旦那様を初めてとするバルドリュー伯爵家の方々は、あなたの素性を理解しています。ただ、私もそうですが、メイド達の前ではあなたを一メイドとして扱うことになります。そのご無礼は、どうかお許しください」
「もちろん、それで怒ったりはしませんよ。こちらから頼んだことですしね……」
リメルタさんの話を聞きながら、私は考えていた。
これから一体、どんな生活が待っているのだろうと。
なんというか、不安は多かった。果たして私は、無事にメイドとして働くことができるのだろうか。
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