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20.心強い存在
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「最早、ルドベルド様が刃を差し向けるまでもないと思います」
「それは……」
動かなくなった父を見つめて、ルドベルド様は固まっていた。
彼の手から、ゆっくりと短剣が落ちていく。最早それが必要ないことであることを、彼も理解したのだろう。
「父上……」
「……」
「返事をしてください。父上!」
レムバル様は、国王様に必死に呼びかけていた。
しかし国王様は応えない。息子の叫びも届かない程に、彼の心は壊れてしまったのだろう。
「……お二人は、国王様の傍にいてあげてください」
「聖女ラムーナ……悪魔を追いかけるのか?」
「はい。あれを排除するのは、私の仕事だと思います」
国王様を襲った悪魔は、兵士達が追いかけてくれている。そのため、その居所はすぐにわかるだろう。
ただ問題は、悪魔がロメリア様を人質に取っているということである。故に兵士達も手出しすることができず、手をこまねているはずだ。
「ロメリア様を傷つけず、尚且つ悪魔の不意をつけるのは恐らく私だけです。策も練りましたし、恐らくは成功できると思います」
「そうか……」
二人のやり取りを聞きながら、私は色々と策を考えていた。
その見通しも大方ついたので、そろそろ動くべき時だと思ったのだ。
「……ロメリアのことをよろしく頼む」
「ルドベルド様?」
「あれでも妹だ。やはりあの悪魔に利用されたまま朽ち果てるというのは忍びないと思ってしまう」
「……そうですよね」
ルドベルド様は、私にゆっくりと頭を下げてきた。
根本的に、彼も優しい性格ではあるのだろう。非情な判断もできるというだけで、家族としての情はきちんとあるようだ。
「助かった暁には、あれにもきちんと罰は与えるつもりだ……父上がこうなった以上、あれに後ろ盾はない。最早、自由にすることもできないだろう」
「ええ、できることならそうしてもらいたいとは思っています」
「……ただ、いざという時はあの妹も切り捨ててくれて構わない。この先で何が起こっても、あなたを何者にも責めさせはしないと約束しておこう」
「……わかりました」
ルドベルド様の冷たい声色に、私は彼のことを少しだけ理解できたような気がした。
温かい内面を冷たい仮面で隠している。恐らく、それが彼なのだろう。
「……それでは、私はこれで失礼しま――」
「ラムーナさん、待ってください」
「……レムバル様? どうかされましたか?」
ルドベルド様とのやり取りが終わって、私は部屋を出て行こうとした。
そんな私を引き止めたのは、レムバル様であった。彼は国王様の元から私の傍まで来る。それがどういう意図なのかは、考えるまでもない。
「僕も行きます」
「やはりロメリア様のことが心配ですか?」
「……それもあります。しかし僕は、あなたのことも心配です」
「私のこと?」
レムバル様の言葉に、私は少し驚いてしまった。
ロメリア様のことはともかく、私を心配しているとは思っていなかったからだ。
「僕が傍にいた所で、できることが多くないということはわかっています。でもそれでもなんというか、僕はあなたを一人で行かせたくないと思ってしまったのです」
「……いえ、レムバル様の存在は私にとっては心強い限りです」
私は自分が少しだけ安心していることに気がついた。
勝算はあると思っているが、それでも私は不安だったのかもしれない。悪魔という存在と対峙することが。
それがレムバル様の言葉で安心できた。つまり私は、彼について来て欲しいと思っているのだろう。理屈ではなく感情で傍にいて欲しいと思ってしまっているのだ。
「行きましょう」
「はい」
私の言葉に、レムバル様はゆっくりと頷いてくれた。
こうして私達は、ロメリア様に取りついた悪魔を追いかけるのだった。
「それは……」
動かなくなった父を見つめて、ルドベルド様は固まっていた。
彼の手から、ゆっくりと短剣が落ちていく。最早それが必要ないことであることを、彼も理解したのだろう。
「父上……」
「……」
「返事をしてください。父上!」
レムバル様は、国王様に必死に呼びかけていた。
しかし国王様は応えない。息子の叫びも届かない程に、彼の心は壊れてしまったのだろう。
「……お二人は、国王様の傍にいてあげてください」
「聖女ラムーナ……悪魔を追いかけるのか?」
「はい。あれを排除するのは、私の仕事だと思います」
国王様を襲った悪魔は、兵士達が追いかけてくれている。そのため、その居所はすぐにわかるだろう。
ただ問題は、悪魔がロメリア様を人質に取っているということである。故に兵士達も手出しすることができず、手をこまねているはずだ。
「ロメリア様を傷つけず、尚且つ悪魔の不意をつけるのは恐らく私だけです。策も練りましたし、恐らくは成功できると思います」
「そうか……」
二人のやり取りを聞きながら、私は色々と策を考えていた。
その見通しも大方ついたので、そろそろ動くべき時だと思ったのだ。
「……ロメリアのことをよろしく頼む」
「ルドベルド様?」
「あれでも妹だ。やはりあの悪魔に利用されたまま朽ち果てるというのは忍びないと思ってしまう」
「……そうですよね」
ルドベルド様は、私にゆっくりと頭を下げてきた。
根本的に、彼も優しい性格ではあるのだろう。非情な判断もできるというだけで、家族としての情はきちんとあるようだ。
「助かった暁には、あれにもきちんと罰は与えるつもりだ……父上がこうなった以上、あれに後ろ盾はない。最早、自由にすることもできないだろう」
「ええ、できることならそうしてもらいたいとは思っています」
「……ただ、いざという時はあの妹も切り捨ててくれて構わない。この先で何が起こっても、あなたを何者にも責めさせはしないと約束しておこう」
「……わかりました」
ルドベルド様の冷たい声色に、私は彼のことを少しだけ理解できたような気がした。
温かい内面を冷たい仮面で隠している。恐らく、それが彼なのだろう。
「……それでは、私はこれで失礼しま――」
「ラムーナさん、待ってください」
「……レムバル様? どうかされましたか?」
ルドベルド様とのやり取りが終わって、私は部屋を出て行こうとした。
そんな私を引き止めたのは、レムバル様であった。彼は国王様の元から私の傍まで来る。それがどういう意図なのかは、考えるまでもない。
「僕も行きます」
「やはりロメリア様のことが心配ですか?」
「……それもあります。しかし僕は、あなたのことも心配です」
「私のこと?」
レムバル様の言葉に、私は少し驚いてしまった。
ロメリア様のことはともかく、私を心配しているとは思っていなかったからだ。
「僕が傍にいた所で、できることが多くないということはわかっています。でもそれでもなんというか、僕はあなたを一人で行かせたくないと思ってしまったのです」
「……いえ、レムバル様の存在は私にとっては心強い限りです」
私は自分が少しだけ安心していることに気がついた。
勝算はあると思っているが、それでも私は不安だったのかもしれない。悪魔という存在と対峙することが。
それがレムバル様の言葉で安心できた。つまり私は、彼について来て欲しいと思っているのだろう。理屈ではなく感情で傍にいて欲しいと思ってしまっているのだ。
「行きましょう」
「はい」
私の言葉に、レムバル様はゆっくりと頷いてくれた。
こうして私達は、ロメリア様に取りついた悪魔を追いかけるのだった。
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