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弟四章『地下に煌めく悪意の星々』
四章-5
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王城の庭園は庭師によって丁寧に管理されているのか、芝や石畳に雑草やゴミを見かけなかった。
花壇などは見かけず、樹木が数本だけ生えている。その一角に灰捨て場がある。俺の背丈の半分の高さしかない裏口の近くに、石造りの囲いがある。天井はあるが、壁の一面が作られていない。
この囲いが灰の捨て場だ。
数日に一日、回収に来るって話だ。
俺とアリオナさん、エリーさんの三人で、灰で満たされた樽を台車で運ぶ。それを捨て場にぶちまけ、また樽に灰を入れて運ぶ。
その作業を三回ほど繰り返すが、ここではアリオナさんが大活躍だった。
一応は三人で運んだりしたけど……ほとんどアリオナさんの腕力が頼りだった。三回目の灰を捨て終わったとき、二人の衛兵が近寄ってきた。
「――若」
フレディとクレイシーが、俺たちに近寄って来た。
俺たちが灰まみれになっている姿を見て、クレイシーが眉を顰めた。
「そっちは――普通に城の仕事してるのかよ。楽しやがって」
「……この状況を見てそう思う根拠はなんです? 情報なら少しは手に入れましたよ。城の中を調べて回りたいですけど、人の目がある以上は難しくて」
「それはこっちもだ。衛兵だからって、決められた配置場所や時間があるからな。迂闊に移動はできねぇよ。それで、どんな情報を掴んだんだ?」
「チャーンチらしい二人を特定したよ。あと怪しいのは、エルサ姫の侍女……かな」
「流石ですね、若。それで、その怪しい二人というのは?」
「下女らしい中年の女性……名前は、アマンサと言ってました。あとは、女性の衛兵です。どうやらどこかで、星座の魔術を完成させようとしているようです」
エリーさんが炊事場での状況の説明も交えて答えると、フレディとクレイシーが顔を見合わせた。
先に顔を戻したフレディが、バツが悪そうに口を開いた。
「若、それらしい衛兵を見かけました。そのときは、一人だけでしたが……その、地下への階段から出てきたところでした」
「星座の魔術って、あれだろ。前に見たヤツと一緒なら……地下が怪しいんじゃないか?」
「わたしも同意見です。あれは、地下に施してこそ、最大の効果が発揮されますから」
俺もクレイシーの意見に、エリーさんも賛同した。マルドーから魔術の知識も得ているから、彼女の意見に間違いはないはずだ。
俺はフレディとクレイシーを、交互に見た。
「二人とも、そこまで案内できる?」
「もちろんです」
「でも暗そうだし、灯りがいるぜ。あいつ、ランプを持っていたからな」
「それなら、きっと大丈夫。地下に降りてしまえば、なんとかなると思う。すぐに行ってみよう」
俺は、ある種の確信を以て皆を促した。
王城内に戻ると、俺たち五人は一階の廊下を進んだ。石造りの廊下には、藁が敷き詰められてる。サクサクという音を立てながら進む俺たちは、周囲の警戒だけは怠らないよう気をつけた。
見知らぬ使用人ならともかく、最初にあった衛兵やアマンサに会うのは拙い。潜入している立場である以上、勘ぐられることは失敗を意味する。
幸いにも殆ど人に会わないまま、角を二つ曲がった先で、俺たちは地下への階段に入った。階段は暗かったが、廊下から差し込む光で輪郭だけは視認できる。
階段を降りると、左右に伸びる廊下に出た。
真っ暗でなにも見えない――はずだ。しかし俺の予想通り、左側から漏れる光で、朧気ながらに廊下の状況が視認できる。
地下に星座の魔方陣を作るなら、灯りは必要なはずって推理が、見事に当たってくれた。
「あれがそうなの?」
「多分ね。あと――」
囁くような声での会話だけど、俺はアリオナさんに沈黙を意味する所作――前世の口元に人差し指を添えるヤツだ――をした。
指だけで先に行こうと指示を出すと、俺は《力》で周囲の音を消しながら歩き出した。
光に近づくと、石を削るような音が聞こえてきた。
「まったく――局面があるから、やりにくいねぇ。まあ、星の巡りからして、最後の作業は明後日になるから……最後に、姫の星座を起動しておくかねぇ」
呟くように文句を口にする声は、アマンサで間違いがない。
床に置かれたランプの光に照らされて、梯子に登った人影が照らし出されていた。天井近くの壁に、アマンサがなにかを刻み込んでいる。
アマンサの周囲にある壁や天井に、ランプの光の照り返しを受けた、いくつかの光が見えた。遠目では視認しにくいが、恐らくは星座を形作った結晶かなにかだろう。
通路の左右には、倉庫らしい扉が並んでいる。俺は《力》で音を消しながら扉の一つを開けた。
手振りで皆に、扉の中に入るよう指示を出す。全員が扉の中に入ると、俺は扉を静かに閉めた。
「どうしたの?」
「ちょっと思いついたことがあってね。暗くて申し訳ないけど、みんなも少し辛抱して下さい」
「それは良いけどよ。どうするんだ?」
クレイシーの問いに、俺は笑みを殺しながら答えた。
「……やつらの仕掛けを、全部無効化してやるんです」
*
アマンサから作業の経過を聞いてから、女の衛兵――ダナはエルサ姫の自室を訪れた。 侍女が部屋を開けると、ダナは部屋に入った。
「エルサ姫は?」
「さっきからずっと、窓際で外を眺めているわ」
「そう。星座の魔方陣も起動してもらったから、エルサ姫に例の隊商討伐の強化をしてもらうわ」
「まだ討伐できていないの?」
「……そうみたい。なんでも隠れた町を脱出したみたいだけど。衛兵に追われていることは、察しているようなの。だから、ウータムに戻って来ることはないと思うんだけど」
「行方知れず?」
「そういうことよ。アマンサ殿から、新たな使用人について調べるよう言われているし、あっちはラオン国の兵士に任せたいわ」
「……それがいいでしょうね。それじゃあ、やりましょうか」
侍女に頷くと、ダナは窓辺にいるエリス姫に近寄った。
「エルサ姫――先日に討伐を出して頂いた隊商ですが、未だに討伐されておりません。あのファレメア国の侯爵令嬢を含め、生かしておいてはラオン国の危機に御座います。何卒、討伐の強化を王へ願い出て下さるよう――」
「あら?」
ダナが陳情の形式での命令を述べている途中で、エルサ姫は首を傾げた。
普段とは異なる反応にダナと侍女が戸惑っている中、エルサ姫の手が窓枠の縁に手を伸ばしながら、僅かに表情を引き締めた。
「先日に隊商の……あのエリーのいる隊商の討伐を出した記憶が、わたくしにはありません。先ほどの話が真実であるなら……あなたがたは、わたくしになにをしたのでず!」
詰問するような発言に、ダナは立ち上がろうとした。だが、その前にエルサ姫が大声を張り上げた。
「衛兵っ!」
衛兵を呼ぶ声に、ダナは長剣の柄に手を伸ばした。
エルサ姫を人質に――という考えだったが、ダナが手を伸ばすよりも早く、エルサ姫の手が胸元へと動いた。
両手で小振りのナイフを握るエルサ姫は、無表情に告げた。
「わたくしとて、一国の姫。囚われるくらいなら、死を選びましょう。そうなれば、あなたがたも衛兵たちに討伐されます。どのような理由があるにせよ、わたくしの世話をして頂いたことには、恩義もあります。すぐに逃げるのであれば、助かる可能性もありましょう」
エルサ姫が横目で一瞥した窓は、鍵が開いていた。ここは二階だから、壁と支柱を伝っていけば、一階に降りられる。
ダナと侍女は視線を交錯させると、素早く動いた。
「姫様、如何なされました!」
足音からして、三人の衛兵が部屋に近づいて来ている。ダナと侍女はエルサ姫に目礼だけをすると、素早く窓から外に躍り出た。
それを見送ったエルサ姫は、押っ取り刀で部屋に入ってくる衛兵に目を移した。
「姫様――如何なされましたか!?」
「賊――いえ、他国の密偵でしょうが、侍女と衛兵として潜り込んでおりました。すべての衛兵に、密偵の捜索をさせなさい」
「はっ!」
「ああ、それと」
エルサ姫はなにかを思い出したように、部屋から出て行こうとした衛兵たちを呼び止めた。
「討伐の命令を出していた隊商ですが、討伐の兵に撤回の命を出して下さい。あれも、密偵の工作によるものです」
「はっ!」
「あと城内を見回ります。二人はわたくしの護衛に。あとは伝令を伝えなさい」
敬礼をした衛兵たちが二手に分かれると、エルサ姫は二人の衛兵を連れて部屋を出た。
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本作を読んで頂き、誠にありがとう御座います!
わたなべ ゆたか です。
予定よりも早めに帰宅できましたので、早めにアップができました。
本格的に反撃開始――となった四章終盤。星座の魔方陣の効果がないのは、もちろんクラネスの仕業です。次回で詳細は書きますが、今さら隠したところで……ですので。
クラネスも初女装ですね。こう書いていますが、すべての作品で女装をさせたわけではありませんが。貴族のたしなみ……とした作品もありましたが(滝汗
これは英国面半端ねぇってネタでしたが。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
次回もよろしくお願いします!
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