まさか私が王族の一員であることを知らずに、侮辱していた訳ではありませんよね?

木山楽斗

文字の大きさ
12 / 40

12.不気味な王子

しおりを挟む
「イルガン殿下、いらっしゃっていたのですか」
「取り繕わなくても結構ですよ。ここには事情を知る者しかいないのですからね」
「なるほど、それならいつも通りいかせてもらおうかな」

 イルガン殿下は、ゆっくりとこちらに歩いてきた。
 彼は、私の隣に並ぶ。それは別になんてことのないことなのだが、何故か私は不気味さを感じていた。

「そんなに怯える必要はないでしょう?」
「あ……え?」
「別に取って食おうとしている訳ではないのですから」

 縮こまっていた私は、イルガン殿下の動きに反応できなかった。
 気が付いた時には、彼の顔を見上げる形となっていた。イルガン殿下は私の顎を引き、強引に上を向かせたのだ。

「……なるほど、確かにあなたから王家の血筋を感じますね。忌々しいことではありますが、どうやら間違いないようだ」
「い、忌々しい……」
「彼に色々と吹き込まれていたようですが、あなたの存在は王位に影響を及ぼすものです。私にとっては目障りで仕方ない。余計な混乱をもたらすのですから」

 イルガン殿下の言葉に、私はゆっくりと息を呑む。
 自分が歓迎されるような存在ではない。アゼルトお兄様やクロードお兄様が優しかったから忘れかけていたが、それを思い出したのだ。

 事実を改めて突きつけられることは、辛いことであった。
 ただそれは、向き合っていくしかないことなのだろう。自身の出自は、今更変えられるものでもないのだから。

「ふむ……」

 少し気落ちした後、なんとか持ち直した私は、いつまで経ってもイルガン殿下がその手を離してくれないことに気付いた。
 改めて正面にある顔を見ていると、目を細めて私を舐め回すように見ていることに気が付いた。それはなんとも、不可思議で不気味な動きである。

「美しい……」
「……え?」

 しばらくの沈黙の後、やっと言葉を発したイルガン殿下は、頬を赤らめながら笑みを浮かべた。
 その笑みは、先程までにも増して不気味なものである。思わず背筋に寒気が走った。

 ただ直後に、彼が発したのが称賛の言葉であるという事実に気付いた。それでよくわからなくなって、私はクロードお兄様の方に助け舟として視線を送る。すると苦笑いが返ってきた。

「流石は私の妹……なんとも美しい。この美しさは、罪だっ!」

 イルガン殿下は、私の顎から手を離して頭を抱えて慟哭した。
 その突然の動作に、私は唖然とする。彼の雰囲気が、先程までとは違ったからだ。
 しかしクロードお兄様はずっと苦笑いを浮かべているし、多分これは珍しいことではないのだろう。私はイルガン殿下のことが、一気にわからなくなっていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました

青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。 それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。

リストラされた聖女 ~婚約破棄されたので結界維持を解除します

青の雀
恋愛
キャロラインは、王宮でのパーティで婚約者のジークフリク王太子殿下から婚約破棄されてしまい、王宮から追放されてしまう。 キャロラインは、国境を1歩でも出れば、自身が張っていた結界が消えてしまうのだ。 結界が消えた王国はいかに?

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました

つばめ
恋愛
幼い頃に妹により火傷をおわされた私はとても醜い。だから両親は妹ばかりをかわいがってきた。伯爵家の長女だけれど、こんな私に婿は来てくれないと思い、領地運営を手伝っている。 けれど婚約者を見つけるデェビュタントに参加できるのは今年が最後。どうしようか迷っていると、公爵家の次男の男性と出会い、火傷痕なんて気にしないで参加しようと誘われる。思い切って参加すると、その男性はなんと妹をエスコートしてきて……どうやら妹の恋人だったらしく、周りからお前ごときが略奪できると思ったのかと責められる。 会場から逃げ出し失意のどん底の私は、当てもなく王都をさ迷った。ぼろぼろになり路地裏にうずくまっていると、小さい頃に虐げられていたのをかばってくれた、商家の男性が現れて……

【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る

甘海そら
恋愛
第一王女、メアリ・ブラントは悪女だった。 家族から、あらゆる悪事の責任を押し付けられればそうなった。 国王の政務の怠慢。 母と妹の浪費。 兄の女癖の悪さによる乱行。 王家の汚点の全てを押し付けられてきた。 そんな彼女はついに望むのだった。 「どうか死なせて」 応える者は確かにあった。 「メアリ・ブラント。貴様の罪、もはや死をもって以外あがなうことは出来んぞ」 幼年からの想い人であるキシオン・シュラネス。 公爵にして法務卿である彼に死を請われればメアリは笑みを浮かべる。 そして、3日後。 彼女は処刑された。

殿下は婚約破棄した私を“横領犯”として追放しましたが、私が“王国の財布”だとご存じなかったのですか?

なかすあき
恋愛
王太子の婚約者であるレティシアは、愛ではなく“王国の財布”に選ばれた内政官だった。 干ばつ救済基金を管理し、徴税と支出の流れを整え、国が崩れないように回してきたはずなのに。 舞踏会の夜。 聖女セシルの涙と王太子の言葉が、レティシアを一瞬で“横領犯”に仕立て上げる。 反論しても届かない。空気が判決を下す場所で、レティシアは追放された。 落とされた先は、干ばつに喘ぐ辺境。 水のない井戸、荒れた配給所、怒りの列。 レティシアは泣く代わりに、配給と水路と記録を整えた。奇跡ではなく、段取りで。 やがて王都は、レティシアがいなくなった穴から静かに壊れ始める。 支払いは止まり、責任は溶け、聖女の“物語”だけが空回りする。 呼び戻しの使者が来ても、レティシアは従わない。戻る条件はひとつ。 ――公開監査。 記録水晶が映し出すのは、涙では隠せない日付と署名、そして“誰が何を決めたか”という事実。 この逃げ場のない復讐劇の先に残るのは、王都の再起ではなく、辺境の明日だった。 これは、道具として捨てられた内政官が、二度と道具に戻らず、“責任を固定する”ことで国を救い、自分の居場所を選び直す物語。

「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。 広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。 「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」 震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。 「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」 「無……属性?」

私が生きていたことは秘密にしてください

月山 歩
恋愛
メイベルは婚約者と妹によって、崖に突き落とされ、公爵家の領地に倒れていた。 見つけてくれた彼は一見優しそうだが、行方不明のまま隠れて生きて行こうとする私に驚くような提案をする。 「少年の世話係になってくれ。けれど人に話したら消す。」

処理中です...