9 / 24
9.二人の評判
しおりを挟む
「……正直な所、最近のラウヴァン殿下はおかしかったと思います。前々から怠惰な所はありましたが、ソネリアという侍女を得てからというもの、それに拍車がかかりました」
「彼女には相当熱を出していました。侍女として起用して寵愛していました。ソネリアの方もそれで調子に乗っていて、はっきりと言って不快でした」
王城のメイド達は、ラウヴァン殿下とソネリアについて率直な意見を述べていた。
それに私は、少し気まずくなる。ソネリアは私の身内――傍に控えているシェリリアにとっては実の妹であるからだ。生粋の侍女である彼女は、表情を変えていないが、内心は動揺していることだろう。
ただ正直な所、ソネリアの振る舞いに関してヤウダン公爵家としては断固とした態度を取らざるを得ない。彼女の行動は、ヤウダン公爵家と連なる全ての貴族を貶める行為だからだ。
ラスタード王国との融和、それがまた遠のいていくような気がする。私としては、なんとも気が重い。
「でも、まさか二人でいなくなるなんて思ってもいませんでした。ただ確かに、ラウヴァン殿下は妙に張り切っていたような気もします。それは今思い返してみれば、というくらいの話ですが」
「行き先については、心当たりがあります。既に陛下にはお伝えしましたが、ナシャール王国である可能性が高いでしょう。最近ラウヴァン殿下にそちらの国の資料を渡すように言われました。それ以前には、各国の情報を仕入れるようにも……」
ラウヴァン殿下は、前々から準備を進めていたようだ。王太子である彼が他国に気を配るというのは別に何もおかしいことではないのだが、それが実は失踪先の選定だったらしい。
他国に逃げられるというのは、はっきりと言って厄介極まりない動きだ。自国ならどうとでもなるが、他国となると話は別である。満足な捜索などできないだろう。
「リオレス殿下、これは……」
「父上も当然検問を行い、他国に渡る船を差し止めていることでしょう。二人が既に国から出ていないなら捕まえられるはずです。しかし兄上もそれがわからない訳もない。行動は迅速にしていると考えるべきです」
「それでは……」
私の質問に対して、リオレス殿下は重々しい口調で答えた。
当然のことながら、状況は良くない。二人を捕まえられる可能性は、かなり低いような気がしてしまう。
「……先手を打つ必要があるのかもしれません」
「先手、ですか?」
「強引にでも、被害を多少は抑えられるように立ち回る必要があります。ユーリア嬢、あなたにも協力していただきたい」
「も、もちろん、私にできることなら……」
リオレス殿下の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
どうやら彼は、既に先を見据えているようだ。そういうことなら、私も事態を受け入れて前に進まなければならない。
問題は山程あるが、起こってしまったことは受け止めるしかないということだろう。国を守るために、私達は行動を開始するのだった。
「彼女には相当熱を出していました。侍女として起用して寵愛していました。ソネリアの方もそれで調子に乗っていて、はっきりと言って不快でした」
王城のメイド達は、ラウヴァン殿下とソネリアについて率直な意見を述べていた。
それに私は、少し気まずくなる。ソネリアは私の身内――傍に控えているシェリリアにとっては実の妹であるからだ。生粋の侍女である彼女は、表情を変えていないが、内心は動揺していることだろう。
ただ正直な所、ソネリアの振る舞いに関してヤウダン公爵家としては断固とした態度を取らざるを得ない。彼女の行動は、ヤウダン公爵家と連なる全ての貴族を貶める行為だからだ。
ラスタード王国との融和、それがまた遠のいていくような気がする。私としては、なんとも気が重い。
「でも、まさか二人でいなくなるなんて思ってもいませんでした。ただ確かに、ラウヴァン殿下は妙に張り切っていたような気もします。それは今思い返してみれば、というくらいの話ですが」
「行き先については、心当たりがあります。既に陛下にはお伝えしましたが、ナシャール王国である可能性が高いでしょう。最近ラウヴァン殿下にそちらの国の資料を渡すように言われました。それ以前には、各国の情報を仕入れるようにも……」
ラウヴァン殿下は、前々から準備を進めていたようだ。王太子である彼が他国に気を配るというのは別に何もおかしいことではないのだが、それが実は失踪先の選定だったらしい。
他国に逃げられるというのは、はっきりと言って厄介極まりない動きだ。自国ならどうとでもなるが、他国となると話は別である。満足な捜索などできないだろう。
「リオレス殿下、これは……」
「父上も当然検問を行い、他国に渡る船を差し止めていることでしょう。二人が既に国から出ていないなら捕まえられるはずです。しかし兄上もそれがわからない訳もない。行動は迅速にしていると考えるべきです」
「それでは……」
私の質問に対して、リオレス殿下は重々しい口調で答えた。
当然のことながら、状況は良くない。二人を捕まえられる可能性は、かなり低いような気がしてしまう。
「……先手を打つ必要があるのかもしれません」
「先手、ですか?」
「強引にでも、被害を多少は抑えられるように立ち回る必要があります。ユーリア嬢、あなたにも協力していただきたい」
「も、もちろん、私にできることなら……」
リオレス殿下の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
どうやら彼は、既に先を見据えているようだ。そういうことなら、私も事態を受け入れて前に進まなければならない。
問題は山程あるが、起こってしまったことは受け止めるしかないということだろう。国を守るために、私達は行動を開始するのだった。
227
あなたにおすすめの小説
『仕方がない』が口癖の婚約者
本見りん
恋愛
───『だって仕方がないだろう。僕は真実の愛を知ってしまったのだから』
突然両親を亡くしたユリアナを、そう言って8年間婚約者だったルードヴィヒは無慈悲に切り捨てた。
捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?
ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」
ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。
それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。
傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……
二人ともに愛している? ふざけているのですか?
ふまさ
恋愛
「きみに、是非とも紹介したい人がいるんだ」
婚約者のデレクにそう言われ、エセルが連れてこられたのは、王都にある街外れ。
馬車の中。エセルの向かい側に座るデレクと、身なりからして平民であろう女性が、そのデレクの横に座る。
「はじめまして。あたしは、ルイザと申します」
「彼女は、小さいころに父親を亡くしていてね。母親も、つい最近亡くなられたそうなんだ。むろん、暮らしに余裕なんかなくて、カフェだけでなく、夜は酒屋でも働いていて」
「それは……大変ですね」
気の毒だとは思う。だが、エセルはまるで話に入り込めずにいた。デレクはこの女性を自分に紹介して、どうしたいのだろう。そこが解決しなければ、いつまで経っても気持ちが追い付けない。
エセルは意を決し、話を断ち切るように口火を切った。
「あの、デレク。わたしに紹介したい人とは、この方なのですよね?」
「そうだよ」
「どうしてわたしに会わせようと思ったのですか?」
うん。
デレクは、姿勢をぴんと正した。
「ぼくときみは、半年後には王立学園を卒業する。それと同時に、結婚することになっているよね?」
「はい」
「結婚すれば、ぼくときみは一緒に暮らすことになる。そこに、彼女を迎えいれたいと思っているんだ」
エセルは「……え?」と、目をまん丸にした。
「迎えいれる、とは……使用人として雇うということですか?」
違うよ。
デレクは笑った。
「いわゆる、愛人として迎えいれたいと思っているんだ」
その支払い、どこから出ていると思ってまして?
ばぅ
恋愛
「真実の愛を見つけた!婚約破棄だ!」と騒ぐ王太子。
でもその真実の愛の相手に贈ったドレスも宝石も、出所は全部うちの金なんですけど!?
国の財政の半分を支える公爵家の娘であるセレスティアに見限られた途端、
王家に課せられた融資は 即時全額返済へと切り替わる。
「愛で国は救えませんわ。
救えるのは――責任と実務能力です。」
金の力で国を支える公爵令嬢の、
爽快ザマァ逆転ストーリー!
⚫︎カクヨム、なろうにも投稿中
【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。
婚約破棄と言われても、どうせ好き合っていないからどうでもいいですね
うさこ
恋愛
男爵令嬢の私には婚約者がいた。
伯爵子息の彼は帝都一の美麗と言われていた。そんな彼と私は平穏な学園生活を送るために、「契約婚約」を結んだ。
お互い好きにならない。三年間の契約。
それなのに、彼は私の前からいなくなった。婚約破棄を言い渡されて……。
でも私たちは好きあっていない。だから、別にどうでもいいはずなのに……。
邪魔者はどちらでしょう?
風見ゆうみ
恋愛
レモンズ侯爵家の長女である私は、幼い頃に母が私を捨てて駆け落ちしたということで、父や継母、連れ子の弟と腹違いの妹に使用人扱いされていた。
私の境遇に同情してくれる使用人が多く、メゲずに私なりに楽しい日々を過ごしていた。
ある日、そんな私に婚約者ができる。
相手は遊び人で有名な侯爵家の次男だった。
初顔合わせの日、婚約者になったボルバー・ズラン侯爵令息は、彼の恋人だという隣国の公爵夫人を連れてきた。
そこで、私は第二王子のセナ殿下と出会う。
その日から、私の生活は一変して――
※過去作の改稿版になります。
※ラブコメパートとシリアスパートが混在します。
※独特の異世界の世界観で、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる