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16.補佐の助け
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「ふふっ……」
母は、私に対して笑顔を向けてきた。
その笑みには、どのような意図が含まれているのだろうか。
少なくとも、私への愛などというものはない。彼女にそんなものがないことは、この私が一番よくわかっている。
「……」
そこで私は、考えることになった。
母のことを糾弾することは簡単だ。ただそれをした場合、聖女の評価が下がってしまう可能性がある。
私自身に非がなくても、母親が男と出て行ったという事実は心証が悪い。それを私が糾弾するという状況も、あまり良くはなさそうだ。聖女は皆に優しいというイメージが崩れてしまう。
それをわかっているからこそ、母はこの場に現れたのかもしれない。
この忌々しい母親を排除することができないというのは、私にとってとても歯がゆいことだ。
「……あなた、どういうつもりだ?」
「え?」
そんなことを思っていると、私の横から母に声がかけられた。
声をかけたのは、キルスタインさんだ。彼は、鋭い視線を母に向けている。
「あなたは、誰ですか?」
「聖女アルティナの補佐をしているものだ。それ以前からも付き合いがある」
「そ、その方が一体何を……」
「何を? それはあなたが一番わかっているはずだ。聖女アルティナを捨てて男と出て行ったあなたが、今更母親面をするとはどういう了見だ」
キルスタインさんは、母に対して容赦ない言葉をかけた。
その言葉によって、周囲の騒ぎは大きくなる。聖女の出自について、皆驚いているということだろう。
「な、何を言っているのか……」
「聖女は心優しい方だ。あなたに思う所があっても、何も言わないだろう。きっとあなたに手を差し伸べてしまう。しかし、聖女を傍で支えている私からすれば、あなたの行いは許せないものだ」
私は、キルスタインさんの意図が理解できてきていた。
彼は恐らく、泥を被ってくれているのだ。聖女が主体として母を否定するのではなく、補佐が進言することによって、聖女のイメージを守ろうとしてくれている。
それは、私の事情をよく知っているキルスタインさんでしかできなかったことだ。彼が補佐であったということが、私にとってはとてもありがたい。
「キルスタインさん、私は……」
「あなたは黙っていてくれ。いくらあなたが優しかろうとも、このような母親を許していいはずがない」
「なっ……!」
意図を理解した私が話しかけると、キルスタインさんは良い言葉を返してくれた。
それに対して、母は目を丸めている。このようなことになるとは、思ってもいなかったのだろう。
周囲の人々の鋭い視線が、母に向いている。状況的に、誰が悪くなるか、それは母も理解しているだろう。
「こ、こんなこと……くそっ!」
母は、悪態をつきながらその場から逃げ出した。
その背中をなるべく寂しそうに見ることを意識しながら、私は心の奥底で笑うのだった。
母は、私に対して笑顔を向けてきた。
その笑みには、どのような意図が含まれているのだろうか。
少なくとも、私への愛などというものはない。彼女にそんなものがないことは、この私が一番よくわかっている。
「……」
そこで私は、考えることになった。
母のことを糾弾することは簡単だ。ただそれをした場合、聖女の評価が下がってしまう可能性がある。
私自身に非がなくても、母親が男と出て行ったという事実は心証が悪い。それを私が糾弾するという状況も、あまり良くはなさそうだ。聖女は皆に優しいというイメージが崩れてしまう。
それをわかっているからこそ、母はこの場に現れたのかもしれない。
この忌々しい母親を排除することができないというのは、私にとってとても歯がゆいことだ。
「……あなた、どういうつもりだ?」
「え?」
そんなことを思っていると、私の横から母に声がかけられた。
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「あなたは、誰ですか?」
「聖女アルティナの補佐をしているものだ。それ以前からも付き合いがある」
「そ、その方が一体何を……」
「何を? それはあなたが一番わかっているはずだ。聖女アルティナを捨てて男と出て行ったあなたが、今更母親面をするとはどういう了見だ」
キルスタインさんは、母に対して容赦ない言葉をかけた。
その言葉によって、周囲の騒ぎは大きくなる。聖女の出自について、皆驚いているということだろう。
「な、何を言っているのか……」
「聖女は心優しい方だ。あなたに思う所があっても、何も言わないだろう。きっとあなたに手を差し伸べてしまう。しかし、聖女を傍で支えている私からすれば、あなたの行いは許せないものだ」
私は、キルスタインさんの意図が理解できてきていた。
彼は恐らく、泥を被ってくれているのだ。聖女が主体として母を否定するのではなく、補佐が進言することによって、聖女のイメージを守ろうとしてくれている。
それは、私の事情をよく知っているキルスタインさんでしかできなかったことだ。彼が補佐であったということが、私にとってはとてもありがたい。
「キルスタインさん、私は……」
「あなたは黙っていてくれ。いくらあなたが優しかろうとも、このような母親を許していいはずがない」
「なっ……!」
意図を理解した私が話しかけると、キルスタインさんは良い言葉を返してくれた。
それに対して、母は目を丸めている。このようなことになるとは、思ってもいなかったのだろう。
周囲の人々の鋭い視線が、母に向いている。状況的に、誰が悪くなるか、それは母も理解しているだろう。
「こ、こんなこと……くそっ!」
母は、悪態をつきながらその場から逃げ出した。
その背中をなるべく寂しそうに見ることを意識しながら、私は心の奥底で笑うのだった。
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