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23.隠されていた子
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「エルヴァイン公爵、彼は一体……」
部屋の中に入ってきた青年の顔に驚いていた私だったが、なんとか冷静になって、エルヴァイン公爵に質問することができた。
彼の顔は、ウルガド様とよく似ている。ほぼ確実に、彼はヴォンドラ伯爵家の人間だ。
しかしヴォンドラ伯爵家には、ウルガド様以外に子供はいない。公的にそうなっているし、妻として嫁に入った私も、そう認識している。
「彼の名前はエルガド。ヴォンドラ伯爵家の隠し子だ」
「隠し子……」
エルヴァイン公爵の言葉に、バルハルド様は目を細めていた。
彼にとって、その出自は他人事ではない。色々と思う所があるだろう。
しかし私の方は、そんな彼を気遣う余裕がなかった。エルヴァイン公爵が先程言っていたことから考えると、私はとんでもない見逃しをしていたことになるからだ。
「リメリア、賢い君なら既にわかっているかもしれないが、ヴォンドラ伯爵家は彼のことを認識していた。いやそれ所か、屋敷に住まわせていたのだ」
「そ、そんな……私は、彼のことなんてまったく……」
「そうだ。ウルガドは、彼のことを君すら隠し切っていた。その手腕は見事といえるだろう。もっとも、その所業はひどいものだと言わざるを得ないが」
私が予想していた通り、私は目の前にいるこの青年を同じ屋根の下で暮らしていたようである。
広い屋敷とはいえ、人一人を隠すなんて、そう簡単なことではないはずだ。それなのに私は、彼の存在にまったく気づかなかった。それはなんとも、間抜けな話だろう。
「……リメリア嬢、あなたが気付かないのも無理はありません」
私が自分自身に呆れ返っていると、エルガドが声を発した。
彼は、少し申し訳なそうにしながらこちらの様子を伺っている。顔はよく似ているというのに、その表情はウルガド様とは正反対だ。
「兄上が隠すのが上手かったというのもそうなのかもしれませんが、何より僕も自分のこと隠していました。あなたやファナト様やクルメア様に見つからないように心がけていたのです」
「なっ、どうしてそんなことを……」
「全ては、ヴォンドラ伯爵家のためでした。ひどい扱いを受けていたと思われているかもしれませんが、これでも僕は幸せを感じられていたのです。少なくとも、父は僕のことを息子として可愛がってくれていましたから。その父に報いるためにも、家の汚点となる自分を隠すことに不満はありませんでした」
エルガドはとても淡々と、それでいて力強い言葉を発していた。
彼の根底には、ヴォンドラ伯爵家への思いがある。それが言葉の節々から感じられた。
ただ同時に、深い悲しみも読み取れる。それは隠されていた彼がここにいるということから、理解できた。彼の思いは、既に過去のものなのだと。
部屋の中に入ってきた青年の顔に驚いていた私だったが、なんとか冷静になって、エルヴァイン公爵に質問することができた。
彼の顔は、ウルガド様とよく似ている。ほぼ確実に、彼はヴォンドラ伯爵家の人間だ。
しかしヴォンドラ伯爵家には、ウルガド様以外に子供はいない。公的にそうなっているし、妻として嫁に入った私も、そう認識している。
「彼の名前はエルガド。ヴォンドラ伯爵家の隠し子だ」
「隠し子……」
エルヴァイン公爵の言葉に、バルハルド様は目を細めていた。
彼にとって、その出自は他人事ではない。色々と思う所があるだろう。
しかし私の方は、そんな彼を気遣う余裕がなかった。エルヴァイン公爵が先程言っていたことから考えると、私はとんでもない見逃しをしていたことになるからだ。
「リメリア、賢い君なら既にわかっているかもしれないが、ヴォンドラ伯爵家は彼のことを認識していた。いやそれ所か、屋敷に住まわせていたのだ」
「そ、そんな……私は、彼のことなんてまったく……」
「そうだ。ウルガドは、彼のことを君すら隠し切っていた。その手腕は見事といえるだろう。もっとも、その所業はひどいものだと言わざるを得ないが」
私が予想していた通り、私は目の前にいるこの青年を同じ屋根の下で暮らしていたようである。
広い屋敷とはいえ、人一人を隠すなんて、そう簡単なことではないはずだ。それなのに私は、彼の存在にまったく気づかなかった。それはなんとも、間抜けな話だろう。
「……リメリア嬢、あなたが気付かないのも無理はありません」
私が自分自身に呆れ返っていると、エルガドが声を発した。
彼は、少し申し訳なそうにしながらこちらの様子を伺っている。顔はよく似ているというのに、その表情はウルガド様とは正反対だ。
「兄上が隠すのが上手かったというのもそうなのかもしれませんが、何より僕も自分のこと隠していました。あなたやファナト様やクルメア様に見つからないように心がけていたのです」
「なっ、どうしてそんなことを……」
「全ては、ヴォンドラ伯爵家のためでした。ひどい扱いを受けていたと思われているかもしれませんが、これでも僕は幸せを感じられていたのです。少なくとも、父は僕のことを息子として可愛がってくれていましたから。その父に報いるためにも、家の汚点となる自分を隠すことに不満はありませんでした」
エルガドはとても淡々と、それでいて力強い言葉を発していた。
彼の根底には、ヴォンドラ伯爵家への思いがある。それが言葉の節々から感じられた。
ただ同時に、深い悲しみも読み取れる。それは隠されていた彼がここにいるということから、理解できた。彼の思いは、既に過去のものなのだと。
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