事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗

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17.もう一人の私は

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「本当に申し訳ありませんでした。僕の責任です」
「いいえ、ヴィクトール様のせいではありませんよ」

 頭を下げるヴィクトールに対して、私はゆっくりと首を振る。
 フェリーナ一派に突き落とされた私は、なんとか無事で済んだ。咄嗟に受け身をとったため、軽傷で済んだのである。
 ただ、それでもことがことだ。フェリーナ達に対して、お父様はかなり怒った。その結果、彼女達は投獄されることになったのである。

「フェリーナがあれ程に悪意を持った人だったとは、私も思っていませんでした。見通しが甘かったのは、私も同じです」
「しかし……」
「まあ、こうして助かりましたからね。その辺りは気にしないでください」

 フェリーナというメイドの悪質さは、度を越えていた。
 普通の人間は、気に入らないからといって人を突き落としたりはしない。そこまでするとは、私だって予想していなかった。
 故に私は、ヴィクトールを責めることはできない。今回の件は要するに、私達二人がまだまだ未熟だったということなのだろう。

「でも、あの時にもう一人の私が出て来なかったというのは、結構意外でしたね……彼女に対して怒りはあったはずなのに、まるで何も起こりませんでした」

 そこで私は、もう一人の自分のことを思い出していた。
 彼女あるいは彼は、あの時にまったく表に出て来なかった。是非はともかくとして、もう一人の私が出て来ればもう少し違う結果になっていたような気もするのだが。

「……それについては、僕はなんとなくわかっていますよ」
「あら? そうなのですか?」
「ええ、本当に推測でしかありませんが……」

 そんな私の疑問に、ヴィクトールは遠慮がちに切り出してきた。
 どうやら彼は、私の人格の交代について何かしらの見解を持ち合わせているようだ。それは、今後のためにも是非聞いておきたいことである。

「もう一人のラメリアさんは、きっとラメリアさん自身のことでは出て来ないんだと思います」
「それは……どういうことですか?」
「ラメリアさんは優しい人ですから。きっと自分のことはある程度平気なんでしょう。でも、他人が傷つけられると激しい怒りを覚えてしまう。そんな所なのではないでしょうか?」
「なるほど……」

 ヴィクトールの見解に、私は唸ることになった。
 確かに、それはあり得ない話ではないのかもしれない。もう一人の私は、弟や他者の危機によって目覚めていた。考えてみれば、自分の危機に出てきたことはない。
 激情の化身であるもう一人の私のことが、少しだけわかった。それは私にとって、大きな収穫であるといえるだろう。
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