寵愛していた侍女と駆け落ちした王太子殿下が今更戻ってきた所で、受け入れられるとお思いですか?

木山楽斗

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9.二人の評判

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「……正直な所、最近のラウヴァン殿下はおかしかったと思います。前々から怠惰な所はありましたが、ソネリアという侍女を得てからというもの、それに拍車がかかりました」
「彼女には相当熱を出していました。侍女として起用して寵愛していました。ソネリアの方もそれで調子に乗っていて、はっきりと言って不快でした」

 王城のメイド達は、ラウヴァン殿下とソネリアについて率直な意見を述べていた。
 それに私は、少し気まずくなる。ソネリアは私の身内――傍に控えているシェリリアにとっては実の妹であるからだ。生粋の侍女である彼女は、表情を変えていないが、内心は動揺していることだろう。

 ただ正直な所、ソネリアの振る舞いに関してヤウダン公爵家としては断固とした態度を取らざるを得ない。彼女の行動は、ヤウダン公爵家と連なる全ての貴族を貶める行為だからだ。
 ラスタード王国との融和、それがまた遠のいていくような気がする。私としては、なんとも気が重い。

「でも、まさか二人でいなくなるなんて思ってもいませんでした。ただ確かに、ラウヴァン殿下は妙に張り切っていたような気もします。それは今思い返してみれば、というくらいの話ですが」
「行き先については、心当たりがあります。既に陛下にはお伝えしましたが、ナシャール王国である可能性が高いでしょう。最近ラウヴァン殿下にそちらの国の資料を渡すように言われました。それ以前には、各国の情報を仕入れるようにも……」

 ラウヴァン殿下は、前々から準備を進めていたようだ。王太子である彼が他国に気を配るというのは別に何もおかしいことではないのだが、それが実は失踪先の選定だったらしい。
 他国に逃げられるというのは、はっきりと言って厄介極まりない動きだ。自国ならどうとでもなるが、他国となると話は別である。満足な捜索などできないだろう。

「リオレス殿下、これは……」
「父上も当然検問を行い、他国に渡る船を差し止めていることでしょう。二人が既に国から出ていないなら捕まえられるはずです。しかし兄上もそれがわからない訳もない。行動は迅速にしていると考えるべきです」
「それでは……」

 私の質問に対して、リオレス殿下は重々しい口調で答えた。
 当然のことながら、状況は良くない。二人を捕まえられる可能性は、かなり低いような気がしてしまう。

「……先手を打つ必要があるのかもしれません」
「先手、ですか?」
「強引にでも、被害を多少は抑えられるように立ち回る必要があります。ユーリア嬢、あなたにも協力していただきたい」
「も、もちろん、私にできることなら……」

 リオレス殿下の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 どうやら彼は、既に先を見据えているようだ。そういうことなら、私も事態を受け入れて前に進まなければならない。
 問題は山程あるが、起こってしまったことは受け止めるしかないということだろう。国を守るために、私達は行動を開始するのだった。
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