そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。

木山楽斗

文字の大きさ
15 / 44

15.親しそうな会話

しおりを挟む
 道に迷っていた男性を、私はラナキンス商会の拠点まで連れて来ていた。
 拠点の周りでは、見知った面々が作業をしている。

「あれ? アルシエラ様じゃありませんか?」
「本当だ。今日は休みだったんじゃありませんか?」

 私の来訪に、商会の皆は少し驚いているようだった。
 ただ、そんなに動揺しているようには見えない。恐らく稀であるが、ないことではないと思ったからだろう。

「ええそうなんですけど、実は道案内をしてきたんです。こちらの男性が、ラナキンス商会に用があるそうで……」
「道案内……?」
「男性……」

 私の言葉に、商会の面々は顔を見合わせていた。
 その後彼らの視線は、私の後ろにいる男性に集中する。
 そんな風に見るのは、どう考えても失礼だ。そう思った私は、男性に謝罪しなければならないと後ろを向いた。

「皆さん、お久し振りですね。お元気でしたか?」

 すると、男性はそのような言葉を商会の面々にそのような言葉を言い放った。
 それに私は、驚いてしまう。男性の口調は、どう考えたって取り引き相手とかの口調ではないからである。

「ギルバートさん、お戻りになられたのですか?」
「半年振りですか? いや、なんだかまた立派になられましたねぇ」
「そうでしょうか? 自分ではあまり変わっていないような気がするんですけどね」

 男性の言葉に対して、商会の面々も同じように親しそうな言葉を返していた。
 そのやり取りに、私は混乱する。彼は一体、何者であるのだろうか。

「ああ、アルシエラ様、すみません。勝手に話を進めてしまって……」
「え? ああ、いえ、それは大丈夫です。ただ、この方は一体……」
「彼は、ギルバート・エルセデスさんという方です。このラナキンス商会の重鎮の一人です」
「重鎮……」

 説明を受けた私は、改めてギルバートさんの顔を見た。
 まだ若いはずの彼は、どうやらかなり高い地位に就いているらしい。
 そういえば、彼は私に対して確かに上司のような接し方をしていた気がする。あの態度は、そういうことだったのだ。私は少し納得することができた。

「重鎮というのはやめてください。僕はただ、父の後を継ぐことになったというだけですから。まだまだ未熟な若輩者ですよ」
「いやいや、ギルバートさんには地位に見合った能力がありますよ」
「そうです。そうです。ガーランドさんも、その能力を評価して、ラナキンスさんに自分の後継者として推薦したんでしょうし……」

 よくわからないが、ギルバートさんは父親の後を継いでその地位を得たらしい。
 貴族もそうではあるが、やはり世襲制ということなのだろう。
 ただ彼の場合は、周りの人からも慕われている訳だし、その能力は確かなはずだ。優秀で謙虚な後継者に、ガーランドさんという人は恵まれたといった所だろうか。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。

朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」  テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。 「誰と誰の婚約ですって?」 「俺と!お前のだよ!!」  怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。 「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」

甘やかされて育ってきた妹に、王妃なんて務まる訳がないではありませんか。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラフェリアは、実家との折り合いが悪く、王城でメイドとして働いていた。 そんな彼女は優秀な働きが認められて、第一王子と婚約することになった。 しかしその婚約は、すぐに破談となる。 ラフェリアの妹であるメレティアが、王子を懐柔したのだ。 メレティアは次期王妃となることを喜び、ラフェリアの不幸を嘲笑っていた。 ただ、ラフェリアはわかっていた。甘やかされて育ってきたわがまま妹に、王妃という責任ある役目は務まらないということを。 その兆候は、すぐに表れた。以前にも増して横暴な振る舞いをするようになったメレティアは、様々な者達から反感を買っていたのだ。

熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください。私は、堅実に生きさせてもらいますので。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアルネアには、婚約者がいた。 しかし、ある日その彼から婚約破棄を告げられてしまう。なんでも、アルネアの妹と婚約したいらしいのだ。 「熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください」 身勝手な恋愛をする二人に対して、アルネアは呆れていた。 堅実に生きたい彼女にとって、二人の行いは信じられないものだったのである。 数日後、アルネアの元にある知らせが届いた。 妹と元婚約者の間で、何か事件が起こったらしいのだ。

義妹のせいで、婚約した相手に会う前にすっかり嫌われて婚約が白紙になったのになぜか私のことを探し回っていたようです

珠宮さくら
恋愛
サヴァスティンカ・メテリアは、ルーニア国の伯爵家に生まれた。母を亡くし、父は何を思ったのか再婚した。その再婚相手の連れ子は、義母と一緒で酷かった。いや、義母よりうんと酷かったかも知れない。 そんな義母と義妹によって、せっかく伯爵家に婿入りしてくれることになった子息に会う前にサヴァスティンカは嫌われることになり、婚約も白紙になってしまうのだが、義妹はその子息の兄と婚約することになったようで、義母と一緒になって大喜びしていた 。

【完結】何でも欲しがる義妹が『ずるい』とうるさいので魔法で言えないようにしてみた

堀 和三盆
恋愛
「ずるいですわ、ずるいですわ、お義姉様ばかり! 私も伯爵家の人間になったのだから、そんな素敵な髪留めが欲しいです!」  ドレス、靴、カバン等の値の張る物から、婚約者からの贈り物まで。義妹は気に入ったものがあれば、何でも『ずるい、ずるい』と言って私から奪っていく。  どうしてこうなったかと言えば……まあ、貴族の中では珍しくもない。後妻の連れ子とのアレコレだ。お父様に相談しても「いいから『ずるい』と言われたら義妹に譲ってあげなさい」と、話にならない。仕方なく義妹の欲しがるものは渡しているが、いい加減それも面倒になってきた。  ――何でも欲しがる義妹が『ずるい』とうるさいので。  ここは手っ取り早く魔法使いに頼んで。  義妹が『ずるい』と言えないように魔法をかけてもらうことにした。

妹が私の婚約者を奪った癖に、返したいと言ってきたので断った

ルイス
恋愛
伯爵令嬢のファラ・イグリオは19歳の誕生日に侯爵との婚約が決定した。 昔からひたむきに続けていた貴族令嬢としての努力が報われた感じだ。 しかし突然、妹のシェリーによって奪われてしまう。 両親もシェリーを優先する始末で、ファラの婚約は解消されてしまった。 「お前はお姉さんなのだから、我慢できるだろう? お前なら他にも良い相手がきっと見つかるさ」 父親からの無常な一言にファラは愕然としてしまう。彼女は幼少の頃から自分の願いが聞き届けられた ことなど1つもなかった。努力はきっと報われる……そう信じて頑張って来たが、今回の件で心が折れそうになっていた。 だが、ファラの努力を知っていた幼馴染の公爵令息に助けられることになる。妹のシェリーは侯爵との婚約が思っていたのと違うということで、返したいと言って来るが……はあ? もう遅いわよ。

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。 その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。 そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。 そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。

【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

との
恋愛
離婚したいのですか?  喜んでお受けします。 でも、本当に大丈夫なんでしょうか? 伯爵様・・自滅の道を行ってません? まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。 収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。 (父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる) ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

処理中です...