寵愛していた侍女と駆け落ちした王太子殿下が今更戻ってきた所で、受け入れられるとお思いですか?

木山楽斗

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22.帰ってきた侍女

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 私とリオレス殿下は、王城の門まで来ていた。
 そこには、一人の令嬢が立っている。それは間違いなくソネリアだ。私にとっては妹も同然であるので、見間違えようはない。
 ラウヴァン殿下と違って、彼女の身なりは綺麗だ。どうやら盗まれたというお金は無事に取り返したということらしい。

「ソネリア……」
「……ユーリア様、お久し振りですね」
「随分と簡素な挨拶ね。色々と好き放題やったというのに……」
「……申し訳ありませんでした!」

 ソネリアは、私に対して素早く頭を下げてきた。
 その様に私は、少し驚く。彼女が謝ってくるとは、思ってもいなかったからだ。
 反省の意思が、あるということなのだろうか。いや、あまり油断するのは良くない。私はソネリアの内心を長年わかっていなかったのだから。

「ユーリア様にご迷惑をおかけしたことは、わかっています。セルダン子爵家に対しても、私は不義理を働きました。それについては、許してもらえるとは思っていません。本来であれば、この王城に戻ろうとも思っていませんでした……」
「あら、それならどうして戻ってきたのかしら?」
「ラウヴァン殿下に……ラウヴァン殿下に一目会わせてください。ナシャール王国では、すれ違いの末に別れてそのままで……」

 ソネリアは目に涙を浮かべて、懇願してきた。
 それに私は、少し呆れてしまう。彼女は自分が、ラウヴァン殿下に何をされたのかわかっていないらしい。
 ソネリアのことを、彼は見捨てたのだ。そのようなことをされたのに、まだラウヴァン殿下のことを愛しているなんて、私には信じられない思考である。

「……ソネリア嬢、その辺りの話は後で聞かせてもらいます」
「リオレス殿下? それは一体どういうことですか?」
「あなたを拘束します」

 リオレス殿下は、なんとも冷たく言い切った。
 その言葉に、ソネリアは目を丸めている。自分も捕まるなんて、彼女も思っていなかったということだろうか。かなり困惑しているようだ。

「お忘れのようですが、あなたと兄上は王城を出て行く際にお金を持ち出しています。それは明確な窃盗行為です。駆け落ちの件はともかく、そちらに関しては明確に罪を問えます」
「なっ……!」

 リオレス殿下が手を上げると、ソネリアの周りを兵士が取り囲んだ。
 彼女はそれに、かなり焦っているようだ。その焦り方は、少々気になる。
 単に拘束されるからというだけではなく、それ以上の何かがあるように私には思えた。私の勘などそこまであてになるものではないが、それでも問いかけておきたい所だ。

「ソネリア……あなた、一体何を考えていたの? もしかして、ラウヴァン殿下と会うのは単に愛からの行動ではないのかしら?」
「それは……」
「誰か、彼女の身体を検査してください」
「はっ……! ソネリア嬢、失礼いたします」

 私の命令で、女性の兵士がソネリアの体を調べ始めた。
 するとソネリアは諦めたように項垂れた。私はその理由をすぐに理解する。女性の兵士が、ナイフを彼女の懐から取り出したからだ。

「ソネリア、それは……」
「ふふっ……ふふふっ! 私がまだ、ラウヴァン殿下のことを愛しているなんて思っていましたか? 相変わらずユーリア様は愚かですね!」

 開き直ったソネリアは、目を開いて私のことを罵倒してきた。
 どうやら彼女は、ラウヴァン殿下の命を狙っていたようだ。
 自分が見捨てられたことは、きちんと理解していたということだろう。ソネリアはその報復のために、王城に戻って来たということらしい。

「……どの道上手くいくことではなかったわ。罪人の元に行くとはいえ、そんな物を持って王城に入れると思っていたのかしら?」
「あなたに何がわかるというのですか? ラウヴァン殿下に見捨てられた私の気持ちが! 憎しみが! あの男だけはこの手で……!」
「全ては身から出た錆でしかないわ。ラウヴァン殿下がどういう人なのか、あなたはよくわかっていはずじゃない。彼と駆け落ちなんてしたことが、間違いだったわね」
「……っ!」

 私の言葉に対して、ソネリアは何も言わなかった。
 それは彼女も既に悟っているからだろう。ラウヴァン殿下などについていったことが、大きな失敗であったということを。
 結局彼女は、地位も愛も失った。それはなんとも哀れなものだ。自業自得とはいえ、私は思わずため息をつくのだった。
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