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私は、荷造りを始めていた。
一応、この屋敷にも私の私物といえるものはある。それを持ち出すくらいは、許してもらえたのだ。
それは、お父様が進言してくれたからなのかもしれない。だが、その辺りは私にとってはどうでもいいことである。もう私は、彼らと関わることもないのだから。
「……あら、まだいたんですね?」
「……ふん、薄汚い格好だ」
そんなことを考えながら作業をしている私の元に、よく知っている者達が現れた。
彼らは、私のお姉様とお兄様である。もっとも、彼女らは私のことを妹と思っていないだろうし、私も彼らのことを姉や兄とは思っていない訳ではあるが。
「何かご用でしょうか?」
「用なんてありませんわ。少なくとも、あなたがここから出て行くまでは」
「ここにあるものは、全てがアルフェンド伯爵家の資産だ。お前が出て行った後、僕達はそれを選定しなければならない」
「……ああ」
二人の言葉に、私は理解した。
現在、アルフェンド伯爵家は財政的に苦しいらしい。そのために、売れるものは売るつもりなのだろう。
貴族としての誇りがあったのか、この部屋にもそれなりの家具などが置かれている。そういったものは、確かに大切な資産であるだろう。
「そんなに厳しいのですね、アルフェンド伯爵家は……」
「あなたに、そんなことを言われる筋合いはありませんわね」
「その通りだ。お前のような余分な存在に、アルファンド伯爵家について語られたくはない。お前はさっさと出て行けばいいのだ」
私が思わず口にしてしまった言葉に、お姉様もお兄様も表情を変えた。敵意に満ちたその顔を見ても、今はそれ程怯むことはない。
この二人の悪態を聞くのも、今日で終わりだ。そう思うと、心もいくらか軽くなる。
「言われなくても、すぐに出て行くつもりです。荷造りが終わったら」
「荷造りする程、あなたにものが与えられていたという事実に、私は驚いていますわ。あなたなんかにお金をかけていたなんて、馬鹿らしいことこの上ありませんわね」
「本当だ。母上は、本当に寛大な方だな。お前も感謝するべきだ」
「ええ、ありがとうございましたと伝えておいてください」
「なっ……!」
心が軽くなったからか、私の口はいつもよりも回っていた。
考えてみれば、お父様と先程話をするまで、私は誰とも会話を交わしていなかった。そのため今までの分、言葉が出てきているのだろうか。
例え、相手が誰であっても会話というものは大切なものであるらしい。嫌味な反応が返ってくるにしても、言葉を交わすことを体が望むくらいなのだから、そうなのだろう。
「生意気な奴だ。忌々しい、お前の存在が……!」
「その顔をもう見なくて済むと思うと、清々しますわね」
「早く出て行け! この愚物が!」
お兄様もお姉様も、私に対して怒っているようだった。
確かに煽るような言葉を言った自覚はある。だが、この程度でそんな風に反応するのは、少々気が短すぎるのではないだろうか。
余裕のない性格というのは、お母様に非常に似ている。この二人とも、貴族として大成できないのではないだろうか。私は、ぼんやりとそんなことを思うのだった。
「……お二人とも、こちらにいらっしゃったのですね」
「む?」
「あら、どうかしましたか?」
私の荷造りが丁度終わりかけていた時、部屋に一人の女性がやって来た。
その女性のことを私はまったく知らない。ただ、メイド服を着ていることから使用人ではあるのだろう。
なんだか彼女は、焦ったような顔をしている。何か問題でも発生したのだろうか。
「……エノフィア様」
「え?」
そのメイドさんは、私に声をかけてきた。
使用人が私に話しかけてくるなんて、滅多にないことである。だが、この状況ならそれもあり得るのかもしれない。出て行く身である私に何か用があるなら声をかけることもあるだろう。
「お客様がいらっしゃっています」
「お客様?」
しかし、私はメイドさんの言葉に驚くことになった。
私にお客様が来ている。それは私が出て行くことに関係なく、非常事態であったからだ。
一応、この屋敷にも私の私物といえるものはある。それを持ち出すくらいは、許してもらえたのだ。
それは、お父様が進言してくれたからなのかもしれない。だが、その辺りは私にとってはどうでもいいことである。もう私は、彼らと関わることもないのだから。
「……あら、まだいたんですね?」
「……ふん、薄汚い格好だ」
そんなことを考えながら作業をしている私の元に、よく知っている者達が現れた。
彼らは、私のお姉様とお兄様である。もっとも、彼女らは私のことを妹と思っていないだろうし、私も彼らのことを姉や兄とは思っていない訳ではあるが。
「何かご用でしょうか?」
「用なんてありませんわ。少なくとも、あなたがここから出て行くまでは」
「ここにあるものは、全てがアルフェンド伯爵家の資産だ。お前が出て行った後、僕達はそれを選定しなければならない」
「……ああ」
二人の言葉に、私は理解した。
現在、アルフェンド伯爵家は財政的に苦しいらしい。そのために、売れるものは売るつもりなのだろう。
貴族としての誇りがあったのか、この部屋にもそれなりの家具などが置かれている。そういったものは、確かに大切な資産であるだろう。
「そんなに厳しいのですね、アルフェンド伯爵家は……」
「あなたに、そんなことを言われる筋合いはありませんわね」
「その通りだ。お前のような余分な存在に、アルファンド伯爵家について語られたくはない。お前はさっさと出て行けばいいのだ」
私が思わず口にしてしまった言葉に、お姉様もお兄様も表情を変えた。敵意に満ちたその顔を見ても、今はそれ程怯むことはない。
この二人の悪態を聞くのも、今日で終わりだ。そう思うと、心もいくらか軽くなる。
「言われなくても、すぐに出て行くつもりです。荷造りが終わったら」
「荷造りする程、あなたにものが与えられていたという事実に、私は驚いていますわ。あなたなんかにお金をかけていたなんて、馬鹿らしいことこの上ありませんわね」
「本当だ。母上は、本当に寛大な方だな。お前も感謝するべきだ」
「ええ、ありがとうございましたと伝えておいてください」
「なっ……!」
心が軽くなったからか、私の口はいつもよりも回っていた。
考えてみれば、お父様と先程話をするまで、私は誰とも会話を交わしていなかった。そのため今までの分、言葉が出てきているのだろうか。
例え、相手が誰であっても会話というものは大切なものであるらしい。嫌味な反応が返ってくるにしても、言葉を交わすことを体が望むくらいなのだから、そうなのだろう。
「生意気な奴だ。忌々しい、お前の存在が……!」
「その顔をもう見なくて済むと思うと、清々しますわね」
「早く出て行け! この愚物が!」
お兄様もお姉様も、私に対して怒っているようだった。
確かに煽るような言葉を言った自覚はある。だが、この程度でそんな風に反応するのは、少々気が短すぎるのではないだろうか。
余裕のない性格というのは、お母様に非常に似ている。この二人とも、貴族として大成できないのではないだろうか。私は、ぼんやりとそんなことを思うのだった。
「……お二人とも、こちらにいらっしゃったのですね」
「む?」
「あら、どうかしましたか?」
私の荷造りが丁度終わりかけていた時、部屋に一人の女性がやって来た。
その女性のことを私はまったく知らない。ただ、メイド服を着ていることから使用人ではあるのだろう。
なんだか彼女は、焦ったような顔をしている。何か問題でも発生したのだろうか。
「……エノフィア様」
「え?」
そのメイドさんは、私に声をかけてきた。
使用人が私に話しかけてくるなんて、滅多にないことである。だが、この状況ならそれもあり得るのかもしれない。出て行く身である私に何か用があるなら声をかけることもあるだろう。
「お客様がいらっしゃっています」
「お客様?」
しかし、私はメイドさんの言葉に驚くことになった。
私にお客様が来ている。それは私が出て行くことに関係なく、非常事態であったからだ。
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