無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。

木山楽斗

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24.戦士の顔

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 ナルルグさんの言っていた通り、私達が事態に気付いてから程なくしてフラウバッセンさんからの指示が飛んできた。
 その結果、私はアムティリアさんが予測していた通り支援魔法の担当になった。戦場に駆り出す者達に、防御魔法などをかけるのが私の役割である。

「次の方、どうぞ」
「む……」
「あっ……」

 そこで私の前に、見知った顔が現れた。
 それは、弟のルシウスである。どうやら彼も、今回の魔物の大軍との戦いに参加するつもりのようだ。
 非常事態であるため、冒険者も集められていることは知っていた。だからもしかしたらと思っていたが、やはり目の前に現れられると色々とくるものがある。

「姉上……防御魔法をよろしくお願いします」
「ルシウス……」

 私は自然とルシウスに近づいて、その体を抱きしめていた。
 彼は少し驚いたような顔をしたが、すぐに私を受け入れてくれる。

「ご心配なく、俺は必ず帰ってきます」
「当り前よ。帰って来なかったら承知しないわ」
「ふふ、怒った姉上は怖いですからね。これはなんとしても帰らなければなりません」

 私の言葉に、ルシウスは笑っていた。
 彼は、本当に落ち着いている。これから戦場に赴くというのに、その体に震えなどはない。私の方は恐怖によって、震えているというのに。
 まだ私よりも年下のこの少年は、私よりも余程多くの経験を積んでいるのだろう。そんな彼のことを私が心配する必要などないのかもしれないが、それでも私はルシウスの姉なのでやはり心配してしまうのである。

「背が伸びたのね……」
「そうですね……姉上がなんだか小さく思えます」
「それは、あなたが大きくなったからだわ」
「なるほど、そういうことはあまり気にしていませんでした」

 私は、抱きしめたままルシウスに防御魔法をかけていく。
 正直、彼を行かせたいとは思わない。このままここで引き止めたいという気持ちはある。
 でも彼は、冒険者だ。その危険に飛び込もうとする性を抑えてはくれないのだろう。
 何よりもうルシウスは一人前である。そんな彼にまだ半人前の私がどうこう言うなんておこがましいことだと思った。彼はもう、私が庇護するような対象ではないのだ。

「……すごいですね、姉上は。これ程の防御魔法は、初めてです」
「そう? 弟が相手だから、ちょっとやる気を出し過ぎちゃったかしら?」
「それを差し引いても、見事な防御魔法です。これなら敵の攻撃なんてまったく問題ありませんね」
「だからといって、無理をされたら困るのだけれど……」
「ご心配なく、生きて帰ることを姉上に誓いますから」

 私は、ゆっくりとルシウスから離れていく。
 そこで改めて顔を見て、私は彼が戦士の顔をしていることを理解した。
 姉としての贔屓はあるかもしれないが、中々いい顔をしている。決意に満ちたその顔を、私はかっこいいと思っていた。

「ここで姉上と会えたことは、本当に幸運でした。全てが終わってから、また会いましょう……ああそうだ。王都でいい食事処見つけたので、今度一緒に行きませんか?」
「それはもちろん構わないけれど、こういう時にそういう約束をするのはやめてくれないかしら?」
「おや、どうしてですか?」
「そういうものだからよ」
「ふむ、姉上は時々不思議なことを言いますな」

 私と話しながら、ルシウスは体の調子を確かめるように動かしていた。
 これでも魔法の技術には長けているので、防御魔法の精度は抜群のはずだ。特に問題なく、体を動かすことができるだろう。

「それでは、いっています」
「ええ、いってらっしゃい。気を付けてね」
「もちろんです」

 それだけ言って、ルシウスは私の前から去って行った。
 その背中を少し見てから、私は気持ちを切り替える。彼のことは心配だが、私にはまだやるべきことがあった。その役目を果たさなければならないのだ。
 ルシウスに対する私のように、これから戦場に赴く人達には家族がいる。そういう人達のためにも、できることなら皆帰って来て欲しいものだ。
 そんなことを思いながら、私は騎士や冒険者達に防御魔法をかけるのだった。
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