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23.慌ただしい王城

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 色々とあったが、私は今日も反射魔法の研究を続けている。結局の所、私は魔術師団の団員であるため、業務を疎かにすることはできないのだ。
 ただ頭の片隅では、ウェルド様との婚約のことが気になっている。もっともそれは私個人の考えでどうにかなるものでもないので、あまり気にしても仕方ないことではあるのだが。

「……なんだか、外が騒がしいな?」
「ああ、研究に集中できる環境ではないな」

 そんな風に気掛かりがある中研究を進めていた私は、ナルルグさんとドナウさんがそう言うまで、外から聞こえてくる足音に気付いていなかった。
 だが言われてみれば、確かに騒がしい。慌てたように廊下を走る音がここまで聞こえてくるなんてことは今までなかった。
 つまり、これは明らかに非常事態ということである。ウェルド様との婚約のことなんて考えている場合ではない。そう思った私は意識を切り替える。

「少し外の様子を見てきます」
「ラナトゥーリ嬢、わざわざあなたが行かなくても大丈夫です。俺が行きますよ」
「そうですか? それならよろしくお願いします」

 ナルルグさんの言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 別に様子を見に行くのが誰でも構わない。今重要なのは、状況を知ることだ。そして場合によっては、対処しなければならない。

「皆さん、とりあえず何があってもいいように準備をしておきましょう。いざという時は、ここから動くこともあると思いますから」

 アムティリアの呼びかけに、チームの魔術師達は辺りを片付け始めた。
 これだけ騒ぎになっているのだから、大変なことが起こっていることは間違いない。そのため私達も動ける準備はしておくべきだ。万が一ということもあるのだから。

「……皆、状況は大体わかった」

 そこで、ナルルグさんが実験場に戻って来た。
 彼は真剣な顔をしている。当然のことながら、本当に非常事態が起こっているようだ。

「最初に結論から言おう。王都に魔物の大軍が迫っているらしい」
「魔物の大軍? なるほど、それは確かに非常事態だな……だがそこまで珍しいことという訳でもあるまい。当然よくある訳でもないが」
「確かに魔物の群れが人間の住処を襲うことはありますね。ただ今回はその量が尋常ではないようなんです。観測した騎士によると、歴史上類を見ない程とか」

 ドナウさんの疑問の言葉に、ナルルグさんは深刻な顔をしていた。
 魔物という生物は、人間を恐れずに襲ってくる性質を持った危険な生物だ。それが人間の住処を襲うということは珍しいことではない。そういう魔物を討伐するために、騎士や冒険者が日夜動いているのである。
 その魔物が群れを組んでいることもそれ程珍しいことではない。だが、それが歴史上類を見ない程であるというなら、それは本当に大変な事態だ。

「恐らく、フラウバッセン団長から指示が来るはずだ。故に、俺達はここで待機しておくことにしよう」
「ラナトゥーリ嬢、こういった事態の時に魔術師団が担う役割をご存知ですかな?」
「はい、フラウバッセン団長からその辺りは教わっています」
「それなら結構」

 ドナウさんは、私の返答に対して満足そうに頷いた。
 流石の私も、魔術師団の役割は頭に叩き込んである。こういった事態の際に、騎士団などの後方支援を行うのが魔術師団の役目だ。
 当然のことながら、魔術師にだって戦闘能力はある。それに回復魔法などといった魔法も使うことができる。普段は基本的に騎士団が戦うことが多いが、有事の際には魔術師も戦場に駆り出されるのだ。

「ラナトゥーリ嬢、恐らく私達は回復魔法か支援魔法の担当になると思います」
「そうなんですか?」
「ええ、貴族の令嬢などは基本的にその辺りに当てられるのが通例です。その類の魔法は問題ありませんか?」
「ええ、それはもちろんです」

 アムティリアさんからの質問に、私はゆっくりと頷いた。
 どうやら、貴族の令嬢はこういう時でも色々と考慮される存在ではあるようだ。それは仕方ないことなのだろう。何かあって問題になるのは、魔術師団としても避けたいといった所だろうか。
 しかしそれならそれで、私はその役目を全うすればいいだけだ。私は魔術師団の一員として、自分にできることをすればいいだけなのである。
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