寵愛していた侍女と駆け落ちした王太子殿下が今更戻ってきた所で、受け入れられるとお思いですか?

木山楽斗

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1.王太子の婚約者

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 ラスタード王国の王太子ラウヴァン殿下に嫁ぐことは、私が生まれた頃から決まっていたことだった。
 ヤウダン公爵家の娘が生まれるとわかった時から、その婚約が結ばれていたそうだ。

 それは当家の成り立ちに関係していることである。ヤウダン公爵家はラスタード王国に隣接する国を治めていた君主の血筋だ。つい最近王国と合流して、公爵という地位を得た家なのである。

 つまり私が王太子の元に嫁ぐのは、ヤウダン公爵家が正式にラスタード王国に加わったことを示すためのものであった。ラスタード王もお父様も、この婚約は重要なものだと考えているようだ。

「……でも不思議なものね。私自身はラウヴァン殿下とは数えられる程しか話をしたことがないなんて」
「それは仕方ないことです。ラスタード王国において、その婚約はまだ受け入れられていないそうですから。外様からやってきたヤウダン公爵家の令嬢が、自国の王妃になるという事実に貴族達は反発しているようです。その中でお二人が会うともなると……」
「色々と危険ということかしら……」

 婚約者であるラウヴァン殿下と顔を合わせるのは、年に数回程であった。
 その中で彼と深く話せるのは、二回程であるだろうか。行事の際などは、表面的な挨拶くらいしかしていない。それは話したといえるかは、微妙な所である。

 侍女であるシェリリアの言う通り、それは私達の接触に危険があるからなのだろう。ラスタード王国の貴族、あるいはヤウダン公爵家側に属する者達、そのどちらかからの反発が起こる可能性があるのだ。

「ヤウダン公爵家が王国と一つになったのは、今からもう十年以上も前の話でしょう? 私が生まれる前の話であるはずだし……それなのにまだ受け入れられていないなんて」
「王国もヤウダン公爵家も、その期間以上の歴史がありますから、その分の反発があるということでしょう」
「そういうものなのかしらね……」

 歴史として知っているものの、私にとってヤウダン公爵家は生まれた時からラスタード王国の一部であった。
 それから十年程度経っているというのに、関係性が大きく進んでいない。それはなんとも、遅すぎるように思える。

「……私達の一族も、ヤウダン公爵家と争っていました。今はセルダン子爵として仕えさせてもらっていますが、かつては色々とあったとか」
「それと今回のことが、同じということかしら……悲しいものね」
「はい……」

 シェリリアは私の言葉に、ゆっくりと頷いた。
 彼女とその妹であるソネリアとは、幼い頃から仲良くしている。主人と従者ではあるが、姉妹とさえ言えるほどの時間を過ごしてきた二人とは、遺恨などはないはずだ。
 いつかラスタード王国の貴族達とも、そうなれるのだろうか。いやそうなるためにも、私が努力しなければならないということか。
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