事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗

文字の大きさ
2 / 18

2.メイド服に袖を通して

しおりを挟む
 鏡に映る自分の姿に、私は奇妙な感覚を覚えていた。
 メイド服というものは、普段から何度も見ているものである。しかしそれを自分が身に着けているというのは、どうにも不思議に思えるのだ。

「まあでも、案外似合っているといえるのではないかしら?」
「……ええ、お似合いだと思いますよ、ラメリア様」
「え? あっ……すみません、促すみたいになってしまいましたね」

 独り言を呟いたつもりだった私は、部屋にいるリメルタさんの声に少し申し訳ない気持ちを覚えた。
 自信過剰とか思われたら、どうしようか。そんな心配も私の頭を過ってくる。

「お気になさらず。珍しい服を着ると、心が躍るのは当然のことですから」
「リメルタさんも、初めてメイド服に袖を通した時はわくわくしましたか?」
「もう随分昔のことですから、あまり覚えていませんね。それに私にとって、これは仕事着でしたから……」
「ああ、そうですよね……申し訳ありません、浮かれってしまって」

 リメルタさんの言葉によって、私は自らの認識を恥じることになった。
 このメイド服は、仕事をするための服なのだ。それに浮かれている場合ではない。
 故に私は、意識を切り替える。ここまで来たため、もうそんなに迷いはない。メイドとして、しっかりと勤めるとしよう。

「それでリメルタさん、今一度確認させていただきたいのですが、私が公爵家の令嬢だと知っているのはメイドの中でもメイド長であるあなただけなのですよね?」
「ええ、他に知っている者はいません。あなたは、辺境の村から働きに来たメイドであるということになっています」
「なるほど……」

 私が公爵令嬢であるという事実は、仕事仲間には伏せられることになる。
 つまり、メイドの中で特別扱いなどはされないということだ。しっかりと、一メイドとして働く必要がある。
 もっとも、仮に知られていたとしてもそれは変わらないことだ。仕事をする以上、手を抜くつもりはない。全力でやるつもりだ。

「伯爵家の方々は、私のことを知っているという認識でいいのでしょうか?」
「ええ、旦那様を初めてとするバルドリュー伯爵家の方々は、あなたの素性を理解しています。ただ、私もそうですが、メイド達の前ではあなたを一メイドとして扱うことになります。そのご無礼は、どうかお許しください」
「もちろん、それで怒ったりはしませんよ。こちらから頼んだことですしね……」

 リメルタさんの話を聞きながら、私は考えていた。
 これから一体、どんな生活が待っているのだろうと。
 なんというか、不安は多かった。果たして私は、無事にメイドとして働くことができるのだろうか。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

『壁の花』の地味令嬢、『耳が良すぎる』王子殿下に求婚されています〜《本業》に差し支えるのでご遠慮願えますか?〜

水都 ミナト
恋愛
 マリリン・モントワール伯爵令嬢。  実家が運営するモントワール商会は王国随一の大商会で、優秀な兄が二人に、姉が一人いる末っ子令嬢。  地味な外観でパーティには来るものの、いつも壁側で1人静かに佇んでいる。そのため他の令嬢たちからは『地味な壁の花』と小馬鹿にされているのだが、そんな嘲笑をものととせず彼女が壁の花に甘んじているのには理由があった。 「商売において重要なのは『信頼』と『情報』ですから」 ※設定はゆるめ。そこまで腹立たしいキャラも出てきませんのでお気軽にお楽しみください。2万字程の作品です。 ※カクヨム様、なろう様でも公開しています。

侯爵様に婚約破棄されたのですが、どうやら私と王太子が幼馴染だったことは知らなかったようですね?

ルイス
恋愛
オルカスト王国の伯爵令嬢であるレオーネは、侯爵閣下であるビクティムに婚約破棄を言い渡された。 信頼していたビクティムに裏切られたレオーネは悲しみに暮れる……。 しかも、破棄理由が他国の王女との婚約だから猶更だ。 だが、ビクティムは知らなかった……レオーネは自国の第一王子殿下と幼馴染の関係にあることを。 レオーネの幼馴染であるフューリ王太子殿下は、彼女の婚約破棄を知り怒りに打ち震えた。 「さて……レオーネを悲しませた罪、どのように償ってもらおうか」 ビクティム侯爵閣下はとてつもない虎の尾を踏んでしまっていたのだった……。

弟が悪役令嬢に怪我をさせられたのに、こっちが罰金を払うだなんて、そんなおかしな話があるの? このまま泣き寝入りなんてしないから……!

冬吹せいら
恋愛
キリア・モルバレスが、令嬢のセレノー・ブレッザに、顔面をナイフで切り付けられ、傷を負った。 しかし、セレノーは謝るどころか、自分も怪我をしたので、モルバレス家に罰金を科すと言い始める。 話を聞いた、キリアの姉のスズカは、この件を、親友のネイトルに相談した。 スズカとネイトルは、お互いの身分を知らず、会話する仲だったが、この件を聞いたネイトルが、ついに自分の身分を明かすことに。 そこから、話しは急展開を迎える……。

王都を追放された私は、実は幸運の女神だったみたいです。

冬吹せいら
恋愛
ライロット・メンゼムは、令嬢に難癖をつけられ、王都を追放されることになった。 しかし、ライロットは、自分でも気が付いていなかったが、幸運の女神だった。 追放された先の島に、幸運をもたらし始める。 一方、ライロットを追放した王都には、何やら不穏な空気が漂い始めていた。

婚約破棄を兄上に報告申し上げます~ここまでお怒りになった兄を見たのは初めてでした~

ルイス
恋愛
カスタム王国の伯爵令嬢ことアリシアは、慕っていた侯爵令息のランドールに婚約破棄を言い渡された 「理由はどういったことなのでしょうか?」 「なに、他に好きな女性ができただけだ。お前は少し固過ぎたようだ、私の隣にはふさわしくない」 悲しみに暮れたアリシアは、兄に婚約が破棄されたことを告げる それを聞いたアリシアの腹違いの兄であり、現国王の息子トランス王子殿下は怒りを露わにした。 腹違いお兄様の復讐……アリシアはそこにイケない感情が芽生えつつあったのだ。

妹が私の婚約者を奪った癖に、返したいと言ってきたので断った

ルイス
恋愛
伯爵令嬢のファラ・イグリオは19歳の誕生日に侯爵との婚約が決定した。 昔からひたむきに続けていた貴族令嬢としての努力が報われた感じだ。 しかし突然、妹のシェリーによって奪われてしまう。 両親もシェリーを優先する始末で、ファラの婚約は解消されてしまった。 「お前はお姉さんなのだから、我慢できるだろう? お前なら他にも良い相手がきっと見つかるさ」 父親からの無常な一言にファラは愕然としてしまう。彼女は幼少の頃から自分の願いが聞き届けられた ことなど1つもなかった。努力はきっと報われる……そう信じて頑張って来たが、今回の件で心が折れそうになっていた。 だが、ファラの努力を知っていた幼馴染の公爵令息に助けられることになる。妹のシェリーは侯爵との婚約が思っていたのと違うということで、返したいと言って来るが……はあ? もう遅いわよ。

溺愛されている妹の高慢な態度を注意したら、冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになりました。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナフィリアは、妹であるレフーナに辟易としていた。 両親に溺愛されて育ってきた彼女は、他者を見下すわがままな娘に育っており、その相手にラナフィリアは疲れ果てていたのだ。 ある時、レフーナは晩餐会にてとある令嬢のことを罵倒した。 そんな妹の高慢なる態度に限界を感じたラナフィリアは、レフーナを諫めることにした。 だが、レフーナはそれに激昂した。 彼女にとって、自分に従うだけだった姉からの反抗は許せないことだったのだ。 その結果、ラナフィリアは冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになった。 姉が不幸になるように、レフーナが両親に提言したからである。 しかし、ラナフィリアが嫁ぐことになった辺境伯ガルラントは、噂とは異なる人物だった。 戦士であるため、敵に対して冷血ではあるが、それ以外の人物に対して紳士的で誠実な人物だったのだ。 こうして、レフーナの目論見は外れ、ラナフェリアは辺境で穏やかな生活を送るのだった。

婚約破棄宣言をされても、涙より先に笑いがこみあげました。

一ノ瀬和葉
恋愛
「――セシリア・エルディアとの婚約を、ここに破棄する!」 煌めくシャンデリアの下で、王太子リオネル殿下が声を張り上げた。 会場にいた貴族たちは一斉に息を呑み、舞踏の音楽さえ止まる。 ……ああ、やっと来たか。 婚約破棄。断罪。悪役令嬢への審判。 ここで私は泣き崩れ、殿下に縋りつき、噂通りの醜態をさらす―― ……はずだったのだろう。周囲の期待としては。 だが、残念。 私の胸に込みあげてきたのは、涙ではなく、笑いだった。 (だって……ようやく自由になれるんですもの) その瞬間の私の顔を、誰も「悪役令嬢」とは呼べなかったはずだ。 なろう、カクヨム様でも投稿しています。 なろう日間20位 25000PV感謝です。 ※ご都合注意。

処理中です...