そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげますよ。私は疲れたので、やめさせてもらいます。

木山楽斗

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 私は、お兄様の元に来ています。
 お姉様に手を出していないことに、抗議するためです。

「お兄様、どうしてお姉様に手を出してないんですか?」
「……何?」
「まだキスもしていないなんて、正気ですか?」
「……お前は何を言っているんだ」

 お兄様は、私の言葉をまったく理解していません。
 どうやら、本当に何もわかっていないようです。やっぱり、枯れているんでしょうか?

「うら若き乙女が、その身を持て余しているんですよ。ここは、キスとか色々するべきでしょう」
「何故、俺は手を出していないことに文句を言われているのだ……」
「手を出さないことが美徳だと思っているんですか? 手を出すことも、時には必要なんですよ」
「それは、お前の勝手な理論だろう」
「一般論です」

 お兄様は、手を出さないことを美徳だと思っているようです。
 こういう勘違いをしてもらっては困るんですよね。お兄様は、もっとお姉様の気持ちを考えるべきです。

「いいですか、お兄様。お姉様とお兄様は、好き合っていますよね?」
「む……まあ、そうだが」
「そういう二人が、一つ屋根の上で暮らしています。広い家ですけど、それは間違いないですよね?」
「それもそうだが……」
「それで手を出されない。そうなった時、お姉様はどういう気持ちになりますか?」
「それは……」

 私が思うのは、お姉様の気持ちです。
 お兄様に手を出されない。そう発言した時の彼女は、悲しそうな顔をしていました。
 つまり、お姉様は不安を抱いているのです。当然です。手を出されないと、本当に愛してくれているのかと不安になるでしょう。
 真面目なのは悪いことではないかもしれませんが、それでお姉様を不安にさせては意味がありません。

「お前の言うことはわからない訳ではない。だが、それでも俺は手を出す気はない」
「はあっ?」
「手を出すとしたら、正式に結婚してからだ。それを譲歩するつもりはない」
「かあっ……」

 お兄様は、私の話を聞いてもまだ折れませんでした。
 どうやら、その意思は固いようです。
 こういう所で意地を張るのはやめていただきたいですね。今回に関しては、私の方が正しいと思うんですけど。

「お兄様、そんな風な態度だとお姉様に愛想をつかされてしまいますよ」
「……そうなってしまったなら、仕方ないというだけの話だ」
「……もういいです。お兄様がそういう考え方なら、もう何も言いません」

 お兄様にこれ以上何か言っても、恐らく意味はないでしょう。
 ですから、私はお兄様に何か言うのはやめることにします。ここは、アプローチを変えていくことにしましょう。
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