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4.提案と頼み
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「そうでしたか……やはり、あなたの言葉も届きませんでしたか」
「ええ、何を言っても聞き入れてくれるとは思いませんでした」
「あれの視野は、どうやらかなり狭くなっているようですね……最早、誰にもあれは止められませんか」
アルガール侯爵は、ゆっくりと窓の外に視線を向けた。
彼はもう長くはない。限界なのだと改めて理解する。
ランドラ様の判断は、侯爵にとっては負担であるだろう。その体にきっと悪影響を与えているはずだ。
「安心して妻の元へ旅立てると思っていましたが、これでは会わせる顔がありませんな。一体、どこで育て方を間違えたのか……まあ、私もあれのことを色々と言える立場ではないということなのかもしれませんな」
アルガール侯爵は、早くに奥様を亡くした。
それから、男手一つでランドラ様を育ててきたのである。
再婚をする気はなかったらしい。彼は、亡き奥様を深く愛していたそうだ。
愛する気持ちが強いというのは、親子で似ている部分といえるだろう。だが、侯爵の背中を本当に見ていたら、もっと違う判断ができたのではないだろうか。
「……ああ、セリティア嬢。申し訳ありません、色々と考えてしまって」
「あ、いえ、大丈夫です」
「さて、申し訳ありませんが、あなたとの婚約はなかったことになるでしょう。いえ、なかったことにさせてください。この時点で……」
「この時点で?」
「ええ、私の目が黒い内は、ランドラを抑えておくことは不可能ではありません。流石に多少の負い目はあるでしょうから、私が死ぬまでは行動を起こさないかもしれません。」
力強く私の目を見ながら、アルガール侯爵はそう言ってきた。
どれだけ弱っていても、彼は侯爵なのだ。その視線が、私にそう思わせてくれた。
「ですが、結果は変わりません。私が死ねば、あれは婚約破棄してルーフィアという女性と結婚するでしょう。ですから、もうこの時点で婚約は完全に破棄させていただきます」
「……はい」
この時点で婚約を破棄するのは、私やオンラルト侯爵家のためなのだろう。
結果が変わらないのだから、これ以上私達を拘束するべきだはない。侯爵は、そう判断してくれたのだ。
「その上で、私は一つあなた方に提案したいと思っています。ラーゼル公爵の長男であるバルギードを知っていますか?」
「ええ、何度か会ったことはあると思います。深い関わりはありませんが……」
「私は、ラーゼル公爵とも親交がありました。最近、彼は悩んでいるようなのです。バルギードが婚約相手を中々決めないと」
「決めない?」
「ええ、バルギードは気難しい男なのです。何度か見合いもあったようですが、全て破談になったと聞いています」
「その方と私が?」
「ええ、オンラルト侯爵が望むなら、私の方から進言したいと思っています」
この話は恐らく、アルガール侯爵からのお詫びということなのだろう。
それは、ありがたい話ではある。もちろん、それが上手く行くかどうかは別の話ではあるが。
「ありがとうございます。まあ、その辺りの判断は父がするとは思いますが……」
「ええ……それから申し訳ありませんが、あなたには最期に頼みたいことがあるのです」
「なんですか?」
「預かっていてもらいたいのです。未来を……」
「未来を?」
その言葉の意味はわからないが、アルガール侯爵が何か重要なものを私に渡そうとしていることはわかった。
こうして私は、侯爵から大事なものを預かることになったのだった。
「ええ、何を言っても聞き入れてくれるとは思いませんでした」
「あれの視野は、どうやらかなり狭くなっているようですね……最早、誰にもあれは止められませんか」
アルガール侯爵は、ゆっくりと窓の外に視線を向けた。
彼はもう長くはない。限界なのだと改めて理解する。
ランドラ様の判断は、侯爵にとっては負担であるだろう。その体にきっと悪影響を与えているはずだ。
「安心して妻の元へ旅立てると思っていましたが、これでは会わせる顔がありませんな。一体、どこで育て方を間違えたのか……まあ、私もあれのことを色々と言える立場ではないということなのかもしれませんな」
アルガール侯爵は、早くに奥様を亡くした。
それから、男手一つでランドラ様を育ててきたのである。
再婚をする気はなかったらしい。彼は、亡き奥様を深く愛していたそうだ。
愛する気持ちが強いというのは、親子で似ている部分といえるだろう。だが、侯爵の背中を本当に見ていたら、もっと違う判断ができたのではないだろうか。
「……ああ、セリティア嬢。申し訳ありません、色々と考えてしまって」
「あ、いえ、大丈夫です」
「さて、申し訳ありませんが、あなたとの婚約はなかったことになるでしょう。いえ、なかったことにさせてください。この時点で……」
「この時点で?」
「ええ、私の目が黒い内は、ランドラを抑えておくことは不可能ではありません。流石に多少の負い目はあるでしょうから、私が死ぬまでは行動を起こさないかもしれません。」
力強く私の目を見ながら、アルガール侯爵はそう言ってきた。
どれだけ弱っていても、彼は侯爵なのだ。その視線が、私にそう思わせてくれた。
「ですが、結果は変わりません。私が死ねば、あれは婚約破棄してルーフィアという女性と結婚するでしょう。ですから、もうこの時点で婚約は完全に破棄させていただきます」
「……はい」
この時点で婚約を破棄するのは、私やオンラルト侯爵家のためなのだろう。
結果が変わらないのだから、これ以上私達を拘束するべきだはない。侯爵は、そう判断してくれたのだ。
「その上で、私は一つあなた方に提案したいと思っています。ラーゼル公爵の長男であるバルギードを知っていますか?」
「ええ、何度か会ったことはあると思います。深い関わりはありませんが……」
「私は、ラーゼル公爵とも親交がありました。最近、彼は悩んでいるようなのです。バルギードが婚約相手を中々決めないと」
「決めない?」
「ええ、バルギードは気難しい男なのです。何度か見合いもあったようですが、全て破談になったと聞いています」
「その方と私が?」
「ええ、オンラルト侯爵が望むなら、私の方から進言したいと思っています」
この話は恐らく、アルガール侯爵からのお詫びということなのだろう。
それは、ありがたい話ではある。もちろん、それが上手く行くかどうかは別の話ではあるが。
「ありがとうございます。まあ、その辺りの判断は父がするとは思いますが……」
「ええ……それから申し訳ありませんが、あなたには最期に頼みたいことがあるのです」
「なんですか?」
「預かっていてもらいたいのです。未来を……」
「未来を?」
その言葉の意味はわからないが、アルガール侯爵が何か重要なものを私に渡そうとしていることはわかった。
こうして私は、侯爵から大事なものを預かることになったのだった。
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