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19.変わった風向き
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私とリオレス殿下に続いて、シェリリアとキルクス伯爵令息が婚約するということは、ラスタード王国にとって大きなことだったといえるだろう。
ラウヴァン殿下とともに失踪したソネリアを有していた家が、ラスタード王国側の貴族令息を――それも一度は婚約を破談にしたはずの令息を迎え入れるということには、色々な意見が出ている。
カウタス伯爵家は、ラスタード王国内では王家の腹心として有名だ。つまり現在王家とヤウダン公爵家は、本家も腹心も婚約を結んでいる。
この四家の結束というものに、注目している者もいるようだ。紆余曲折あったものの結束が変わっていない。それに心が揺れている者もいるのかもしれない。
「まあ、王家もヤウダン公爵家も結局の所、上に立つ者ですからね……反発している者達も見極めているのでしょう。どちらについた方が有利であるかということを」
「でもそれなら、もっと前から貴族達は迷わなかったものなのでしょうか? 元より私はラウヴァン殿下と婚約していました」
「兄上の一件で、反発する者達は僕達の結束を瓦解させようとしていました。しかしそれが上手くいかないことで焦っているのでしょう。結束が思っていたよりも固かったと。このまま硬直状態が続けば、国が弱ることがわからない訳でしょうからね」
ラスタード王国の貴族達も、ヤウダン公爵家側に属する貴族達も、大局を見極めて行動している。その風向きが、今はこちらにとって都合が良いように動いているらしい。
それは幸いなことだといえた。とはいえ、安心できるものではない。またいつ風向きが変わるか、わからないからだ。
「ここでいくつかの貴族を、こちら側に取り込んでおくべきなのではありませんか?」
「そうですね。何人かに話を持ち掛けてみますか。こういう時に、風見鶏な貴族をこちらに向かせたいものですね」
「ヤウダン公爵家側にも、心当たりはあります。お父様に働きかけてもらいます」
貴族の中には、どっちつかずの者もいる。今の風向きであるならば、そういった者達をこちらの味方にできるだろう。
今の状況で勢力を大きくできれば、風向きを固定することも可能だ。王家とヤウダン公爵家の結束には乗った方がいい。多くの貴族がそう判断してくれと良いのだが。
「そういえば、ナシャール王国で噂が流れているようですよ」
「ナシャール王国で?」
「ええ、なんでも兄上らしき人を見たとか……真偽はわかりませんが、状況からして本物である可能性は高いように思います」
「まあ、そこに向かったはずですしね……」
「とはいえ、手出しはできませんね。ナシャール王国にこちらの国の兵はいかせられないでしょうし、そもそも兄上は既に王家から追放されています」
リオレス殿下は、ラウヴァン殿下のことに対してゆっくりと首を横に振った。
当然のことながら、できることなら彼の身柄は確保しておきたい所だ。それができない状況をもどかしく思っているのだろう。例えそれが、仕方ないことであっても。
ラウヴァン殿下とともに失踪したソネリアを有していた家が、ラスタード王国側の貴族令息を――それも一度は婚約を破談にしたはずの令息を迎え入れるということには、色々な意見が出ている。
カウタス伯爵家は、ラスタード王国内では王家の腹心として有名だ。つまり現在王家とヤウダン公爵家は、本家も腹心も婚約を結んでいる。
この四家の結束というものに、注目している者もいるようだ。紆余曲折あったものの結束が変わっていない。それに心が揺れている者もいるのかもしれない。
「まあ、王家もヤウダン公爵家も結局の所、上に立つ者ですからね……反発している者達も見極めているのでしょう。どちらについた方が有利であるかということを」
「でもそれなら、もっと前から貴族達は迷わなかったものなのでしょうか? 元より私はラウヴァン殿下と婚約していました」
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それは幸いなことだといえた。とはいえ、安心できるものではない。またいつ風向きが変わるか、わからないからだ。
「ここでいくつかの貴族を、こちら側に取り込んでおくべきなのではありませんか?」
「そうですね。何人かに話を持ち掛けてみますか。こういう時に、風見鶏な貴族をこちらに向かせたいものですね」
「ヤウダン公爵家側にも、心当たりはあります。お父様に働きかけてもらいます」
貴族の中には、どっちつかずの者もいる。今の風向きであるならば、そういった者達をこちらの味方にできるだろう。
今の状況で勢力を大きくできれば、風向きを固定することも可能だ。王家とヤウダン公爵家の結束には乗った方がいい。多くの貴族がそう判断してくれと良いのだが。
「そういえば、ナシャール王国で噂が流れているようですよ」
「ナシャール王国で?」
「ええ、なんでも兄上らしき人を見たとか……真偽はわかりませんが、状況からして本物である可能性は高いように思います」
「まあ、そこに向かったはずですしね……」
「とはいえ、手出しはできませんね。ナシャール王国にこちらの国の兵はいかせられないでしょうし、そもそも兄上は既に王家から追放されています」
リオレス殿下は、ラウヴァン殿下のことに対してゆっくりと首を横に振った。
当然のことながら、できることなら彼の身柄は確保しておきたい所だ。それができない状況をもどかしく思っているのだろう。例えそれが、仕方ないことであっても。
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