事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗

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15.強烈な悪意

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 ヴィクトールに事情を話してから、私はバルドリュー伯爵家でメイドとしてしっかりと働いていた。
 幸いにも、仕事は問題なくこなせている。メイドの仕事は大変だったが、私にできないものではなかったのだ。
 ただ、人間関係には問題があるといえるだろう。ソルネアを虐めていたフェリーナ一派が、本格的に行動し始めたのだ。

「また、なくなっている……」

 私の持ち物は、何故だか頻繁になくなっていた。
 それはどうやら、ソルネアも同じであるらしい。二人とも、持ち物がどうしてか裏庭などで見つかるのである。
 その犯人は、明らかにフェリーナの一派であるだろう。誰かが意図的に隠しているのだろうし、それをしそうなのは彼女達だけだ。

「困ったことになっているわね……さて、どうしましょうかしら?」

 私は、これからどうするべきかを考えることになった。
 フェリーナ一派の行動は、どんどんと過激になっていっている。もしかしたら、このままでは取り返しのつかないことが起こってしまうかもしれない。

「私は、フェリーナの悪辣さを見誤っていたのかもしれないわね……」

 ソルネアの意思を尊重して、私とヴィクトールは彼女を見逃した。
 しかしそれは、判断ミスだったのかもしれない。彼女は思っていた以上に、悪辣な人間である可能性が高い。
 そう思った私は、ゆっくりと廊下を歩いていた。そして階段に差し掛かり、奇妙な感覚に襲われる。

「……え?」
「あっ……」

 柵をしっかりと握った私は、幸いにも階段から転げ落ちることはなかった。
 後ろを向いてみると、そこにはフェリーナ一派のメイド達がいる。その内の一人は、とてもまずいというような表情をしていた。
 それを見たことによって、私は理解する。やはりフェリーナは、私が考えていたよりもずっと恐ろしい女であるのだということを。

「何をやっているの! 押すのよ! 押しなさい! その女を階段から転げ落とすのよ!」

 直後に聞こえてきたのは、フェリーナのそんな激昂であった。
 物陰から出てきた彼女は、こちらに素早く迫って来る。そんな彼女の様子に、私はただ驚くことしかできなかった。
 憎しみに溢れた彼女のその表情が、正直まったく理解できなかったのである。

「私の権力があれば、こんなことは簡単に揉み消せるわ! ほら、全員で押せば落とせるのよ!」
「し、しかしですね……」
「これを聞かれたのよ! 落とすしかないでしょうが! 今更何を躊躇っているのよ!」
「……は、はいっ!」

 フェリーナの怒号に、彼女を含めた取り巻き達が一斉に私に襲い掛かってきた。
 四対一という不利な状況に、私の体は宙に浮いた。そのまま私は落ちていく。そんな私を嘲笑うフェリーナの顔を見ながら。
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