20 / 44
20.強かな人
しおりを挟む
馬車に揺られながら、私は不思議な気持ちを抱いていた。
一体どうして、こんなことになったのだろうか。改めて考えてみると、色々とおかしな話である。
『なるほど、事情はよくわかりました。アルシエラさん、どうぞ真相を確かめて来てください』
『い、いいんですか?』
『ええ、もちろんですとも。もしかしたらそれは、アルシャナ様が果たせなかったことかもしれません。それを果たすのは、アルシエラさんしかいないでしょう』
ラナキンスさんは、私が東の拠点に行くことを快く了承してくれた。
それなりに長い旅になり、色々と穴を開けることになるというのに、許してもらえたのは正直少し意外である。
もっとも、元々私がいなくてもあの拠点は回っていた。ロッテアさんは、涙を流して私を見送ってくれたが、別に私が抜けた所でどうということはないということだろうか。
「アルシエラさん、心配ですか?」
「え?」
「いえ、そのような顔をしていましたから」
「えっと……」
そんな私の憂いを、ギルバートさんは見抜いていた。
その言葉によって、私は思考を切り替える。もう行くと決めたのだから、迷っている場合ではないと。
「まあ、少し複雑な心境ではありますね。私も、あの拠点でそれなりに力になれていると思い始めた矢先でしたから……」
「アルシエラさんは、必要とされていない訳ではありませんよ。ただラナキンスさんは、それよりも優先するべきことがあると考えただけでしょう」
「そうなのでしょうか?」
「……もしくは、これを好機と見たのかもしれません。あの方は強かですからね。ランバット伯爵家との繋がりを得られる可能性に賭けたのかもしれません」
「それは……」
ギルバートさんの言葉に、私は少しだけ考えを変えることになった。
ラナキンスさんのことを、私はただ優しい方だと思っていた。
しかしながら彼の本質は商人である。人情もあるが、きっと損得だって考えるはずだ。
「確かに、身内がいる紹介を優遇する可能性はあるでしょうね。ただそれは、関係が良好な場合でしょう?」
「ええ、ですから賭けなんです。不利益を被る可能性も考慮して、彼はあなたを行かせることを選んだのだと思います」
「なるほど……それは確かに、強かですね」
ギルバートさんの語るラナキンスさんに、私は思わず苦笑いを浮かべてしまった。
思っていたよりもずっと、ラナキンスさんは酔狂な人であるようだ。なんというか、これから彼を見る目が少し変わってしまいそうである。
一体どうして、こんなことになったのだろうか。改めて考えてみると、色々とおかしな話である。
『なるほど、事情はよくわかりました。アルシエラさん、どうぞ真相を確かめて来てください』
『い、いいんですか?』
『ええ、もちろんですとも。もしかしたらそれは、アルシャナ様が果たせなかったことかもしれません。それを果たすのは、アルシエラさんしかいないでしょう』
ラナキンスさんは、私が東の拠点に行くことを快く了承してくれた。
それなりに長い旅になり、色々と穴を開けることになるというのに、許してもらえたのは正直少し意外である。
もっとも、元々私がいなくてもあの拠点は回っていた。ロッテアさんは、涙を流して私を見送ってくれたが、別に私が抜けた所でどうということはないということだろうか。
「アルシエラさん、心配ですか?」
「え?」
「いえ、そのような顔をしていましたから」
「えっと……」
そんな私の憂いを、ギルバートさんは見抜いていた。
その言葉によって、私は思考を切り替える。もう行くと決めたのだから、迷っている場合ではないと。
「まあ、少し複雑な心境ではありますね。私も、あの拠点でそれなりに力になれていると思い始めた矢先でしたから……」
「アルシエラさんは、必要とされていない訳ではありませんよ。ただラナキンスさんは、それよりも優先するべきことがあると考えただけでしょう」
「そうなのでしょうか?」
「……もしくは、これを好機と見たのかもしれません。あの方は強かですからね。ランバット伯爵家との繋がりを得られる可能性に賭けたのかもしれません」
「それは……」
ギルバートさんの言葉に、私は少しだけ考えを変えることになった。
ラナキンスさんのことを、私はただ優しい方だと思っていた。
しかしながら彼の本質は商人である。人情もあるが、きっと損得だって考えるはずだ。
「確かに、身内がいる紹介を優遇する可能性はあるでしょうね。ただそれは、関係が良好な場合でしょう?」
「ええ、ですから賭けなんです。不利益を被る可能性も考慮して、彼はあなたを行かせることを選んだのだと思います」
「なるほど……それは確かに、強かですね」
ギルバートさんの語るラナキンスさんに、私は思わず苦笑いを浮かべてしまった。
思っていたよりもずっと、ラナキンスさんは酔狂な人であるようだ。なんというか、これから彼を見る目が少し変わってしまいそうである。
144
あなたにおすすめの小説
わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。
朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」
テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。
「誰と誰の婚約ですって?」
「俺と!お前のだよ!!」
怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。
「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」
甘やかされて育ってきた妹に、王妃なんて務まる訳がないではありませんか。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラフェリアは、実家との折り合いが悪く、王城でメイドとして働いていた。
そんな彼女は優秀な働きが認められて、第一王子と婚約することになった。
しかしその婚約は、すぐに破談となる。
ラフェリアの妹であるメレティアが、王子を懐柔したのだ。
メレティアは次期王妃となることを喜び、ラフェリアの不幸を嘲笑っていた。
ただ、ラフェリアはわかっていた。甘やかされて育ってきたわがまま妹に、王妃という責任ある役目は務まらないということを。
その兆候は、すぐに表れた。以前にも増して横暴な振る舞いをするようになったメレティアは、様々な者達から反感を買っていたのだ。
熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください。私は、堅実に生きさせてもらいますので。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアルネアには、婚約者がいた。
しかし、ある日その彼から婚約破棄を告げられてしまう。なんでも、アルネアの妹と婚約したいらしいのだ。
「熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください」
身勝手な恋愛をする二人に対して、アルネアは呆れていた。
堅実に生きたい彼女にとって、二人の行いは信じられないものだったのである。
数日後、アルネアの元にある知らせが届いた。
妹と元婚約者の間で、何か事件が起こったらしいのだ。
義妹のせいで、婚約した相手に会う前にすっかり嫌われて婚約が白紙になったのになぜか私のことを探し回っていたようです
珠宮さくら
恋愛
サヴァスティンカ・メテリアは、ルーニア国の伯爵家に生まれた。母を亡くし、父は何を思ったのか再婚した。その再婚相手の連れ子は、義母と一緒で酷かった。いや、義母よりうんと酷かったかも知れない。
そんな義母と義妹によって、せっかく伯爵家に婿入りしてくれることになった子息に会う前にサヴァスティンカは嫌われることになり、婚約も白紙になってしまうのだが、義妹はその子息の兄と婚約することになったようで、義母と一緒になって大喜びしていた
。
【完結】何でも欲しがる義妹が『ずるい』とうるさいので魔法で言えないようにしてみた
堀 和三盆
恋愛
「ずるいですわ、ずるいですわ、お義姉様ばかり! 私も伯爵家の人間になったのだから、そんな素敵な髪留めが欲しいです!」
ドレス、靴、カバン等の値の張る物から、婚約者からの贈り物まで。義妹は気に入ったものがあれば、何でも『ずるい、ずるい』と言って私から奪っていく。
どうしてこうなったかと言えば……まあ、貴族の中では珍しくもない。後妻の連れ子とのアレコレだ。お父様に相談しても「いいから『ずるい』と言われたら義妹に譲ってあげなさい」と、話にならない。仕方なく義妹の欲しがるものは渡しているが、いい加減それも面倒になってきた。
――何でも欲しがる義妹が『ずるい』とうるさいので。
ここは手っ取り早く魔法使いに頼んで。
義妹が『ずるい』と言えないように魔法をかけてもらうことにした。
妹が私の婚約者を奪った癖に、返したいと言ってきたので断った
ルイス
恋愛
伯爵令嬢のファラ・イグリオは19歳の誕生日に侯爵との婚約が決定した。
昔からひたむきに続けていた貴族令嬢としての努力が報われた感じだ。
しかし突然、妹のシェリーによって奪われてしまう。
両親もシェリーを優先する始末で、ファラの婚約は解消されてしまった。
「お前はお姉さんなのだから、我慢できるだろう? お前なら他にも良い相手がきっと見つかるさ」
父親からの無常な一言にファラは愕然としてしまう。彼女は幼少の頃から自分の願いが聞き届けられた
ことなど1つもなかった。努力はきっと報われる……そう信じて頑張って来たが、今回の件で心が折れそうになっていた。
だが、ファラの努力を知っていた幼馴染の公爵令息に助けられることになる。妹のシェリーは侯爵との婚約が思っていたのと違うということで、返したいと言って来るが……はあ? もう遅いわよ。
父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。
その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。
そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。
そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。
【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね
との
恋愛
離婚したいのですか? 喜んでお受けします。
でも、本当に大丈夫なんでしょうか?
伯爵様・・自滅の道を行ってません?
まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。
収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。
(父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる)
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
32話、完結迄予約投稿済みです。
R15は念の為・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる