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第二章『生き写しの少女とゴーストの未練』
三章-2
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日が傾きかけたころに街へと戻った俺たちは、早めの食事を摂ることにした。
具材が乏しいから、干し肉と粉末状のマスタードをパンに挟んだものしか作れないけど、それでも配給の食事よりはマシなようで、アリオナさんやメリィさんだけでなく、何故か傭兵のクレイシーまでもが、手製のサンドを食べている。
「それじゃあ、また夜に」
簡単サンドを頬張りながら、クレイシーは去って行った。
くそ……なんか、無銭飲食された気分。
マルドーもエリーさんの猫、マースから抜け出し、どこかへ行ってしまった。
調査のこととか話し合いをするのが定石なんだろうけど、今は好都合だ。マルドーがいると、できない話があるからだ。
簡単サンドを食べながら、俺たちは厨房馬車の脇で車座になった。調査のことについての話し合いで、俺はフミンキーと名乗る〝声〟が告げた内容を皆に伝えた。
「マルドーが、死霊術師……?」
メリィさんが絶句したあと、エリーさんは黙ってしまった。その一方で、アリオナさんやフレディは、死霊術師という単語を聞いて、顔に嫌悪感を滲ませていた。
「ねえ、クラネスくん。やっぱり、あたしたちは騙されていた……のかな?」
「そう考えるのは、早計だけどね。まだ情報が少ないし……どっちが正しいか結論なんか、出せないよ」
これはアリオナさんへの返答だったけど、エリーさんが先に口を開いた。
「ええ、わたくしも同意見です。マルドーさんが死霊術師かどうか、それだけでも確かめたいですわね。わたくしたちが騙されているかどうかも、そこで明るみになるでしょうから」
「でも、お嬢様。彼が素直に教えてくれるとは、とても思えません。こちらから先手を打つべきです」
「焦ってはだめよ、メリィ。遺跡の声が、嘘を言っているかもしえないのに。早まってマルドーさんを斃してしまったら、それこそ敵の思う壺よ?」
エリーさんに窘められ、メリィさんは短い謝罪をしてから、俺たちに頭を下げた。どうやら先走ったことへの詫びということらしいけど……こういう所作と価値観は、傭兵というよりも領主に仕える近衛兵のようだ。
俺は『気にしないで』という意味で、小さく手を振った。
「……どっちにしても声の主がいる遺跡には、また行ったほうが良さそうですね。今度は、マルドー抜きで」
「しかし若。彼に来るなと告げては、怪しまれるでしょう。どのような説得を致しましょうか?」
「……それが問題なんだけどね」
こんな眠気の残った頭で、そんなことまで考えていられない。膝の腕で頬杖をつきながら言い訳を考えていると、エリーさんが短い声をあげた。
「あ――あ、あ、思い出しました。マルドーさんは星座の描かれた柱を見て、なにかを思い出していましたわ。あの星座のことを思い出して欲しいというのは、如何でしょうか? 今はゴーストになっているとはいえ、魔術師ですもの。今では星占い程度しか、魔術としての役割はありません。ですが五〇〇年前では、あの星座には重要な意味があったのかもしれませんし」
「なるほど……いい考えかもしれませんね」
マルドーは街、もしくは彼の自宅に置いていけるし、もしかしたら星座の謎も解いてくれるかもしれない。
一石二鳥な案かもしれない――上手くいけば、ではあるけど。でも、今の状況で浮かぶ案としては、最上級の部類じゃなかろうか。
でも……そういうエリーさんにも、俺は違和感を抱いていた。
俺が違和感の正体を考えていると、フレディが悩むような顔をエリーさんへと向けた。
「エリー殿は、魔術に詳しいのですか? 星座が占いしか使えないとか、一般では知り得ないことだと思われますが」
……そうか。違和感の正体は、これだ。フレディの問いに、エリーさんは少し困った顔をして――そしてメリィさんは、頭を抱えるような仕草をしていた。
それも数秒で復活すると、少々引きつった顔を上げた。
「あの、これはその……お嬢様は占いに興味がおありで……その、街の星占い師に将来のことを占ってもらったりしていましたから――」
「メリィ?」
エリーさんは、必死に言い訳をしていたメリィさんの言葉を遮ると、俺たちに頭を下げた。
「今まで、黙っていて申し訳ありません。そちらの方のご推察通り、わたくしは魔術師なんですの」
「魔術師……だったんですか」
俺と、俺の声を聞いてエリーさんが魔術師と知ったアリオナさんは、少し苦い顔となった。
まだ最近のことになるんだけど……アリオナさんの住んでいた村を滅ぼしたり、アリオナさんを誘拐した山賊団の首領が、女性の魔術師だった。
そんなこともあって、まだ魔術師に対する印象は最悪に近い状況だ。
「どうして魔術師であることを隠していたのか……聞いても大丈夫ですか?」
「それは――」
「それは! その……ここでは、お話することはできません」
メリィさんはエリーさんを目で制しながら、きっぱりと言い切った。
「わたしたちにも、それなりの事情があるんです。どうか、御理解をお願いします」
「それなら、それで構いませんよ。無理に聞き出すつもりもありませんから。でも、今回の件を解決するために、ある程度の助言はして頂きたいです。それは、構いませんか?」
「……そうですよね。ええ、それくらいなら、構いません」
エリーさんは少し迷ってから、小さく頷いた。
とにかくこれでマルドーがいなくても、魔術についての助言が貰えそうだ。あとは夕暮れを待って、マルドーに星座のことを調べるよう依頼。
襲撃をちゃっちゃと撃退し、あの遺跡へ行く――そこで声の主から、なにを聞かされることになるのか。
そこで解散となり、俺は一眠りするべく厨房馬車に入ろうとした。だけど、その直前に腕を強く掴まれた。
振り返ると眠そうな顔のアリオナさんが、真っ直ぐに俺を見ていた。
「クラネスくん……少し、いい?」
「いいけど……どうしたの?」
「……最近、エリー……さんとか、ほかの女の子とばかり、仲良くしてない?」
一瞬、なにを言われたのかわからなかった。
エリーさんと、必要以上に仲良くしたつもりはないけど――そんな返答をしようとしたんだけど、その直前に気付いてしまった。
――もしかして、アリオナさんは嫉妬してるんじゃ。
ここ数日、夜は戦いで昼間は仮眠って生活が続いている。仮眠じゃないときは、調査か話し合いだ。
アリオナさんとは、あまり話をしていなかったかもしれない。逆に、エリーさんやメリィさんとは、打ち合わせや調査についての話をすることが増えた。
きっと、疎外感とかあったんだろう……な。
俺の中に、焦りと罪悪感とが湧き上がった。
「あ、いや――必要な話をしてるだけで、仲良くしてるつもりは……」
「……本当に?」
「ホントにホント。俺はちゃんと――」
そこまで言いかけて、俺は口を閉ざした。
つい勢いで、「俺が好きなのはアリオナさんだから」って、言いそうになってしまった。
前回の事件で、それに近い発言を聞かれてしまったわけだけど、まだ直接には伝えていないし、ギリギリの線で、俺の借金や諸々のことに、アリオナさんを巻き込んでいない……と思う。
俺は咳払いっぽく誤魔化すと、アリオナさんに手を差し出した。
「もし良かったら、少し話す? その、償いってわけじゃないけど……言われてみれば、ここ最近はまともに話もできてないから」
そんな誘いに、アリオナさんは上目遣いになりながら、俺の手を取った。
「喋る」
あ、少し拗ねていらっしゃる。
少し固い口調のアリオナさんは、俺のあとについて厨房馬車に入って来た。
会話は他愛も無いことばかりだったけど、久しぶりに穏やかな時間を過ごしていた。
厨房馬車に入って行くクラネスとアリオナを、物陰から診ている男がいた。
口元に面白そうな笑みを浮かべた男――クレイシーは腕を組みながら、しみじみ呟いた。
「うーん、青春だねぇ」
一通りエリーやフレディたちの所在や行動を伺ってから、クレイシーは静かに立ち去っていった。
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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。
今回のクラネスたちの集団は、一枚岩ではないため、行動を決めるのも、ちょっと苦労してる感じが……でてるといいんですが(汗
星座というのは、刻が経つにつれ変わっていくものですが……五〇〇年でそこまで変わるかと言われれば、どーなんでしょーねとしか、まだ言えません。
今回はエリーの設定を出すための回……という感じです。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
次回も宜しくお願いします!
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