旦那様の不手際は、私が頭を下げていたから許していただけていたことをご存知なかったのですか?

木山楽斗

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17.確かな絆

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「悩んだ結果、兄上の母君は兄上を生むことに決めたそうです。父上に対する思いがあったのか、授かった命を大切にしたかったのか、それはわかりません。ですが、兄上は生まれました」
「……そこからは、俺が話すとしよう」

 ファナト様の言葉が終わって、バルハルド様はゆっくりと口を開いた。
 彼の表情は、いつもとは違う。ただそれは、話すことを躊躇っているという感じではない。どちらかというと、昔を懐かしんでいるように見える。

「母がどのような意思で俺を生んだのかは知らない。だが、母が俺に対して愛情を抱いていたことは疑いようのない事実だ。少なくとも俺は、母のことを恨んだことはない。父親を求めたことがない訳ではなかったが、それでも母の元で生きていた」

 バルハルド様にとって、母親との思い出は大切なものであるのだろう。
 ただ、その裏には悲しい出来事が隠れている。それはバルハルド様がここにいて、彼の母親がここにいないということによって、前々から察していたことだ。

「しかしある時、母は病に倒れた。その時だ。俺が自らの出自を知ったのは……」
「父親がベルージュ侯爵だと、知ったのですね?」
「ああ、その時から俺の中には、父親に対する憎しみが芽生えた。母は父のことを悪く言わなかったが、俺からしてみれば、母を捨てた男でしかなかった。俺はそれから、復讐のために成り上ることを決めた。我ながら、子供染みた考えだ」

 バルハルド様は、いつもの自嘲気味な言葉を口にした。
 そこで私は理解する。彼のそういった発言の根底にあるのは、妾の子だからということではなく、復讐をしようとしたことにあるのだと。
 その是非はともかくとして、今の彼は、それを恥じるべきことだと認識している。だからいつも、自虐的なのだろう。

「そんな俺を変えたのは、そこにいるファナトだ。俺のことを知ったファナトは、俺を何度も訪ねて来た。俺が何度突っぱねようとも、こいつは諦めなかった。俺の方が折れたのだ」
「兄上は、僕のことは粗悪に扱ったりしませんでした。恨んでいるのはあくまで父上であると思っていたからでしょう。だからこそ、僕は兄上と歩んでいくことを選んだ。その選択は、間違っていなかったと思っています。今はこうして、兄上と笑いあえていますから」
「全ての事情を知り、父上からも謝罪の言葉を受けた。俺は父上を許した。心のどこかではわかっていたからだ。母はそんなことを望んではいないと……」

 バルハルド様とファナト様は、笑顔を浮かべていた。
 この二人は腹違いの兄弟ではあるが、そこには確かな絆があるということなのだろう。
 だからバルハルド様がここにいる。それはきっと、二人にとって一番良い決着だったのだろう。
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