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第二章『生き写しの少女とゴーストの未練』
一章-7
しおりを挟む7
西門に続く街道から、ザワザワと枝葉が擦れるような音に混じって、ズシンという振動が伝わって来た。
民兵や傭兵たちが一斉に剣や槍を構え、魔物の来襲に備え始めた。
「総員、構えっ!」
遅れて号令がかかったが、そのときには俺たちも剣を構えていた。
「……クラネスくん。あたし、これでいいの?」
アリオナさんが握っているのは、拳よりも少し小さめの石だ。それを肩から下げた袋に、めいっぱい入れている。
これは、アリオナさんを前線に出さないだめの策だ。
俺たちが前衛で壁とななっているあいだに、アリオナさんが投石で魔物を攻撃する。練習をした限りでは、命中率はそこそこだった。
全力投球さえしなければ、という条件はあるけど。
といっても、アリオナさんの腕力――〈怪力〉と呼ぶべきだろうか――で投げた石は、城塞の壁にめり込むくらいの威力はある。
まともに命中すれば、人間なんかイチコロだ。
俺はアリオナさんに頷きながら、「援護をよろしく」と答えるに留めた。音の大きさからして、魔物はもう間近まで迫っている。
「フレディ、俺たちは前へ出るよ。少しでも、魔物の数を減らさなくちゃ」
「若。ご無理はなさらぬよう、お願い致します」
諭すような口調とは裏腹に、フレディは得物である長剣を抜きながら、俺のあとに続いていた。
昨日の昼間に、樹木の魔物とは交戦済みだ。威力を調節した《力》でも十数体は一気に片付けられる。
城塞の壁付近で照らされた篝火の光で、闇の中にうっすらと、魔物の影が見え始めた。
街道や周囲の木々から、あの樹木の魔物の大軍が現れていた。どの魔物も昨日と同じような姿形をしていることから、ある意味では量産タイプなのかもしれない。さらに街道には、二つの大きな影が動いていた。
背の高さは、四ミクン(約三メートル九二センチ)以上もある。大きな岩を三つ重ねたような胴体に、手足は胴体よりも小振りな岩を四つ連結させた外見をしていた。
樹木に、岩――マルドーって名乗ったゴーストの言ったとおりの魔物たちだ。
俺は民兵の先頭に出ると、長剣の刀身を指で弾いた。
範囲を広く取った、〈固有振動数の指定〉による先制攻撃だ。岩のほうはともかく、樹木の魔物は昨日、戦ったばかりだ。
そのときに、固有振動数はしっかりと調べさせて貰った。
長剣から発せられた音が、俺の《力》の影響で、その振動数が変化していく。その音波を喰らった、俺の正面にある森から左側の街道にかけて進軍していた樹木の魔物たちが、一斉に崩れ落ちた。
これでざっと、三〇体は斃せたはずだ。
街道の反対側は、傭兵たちの隊だ。樹木の魔物程度なら、なんとか凌げると思いたい。
こっちだって、まだ樹木の魔物が全滅したわけじゃない。それに岩の魔物も迫って来てるから、傭兵のほうまで手が回らない。
そんなとき、城塞から岩の魔物への攻撃が始まった。歩兵の弓ではなくバリスタというのが、何度も戦ってきているんだと実感させた。
バリスタの矢を受けた岩の魔物は、その瞬間は仰け反ったものの、すぐに姿勢を取り戻して、城塞へと迫ってくる。
俺とフレディは、白兵の間合いに突っ込んできた樹木の魔物を切り伏せながら、民兵たちの前へと出た。
数は多いが、フレディに比べれば動きも緩慢で、大した強さはない。二体を切り伏せた俺の元へ、三隊同時に樹木の魔物が迫って来た。
一歩だけ退いて攻撃のタイミングを計ったとき、一番右側にいた魔物の同隊に、石がめり込んだ。
勢いに負けて、魔物が後ろに倒れていった。そのまま起き上がろうとした瞬間、樹木の魔物の胴体が真っ二つになった。どうやら、石がめり込んだ場所から、裂けたらしい。
この石は、間違いなくアリオナさんだ。
流石、元副委員長――初陣なのに冷静で、状況判断が的確だ。
背後へ向けた左手で親指を立ててから、俺は一歩前にいる一体を三太刀で切り伏せた。
「若――」
フレディが、残りの一体を袈裟斬りにしてくれた。
樹木の魔物は固いのに、それを一太刀か……こういうところで、実力の隔たりを強く感じてしまう。
それはともかく、これで《力》を使う余裕ができた。
二回目の〈固有振動数の指定〉による音波攻撃で、こっち側にいた樹木の魔物は、ほぼ駆逐し終えた。
「凄い……」
やっと一体目の樹木の魔物を斃したメリィさんが、俺たちの戦いを見て、ちょっと唖然としてた。
それでも、ほかの民兵よりも剣技は数段は上だ。
「うわあああっ!」
生き残った樹木の魔物に圧された民兵の悲鳴に、俺はすぐに駆け寄った。
中年の民兵に尖った枝葉を突き刺そうとした魔物の腹を蹴り、民兵から離した。
ズシン!
地を揺るがす音を立てながら、岩の魔物が接近していた。
身体の至る所にバリスタの矢を受けた二体の魔物は、しかし怯むような感じはまったくない。
ある種、機械的な――もちろん比喩だけど――動きで、真っ直ぐにこっちへ向かってきていた。
先頭の一体が、俺の目前まで迫っていた。右腕の付け根の岩と、左胸……でいいのか、真ん中の岩の左側に、バリスタの矢が刺さっているヤツだ。
「みんな、逃げて下さい!」
俺は近くの民兵に告げると、接近しつつある岩の魔物に、刀身を指で鳴らしながら《力》を放った。
俺の〈固有振動数の指定〉は、破壊しようとする対象の固有振動数を、予め調べておく必要がある。
俺は刀身を弾きながら、放っている音の固有振動数を小刻みに変えていく。岩や鉱石の固有振動数は、ある程度なら試している。そこから試して、あとは手探りだ。
十数回目の挑戦で、岩の魔物に変化が現れた。
バリスタの矢が突き刺さった箇所の亀裂が、一気に広がった。左胸はともかく、これで右腕が根元から落ちてくれた。
「……よし、いいぞ」
固有振動数がわかれば、こっちのものだ。こんな岩の塊みたいな魔物、長剣だけじゃ歯が立たない。
だけど、魔物のほうも俺を攻撃出来る間合いに入っていた。残った左腕が、大降りに振り下ろされた。
「――っと!」
俺が後ろに跳んだが、腕は俺の動きに追従してきた。
……これは、ヤバイ!
岩の魔物の拳が、もの凄い勢いで迫って来た――ところで、巨大な影が拳を打ち返した。
「このぉぉぉっ!」
アリオナさんが、先ほど落ちた岩の魔物の右腕を構え直した。どうやら、魔物の左腕を打ち返したのは、アリオナさんの仕業らしい。
彼女に感謝しつつ、俺はもう一度、今度は〈音量強化〉と併せて、〈固有振動数の指定〉の音撃を放った。
目の前にいた岩の魔物は、左胸の亀裂から大きく崩れ出し、上半身ごと地面に落下した。
「おおーっ!!」
民兵たちからの歓声が上がる中、俺はもう一体の岩の魔物を探した。
もう一体は、傭兵たちが相手をしていた。刃のある武器では無く、長柄の鈍器で魔物の脚部を叩く中、一人の傭兵が振り下ろされたばかりの魔物の右腕を駆け上がった。
「やれ、クレイシー!」
「次で決めろよ!」
傭兵たちからの声援を受けながら、傭兵は右腕と肩の隙間に長剣を差し込んだ。
その直後、何かが光ったと同時に、右腕が身体から崩れ落ちた。傭兵は器用に魔物の本体に飛び移ると、今度は一番上の岩――頭部か?――と、胴体との隙間に、長剣を差し込んだ。
また、連結部で光が灯った。
「おっと」
傭兵が身を仰け反ったあと、魔物の頭部(?)が胴体から落ちていった。
「お? おおっと――っと!」
傭兵はふらつきながら倒れる魔物の胴体にしがみつくと、地面に落ちる直前に、ひょいっと飛び降りた。
今度は、傭兵側のほうから歓声があがった。
「えっと、これで終わり?」
まだ魔物の右腕を持ち上げているアリオナさんが、辺りを見回しながら訊いてきた――のはいいんだけど、自分の身長の二倍くらいある、串状に連なった岩を持ち上げている姿に、周囲の民兵がドン引きしてますが。
アリオナさんが右腕を放したとき、傭兵の一人が近寄ってきた。
「やるじゃねえか、あんたら」
声をかけてきたのは、あの給仕の女性を詰っていた傭兵だ。
「まさか俺以外で、岩の化け物を斃せるヤツがいるなんてな。腕の立つヤツは、誰であろうと大歓迎だ。俺の名は、クレイシー・エイ……ああ、家名はもうないんだった。ああっと、クレイシーでいい。誕生日は、一月一日だ。よろしく頼むぜ」
自己紹介に誕生日まで言ってくるのは……かなり珍しいパターンだ。誕生日が目出度い日だから、覚えやすいけどさ。
俺は鷹揚に肩を竦めてから、クレイシーに会釈した。
「それは、どうも。岩の魔物を斃したって……あの、光ったやつですか?」
「ああ……ま、なにをどうやったかは、内緒だ。おまえさんたちが、どうやって斃したかも、聞く気はねぇしな。そっちはそっちで、秘密なんだろ? じゃないと、稼げないからなぁ」
「いや、俺たちは傭兵や冒険者じゃないから……」
クレイシーと名乗った傭兵は、俺の返答を聞かずに、踵を返した。
「じゃあな、また」
クレイシーが立ち去ったあと、メリィさんが俺とアリオナさんに近寄って来た。
「あなたたち……一体、何者なの?」
その問いに答えるのは、ちょっと難しい。
俺とアリオナさんは、メリィさんへの返答を先送りにした。そのまま元の布陣位置へと戻った俺たちは、眠気と戦いながら、言葉も少なく身を寄せ合った。
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