24 / 30
24.戦士の顔
しおりを挟む
ナルルグさんの言っていた通り、私達が事態に気付いてから程なくしてフラウバッセンさんからの指示が飛んできた。
その結果、私はアムティリアさんが予測していた通り支援魔法の担当になった。戦場に駆り出す者達に、防御魔法などをかけるのが私の役割である。
「次の方、どうぞ」
「む……」
「あっ……」
そこで私の前に、見知った顔が現れた。
それは、弟のルシウスである。どうやら彼も、今回の魔物の大軍との戦いに参加するつもりのようだ。
非常事態であるため、冒険者も集められていることは知っていた。だからもしかしたらと思っていたが、やはり目の前に現れられると色々とくるものがある。
「姉上……防御魔法をよろしくお願いします」
「ルシウス……」
私は自然とルシウスに近づいて、その体を抱きしめていた。
彼は少し驚いたような顔をしたが、すぐに私を受け入れてくれる。
「ご心配なく、俺は必ず帰ってきます」
「当り前よ。帰って来なかったら承知しないわ」
「ふふ、怒った姉上は怖いですからね。これはなんとしても帰らなければなりません」
私の言葉に、ルシウスは笑っていた。
彼は、本当に落ち着いている。これから戦場に赴くというのに、その体に震えなどはない。私の方は恐怖によって、震えているというのに。
まだ私よりも年下のこの少年は、私よりも余程多くの経験を積んでいるのだろう。そんな彼のことを私が心配する必要などないのかもしれないが、それでも私はルシウスの姉なのでやはり心配してしまうのである。
「背が伸びたのね……」
「そうですね……姉上がなんだか小さく思えます」
「それは、あなたが大きくなったからだわ」
「なるほど、そういうことはあまり気にしていませんでした」
私は、抱きしめたままルシウスに防御魔法をかけていく。
正直、彼を行かせたいとは思わない。このままここで引き止めたいという気持ちはある。
でも彼は、冒険者だ。その危険に飛び込もうとする性を抑えてはくれないのだろう。
何よりもうルシウスは一人前である。そんな彼にまだ半人前の私がどうこう言うなんておこがましいことだと思った。彼はもう、私が庇護するような対象ではないのだ。
「……すごいですね、姉上は。これ程の防御魔法は、初めてです」
「そう? 弟が相手だから、ちょっとやる気を出し過ぎちゃったかしら?」
「それを差し引いても、見事な防御魔法です。これなら敵の攻撃なんてまったく問題ありませんね」
「だからといって、無理をされたら困るのだけれど……」
「ご心配なく、生きて帰ることを姉上に誓いますから」
私は、ゆっくりとルシウスから離れていく。
そこで改めて顔を見て、私は彼が戦士の顔をしていることを理解した。
姉としての贔屓はあるかもしれないが、中々いい顔をしている。決意に満ちたその顔を、私はかっこいいと思っていた。
「ここで姉上と会えたことは、本当に幸運でした。全てが終わってから、また会いましょう……ああそうだ。王都でいい食事処見つけたので、今度一緒に行きませんか?」
「それはもちろん構わないけれど、こういう時にそういう約束をするのはやめてくれないかしら?」
「おや、どうしてですか?」
「そういうものだからよ」
「ふむ、姉上は時々不思議なことを言いますな」
私と話しながら、ルシウスは体の調子を確かめるように動かしていた。
これでも魔法の技術には長けているので、防御魔法の精度は抜群のはずだ。特に問題なく、体を動かすことができるだろう。
「それでは、いっています」
「ええ、いってらっしゃい。気を付けてね」
「もちろんです」
それだけ言って、ルシウスは私の前から去って行った。
その背中を少し見てから、私は気持ちを切り替える。彼のことは心配だが、私にはまだやるべきことがあった。その役目を果たさなければならないのだ。
ルシウスに対する私のように、これから戦場に赴く人達には家族がいる。そういう人達のためにも、できることなら皆帰って来て欲しいものだ。
そんなことを思いながら、私は騎士や冒険者達に防御魔法をかけるのだった。
その結果、私はアムティリアさんが予測していた通り支援魔法の担当になった。戦場に駆り出す者達に、防御魔法などをかけるのが私の役割である。
「次の方、どうぞ」
「む……」
「あっ……」
そこで私の前に、見知った顔が現れた。
それは、弟のルシウスである。どうやら彼も、今回の魔物の大軍との戦いに参加するつもりのようだ。
非常事態であるため、冒険者も集められていることは知っていた。だからもしかしたらと思っていたが、やはり目の前に現れられると色々とくるものがある。
「姉上……防御魔法をよろしくお願いします」
「ルシウス……」
私は自然とルシウスに近づいて、その体を抱きしめていた。
彼は少し驚いたような顔をしたが、すぐに私を受け入れてくれる。
「ご心配なく、俺は必ず帰ってきます」
「当り前よ。帰って来なかったら承知しないわ」
「ふふ、怒った姉上は怖いですからね。これはなんとしても帰らなければなりません」
私の言葉に、ルシウスは笑っていた。
彼は、本当に落ち着いている。これから戦場に赴くというのに、その体に震えなどはない。私の方は恐怖によって、震えているというのに。
まだ私よりも年下のこの少年は、私よりも余程多くの経験を積んでいるのだろう。そんな彼のことを私が心配する必要などないのかもしれないが、それでも私はルシウスの姉なのでやはり心配してしまうのである。
「背が伸びたのね……」
「そうですね……姉上がなんだか小さく思えます」
「それは、あなたが大きくなったからだわ」
「なるほど、そういうことはあまり気にしていませんでした」
私は、抱きしめたままルシウスに防御魔法をかけていく。
正直、彼を行かせたいとは思わない。このままここで引き止めたいという気持ちはある。
でも彼は、冒険者だ。その危険に飛び込もうとする性を抑えてはくれないのだろう。
何よりもうルシウスは一人前である。そんな彼にまだ半人前の私がどうこう言うなんておこがましいことだと思った。彼はもう、私が庇護するような対象ではないのだ。
「……すごいですね、姉上は。これ程の防御魔法は、初めてです」
「そう? 弟が相手だから、ちょっとやる気を出し過ぎちゃったかしら?」
「それを差し引いても、見事な防御魔法です。これなら敵の攻撃なんてまったく問題ありませんね」
「だからといって、無理をされたら困るのだけれど……」
「ご心配なく、生きて帰ることを姉上に誓いますから」
私は、ゆっくりとルシウスから離れていく。
そこで改めて顔を見て、私は彼が戦士の顔をしていることを理解した。
姉としての贔屓はあるかもしれないが、中々いい顔をしている。決意に満ちたその顔を、私はかっこいいと思っていた。
「ここで姉上と会えたことは、本当に幸運でした。全てが終わってから、また会いましょう……ああそうだ。王都でいい食事処見つけたので、今度一緒に行きませんか?」
「それはもちろん構わないけれど、こういう時にそういう約束をするのはやめてくれないかしら?」
「おや、どうしてですか?」
「そういうものだからよ」
「ふむ、姉上は時々不思議なことを言いますな」
私と話しながら、ルシウスは体の調子を確かめるように動かしていた。
これでも魔法の技術には長けているので、防御魔法の精度は抜群のはずだ。特に問題なく、体を動かすことができるだろう。
「それでは、いっています」
「ええ、いってらっしゃい。気を付けてね」
「もちろんです」
それだけ言って、ルシウスは私の前から去って行った。
その背中を少し見てから、私は気持ちを切り替える。彼のことは心配だが、私にはまだやるべきことがあった。その役目を果たさなければならないのだ。
ルシウスに対する私のように、これから戦場に赴く人達には家族がいる。そういう人達のためにも、できることなら皆帰って来て欲しいものだ。
そんなことを思いながら、私は騎士や冒険者達に防御魔法をかけるのだった。
24
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。
倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。
でも、ヒロイン(転生者)がひどい!
彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉
シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり!
私は私の望むままに生きます!!
本編+番外編3作で、40000文字くらいです。
⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
巻き込まれて婚約破棄になった私は静かに舞台を去ったはずが、隣国の王太子に溺愛されてしまった!
ユウ
恋愛
伯爵令嬢ジゼルはある騒動に巻き込まれとばっちりに合いそうな下級生を庇って大怪我を負ってしまう。
学園内での大事件となり、体に傷を負った事で婚約者にも捨てられ、学園にも居場所がなくなった事で悲しみに暮れる…。
「好都合だわ。これでお役御免だわ」
――…はずもなかった。
婚約者は他の女性にお熱で、死にかけた婚約者に一切の関心もなく、学園では派閥争いをしており正直どうでも良かった。
大切なのは兄と伯爵家だった。
何かも失ったジゼルだったが隣国の王太子殿下に何故か好意をもたれてしまい波紋を呼んでしまうのだった。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~
詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?
小説家になろう様でも投稿させていただいております
8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位
8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位
8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位
に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m
悪役令嬢の取り巻き令嬢(モブ)だけど実は影で暗躍してたなんて意外でしょ?
無味無臭(不定期更新)
恋愛
無能な悪役令嬢に変わってシナリオ通り進めていたがある日悪役令嬢にハブられたルル。
「いいんですか?その態度」
悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない
おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。
どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに!
あれ、でも意外と悪くないかも!
断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。
※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる